どうやら我が妹は想像以上にたくましい妹だったらしいです。
さて、咲さんに『二度と風呂場に近寄らないこと! いいわね!』と凄まれた僕は、しぶしぶいつもの銭湯に行き風呂を済ませてまいりました。
いやはや、肉体的指導じゃなくて本当に良かったと思っております。まぁ僕あんまり悪いことしてないんですけどね。はい。
「ただいまー……」
例によって銭湯にて盗撮されまくった僕は、精神的な疲れと共に早乙女家の玄関をくぐると。
「おかえり」
「うおお、びっくりした。なんだ咲か、おどかすなよ」
誰が見てもわかるくらいに仏頂面の咲が出迎えてくれました。
あの、咲さん? お客様を出迎えるときは、もう少しだけ笑顔でいた方がいいと思うのですが。思わず回れ右して帰っちゃうところでございました。
「別におどかしてなんかないんだけど」
「いや、その仏頂面で何を言いますか」
「……仏頂面の原因は誰だと思う?」
ごめんなさい、僕ですよね。
「ま、いいわ。それで? あんた銭湯行ってきたの?」
「まぁ僕を風呂に入れてくれる親切な人と言ったら銭湯のおっちゃんしかないし」
「……目の前にもいるじゃない」
「はい?」
「別になんでもいいけど。あ、そうだ春。アンタね、今度からあたしが怒ったときに言ったことは真に受けちゃ駄目だからね。わかった?」
「……は、え? ドユコト?」
言葉の意味がわからずに首を捻ると、咲は呆れたようにため息をつき「あんたは真面目すぎよ、ばかね」と舌を出して家の中へ駆け込んでいってしまった。
「え、えぇー……?」
その場に一人残された僕は、更に頭を悩ませるのであった。
結局『今度咲が怒ったときは、コメディーノリで済ませよう』という結論に至った僕は、何事も無かったかのように早乙女家に上がると、居間に集合していた皆に混ざりテレビを眺めていた。
その後は特に何事もなく、気付いてみると時刻は午後10時。良い子はもう寝る時間である。
「もう10時かー、くるみもそろそろ寝……てんのな、既に」
「あ。はい、気付いたら寝ちゃってました」
時計に目をやってから、くるみの方を見てみると、くるみは既に田中さんの膝を枕にしてぐっすり。
まぁ、くるみはあんまり夜更かしできないからな。
「まぁちょうどいいか。咲? くるみも寝たことだし、僕もそろそろ寝ようと思うんだが」
今日はいろいろと疲れたし! ……サラダさんのおかげでな!
「あ。それなら、わたしもそろそろ寝ようかと」
「なによ? あんた達って結構早寝なの?」
自分以外がすっかりお休みモードになり、少々面食らった様子の咲。
「くるみはともかく、僕達はいつもこのくらいだよな?」
「そうですねー、朝はいろいろと忙しいですし」
「へぇ。ま、いいわ。とりあえず客間に布団敷いてあるからついてきて、案内するから」
そう言って立ち上がり、居間を出て行く咲の後に僕達は続いた。
ちなみに移動中、くるみを抱えているのは田中さんだ。
ここは男手の僕が抱えていこうと思ったのだが、田中さんがどうしてもというので大人しく譲ってあげることに。
「えへへ、くるみちゃんはあったかいですねー」
小声で言いながら、可愛らしい微笑みを浮かべる田中さん。
「どうせなら抱いて寝てやれよ。そしたら夜泣きなんて絶対しないと思うし」
「そうですね。それじゃ、お言葉に甘えちゃいます」
「よかったなー、くるみー。おにーちゃんはマジで羨ま……ん?」
ふと、くるみの頭を撫でてやろうと伸ばした手をピタリと止める。
「……? どうかしましたか、真鍋さん?」
「あ、あぁ。いや、別に?」
そんな僕を見て、田中さんは不思議そうに首をかしげた。
「まぁ、ちょっとな」
そう言いながら、今度こそくるみの頭を撫でてやった。
……ったく、くるみのヤツ絶対起きてるな。誰かに抱っこされたくて寝たフリをするなんて、なんという策士。
見てくださいよ、くるみのこの幸せそうな笑顔を。
最初は咲の話を聞いて心配していたのだが、どうやら我が妹は想像以上にたくましい妹だったらしいです。
「さぁ、着いたわよ。今日はここで寝るの」
咲に案内された客間には、ご丁寧にぴったりと敷き詰められた四つの布団。
……あ、あの。なんか布団が一つ余分な気が。
「ちなみに寝るときの並びは、右から春、あたし、くるみちゃん、美晴ね」
「ちょっと待て! なんで咲までここで寝るんだよ!?」
「なによ、あたしだけハブくつもり?」
いやそういうつもりで言ったんじゃないけど。
「って言うか、あたしはただ見張ってるだけだから。あんたが美晴にやらしいことしないように、ね?」
「やらしいことなんて誰がするか! しねーから、見張りなんていらんわ!」
「じゃ、おやすみー。あたし電気消してくるからー」
聞いてくださいよ咲さん!?




