泣きすぎだろ田中さん!?
「始めまして真鍋春さん! わたし真鍋さんと同じクラスの田中美晴と言います!」
「同じクラスの田中さんねぇ」
んなこと言われても、正直学校ってあんま好きじゃないし。まだクラスの顔と名前が一致してないんだよね。
しかし、田中美晴さんかぁ。黒髪ロングぱっつん。白い肌にやわらかい印象の大きな瞳。まさに和風美人って感じですな。胸、控えめなのがとても残念だ。
「胸さえあれば和服似合っただろーに」
「はい? なにか言いました?」
「イエ別ニ。それよりなんで僕の名前知ってんの?」
「知ってるも何も、ウチのクラスで真鍋さんを知らない人は……」
「あぁうん、そりゃそうだよね」
そうそう忘れてた。
学校じゃ僕はちょっとした有名人だったよ、照れるねホント。
「僕は『おかま』で有名だもんね、知ってて当然か」
僕はちょっとした有名人。悪い意味で。
きっとこの田中さんとやらもそんな僕をからかいにきたのだ。そうに違いない。
やられる前にやる、ということで少し嫌味っぽく言うと田中さんはしゅんと俯いてしまった。
「そんな、あの。わたしそんなつもりで、言ったんじゃないです。ごめんなさい」
「あれ?」
あれれ? なにその反応? アンタ、悪い意味で有名な僕のことからかいに来たんじゃないの?
だから少し攻める様に言ったんだけど、あれ? もしかして僕の勘違い?
「あの、こっちこそ悪かった。って」
「うっ、ぐず。ごめんなざ、ううっ」
ちょっとちょっとちょっと!? なに泣いてんの田中さん!?
あぁそうなの! わかったわかった理解した! 田中さんは普通に、クラスメイトとして話しかけてきたってことですね!?
「あー おねーちゃんがきれいなおねーちゃんなかせたー」
うるさいよくるみさん。そんな良い子ぶったガキんちょみたいなこと言わんでくれ。
てか『きれいなおねーちゃん』て。否定せんけど。
「いや、えっと! 田中さん! こっちこそ悪かった! てっきり僕のことからかいにきたんだって勘違いして!」
「ぞんなごどないでずよぅ。ずび、わだしっ。ずずっ」
泣きすぎだろ田中さん!? 僕悪口とか言ってねーのに!
「おねーちゃん」
待て待てくるみ! なんだそのうわコイツやっちゃったね、みたいな目は!? そんな冷めた視線をおにーちゃんに向けるな!
「ぐすっ、うぅ」
あのね田中さん。泣きたいのはこっちなんよ。
アンタが泣き止んでくれないと、妹の信頼が地の果てまで落ちていくんだわ。
「えっと。その、だから」
だから、な?
「えぐえぐ」
お願いだから泣き止んでください。
その日。僕が見た夢は、少し懐かしい思い出話だった。
昔から、鏡に映る姿は美少女だった。
まぁ良く言えばね。だが汚く言い換えればこうだ。それはだたのおかまだと。
小学四年生の頃だったか、クラス代表のいじめっ子に女と言われた。
は? バカじゃねーの? ちゃんとつくもんついてんだろ?
そう言い返すと、いじめっ子は言った。じゃあお前はおかまだと。
安直すぎじゃね? 笑っちまうよな?
その日は笑い飛ばしてやった。だけど次の日からは笑い飛ばせなかった。
皆が口を揃えて、僕のことをおかまと呼ぶのだ。
昨日まで仲の良かった奴、昨日まで話したことも無かった奴、隣のクラスの知らない奴。
ハハッ、なんだよお前等。いじめっ子の受け売りか?
そんな威勢の良いことは言えなかった。
その後しばらくおかまと言われ続けた僕は、勇気を振り絞っていじめっ子に復讐をする。
とは言っても正々堂々殴り合いをしましょう、というわかりやすくて素直な復讐だ。暴力万歳。
ま、負けたんだけどね。伊達にクラス代表のいじめっ子を名乗って無かったんだわアイツ。
それでもアイツはこう言った。お前は強いからおかまじゃねー、ってさ。
気付くの遅ぇっての。お前が気付かない間、僕がどれだけ悔し涙を流したことか。まぁいいけど。お前がクラス代表のいじめっ子だったから、その後のことは綺麗に収まったんだし。
クラス代表のいじめっ子がアイツはおかまじゃない、と言い張ったから皆がアイツはおかまじゃないって納得したんだ。
事件の発端は確実にお前だったけど、あの時はありがたかったよ。
それからは平和だった。
中学に上がってからも、慣れ親しんだ顔馴染みのおかげで同じような事件は起こらなかった。
それなのに、なんで。
中学三年に進級する。そんな時期に転校って、バッカじゃねーの?
そんな馬鹿けたオチの、思い出話。




