付き合いの長さと絆の深さは反比例なんです。
時として男は無力である。by真鍋春。
目の前の光景を眺めながら、ふとそんな言葉をひらめいた。
「いいですか? わたしはくるみちゃんと銭湯に行って背中を流しあうほどの関係なのです。これを家族と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょうか?」
「知らないわよ。それを言うならあたしだってくるみちゃんと一緒にお風呂入ってるんだから」
「そうなんですか、ではお風呂の件はおあいこと言うことですね。あ、そういえばわたしがくるみちゃんと初めて出会った夜は、綺麗な星空を見上げながら一晩中語り合い、仲を深めたことがあります。早乙女さんにはそんな経験無いでしょうね……」
長々と過去最長の台詞を言い終えた田中さんは、どこか遠くの空を眺めるように目を細めてほくそ笑んだ。
いやここ室内だから。
「あるわよそんなことくらい! くるみちゃんがウチに住み始めた初日、一晩中おしゃべりしてたわ!」
「へぇ、そうなんですか。暗い室内で延々とおしゃべりしてたんですね羨ましいです。あぁそれにしても、くるみちゃんと一緒に眺めた壮大な星空はとても綺麗でしたね……」
「ちょ!? いいじゃない暗い室内でも! なによその勝ち誇った顔は!?」
「えへへ、別に勝ち誇った顔なんてしてませんよ?」
「してるわよ! っていうか、くるみちゃんとの付き合いはあたしの方がずっと長いんだから!」
「付き合いの長さと絆の深さは反比例なんです」
とって付けたようなキメ台詞を言い終えた田中さんが、えっへんと胸を張る。
「うぐっ……そんなことくらいわかってるけど」
おぉ、めずらしく咲さんが押されていますな。
……というかこのやりとりはいつまで続くのか。
言い合いを始めて早5分が経過しているのだが、彼女たちはどちらがよりくるみとの仲が良いかを競い合っているだけで、田中さんが今晩泊めてもらえるのかという話は全く進んでいない。
しかし。
「あ、あのー……」
「アンタは黙ってて!」
「真鍋さんは口を挟まないでください!」
「……ハイ」
少しでも口を挟むと、このように怒られてしまうので言い争いを止めることが出来ません。
つか、この二人息ぴったりで怖えぇよ。
「あー おねーちゃんだー」
結局なにも出来ないまま二人の言い合いを眺めていた僕の元に、のんきな顔をしたくるみがてけてけやってきた。
「おっ、くるみ! 喜ぶが良い、今日はおにーちゃんが遊びにきてやったぞ!」
「ほんと!? やったー!」
「ちなみに田中さんも一緒なんだが、あいにく今は取り込んでてな。まぁ田中さんと咲はほっといて僕達は居間で遊んでようぜ」
「みはるおねーちゃんもいるんだ!」
ちらりと僕の背後で言い争いを繰り広げている田中さんを確認したくるみは、かなりご機嫌な様子でけらけら笑った。
うむ。くるみのやつ、田中さんが来てくれたことを喜んでいるみたいだな。よかったよかった。
「それじゃー くるみがあんないしてあげるねー」
「おぉ頼もしいなくるみ! おにーちゃんはどこまでも着いていくぞ!」
ホントは案内されなくとも、家の中がどうなっているか知ってるんだけどね。
しかしせっかくくるみが案内してくれると言うのだ。ここは大人しく案内されようではないか。
「ねー おねーちゃん?」
僕を居間まで案内している途中、くるみが歩みを止めてこちらに振り返った。
「ん、どした?」
「なんでみはるおねーちゃんとさきおねーちゃんはけんかしてたの?」
「……あぁー」
僕にもよくわかんねぇっす。




