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世の中、そんなに上手くできてないんだよなぁ。

商店街で可愛らしいクマのぬいぐるみを購入した僕達は、すっかり第二の家となった橋下へと続く土手を歩いていた。


「それにしても、今晩は女子だけで一夜を過ごすんですよね。ちょっと危ない気もします」


河原で黙々とスクワットにいそしんでいるサラダさんが遠目に見えてきた時、田中さんがそんなことを呟いた。

てかサラダさん。頼むからそんな目立つところでスクワットしないでくれ。


「っはっはっは。なにを言っているんだ田中さん、女の子一人と野蛮人一人の間違いだろう?」

「あの……野蛮人ってサラさんのことですか?」

「他に誰が?」

「ほ、ほかにもなにもっ、サラさんは野蛮人じゃありませんよ!」


いやいや、河原で黙々とスクワットをしているいかついネーチャンが野蛮人以外の何に見えると言いますか。

見てくださいよ、なんかもぉ背中から禍々しいオーラが溢れまくっているではありませんか。通行人の皆さんが驚いて凝視しちゃってますよ。


「サラさんは優しい人なんです!」

「うぐっ。確かにまぁ、根はいい人だってことくらいわかってるけどさ」


普段はおっとりさんの田中さんに一括され、思わずたじろぐ。


ううむ。田中さんは友達のことを悪く言われると過剰に反応してしまうらしいな。

僕の場合は愛情表現のつもりなのだが、仕方ない。これからはオブラートに包みながらサラダさんをからかうことにしよう。


「そ、それで話戻すけどさ。今晩くらいは大丈夫だろ? どんな不審者が来たとしても、あのサラダさんが居れば撃退できるし」

「そう言われてみればそうですけど……」

「なんか不満そうな顔してるな?」


僕の返事に浮かない様子だったので、どうしたのか訊ねてみると。


「……はい。やっぱりくるみちゃんの事が気になりまして」


そう言ってしゅんと俯いてしまった。


くるみの事か……さっきはわざとらしく褒めてごまかしておいたが、やはりプレゼントだけでは心配なのだろう。

それでも、よほどのことがない限り彼女を早乙女家に連れて行く事はできないんだよなぁ。

だから田中さんには悪いけど、今日のところは諦めてもらうしか方法はないのだ。


そう、よほどのことがない限り。


よほどのことと言えば、そうだな。

例えばタイミング良くサラダさんに緊急事態が起こって、今晩はサラダさんが橋下に居ない状況になるとか。

いくら一ヶ月の間、路頭生活を送っていたベテランとはいえ、田中さん一人を橋下に置いておく訳には行かないので必然的に彼女もどこか安全に過ごせる場所が必要となる。

そうなれば田中さんを早乙女家に連れて行くための理由ができ、めでたく田中さんは早乙女家にお泊りすることが出来るのだが。


「世の中、そんなに上手くできてないんだよなぁ」

「え? なんの話ですか?」

「あぁいや、なんでもない。ちょっとあり得ない想像をしてて……」

「あり得ない想像、ですか?」

「いやいや! なんでもないから! ホラ、サラダさんが暇そうにしてるし早く帰ろう!」

「えっ? あ、待ってくださいよ!?」


あり得ない想像とは? と言いたげな視線を向けてくる田中さんから視線を外し、せっせと歩き出す。


あんまり都合の良いことばかり考えていても仕方ないからな。

ごめんよ田中さん。くるみのことは僕が責任を持ってなんとかするから、だから今晩だけは我慢しててください。



「サラさーんっ、ただいまでーす」

「おいサラダさん。いい加減にスクワットやめろ、ご近所の皆さんがどん引きしてるぞ」

「む! ようやく戻ってきたか!」


そんなこんなで僕達が河原にやってくると、珍しく慌てた様子のサラダさんがこちらに駆けてきた。


「大変だぞハル、ミハル! ついさっき、鳥がカラスの軍団にさらわれていったぞ! 私は飼い主として鳥を捜しに行くから今日は戻らない! 留守を頼む!」

「えっ、ちょ!?」


そして手短に状況を説明した後、サラダさんは土手の方へ颯爽と走り去っていった。

えっと……これはまさかの『よほどのことが起こった』ってことですか?


「真鍋さん、わたし今晩一人で過ごすんですか?」

「い、いや、それはだな……」


……そうだな。案外世の中は、上手くできているっぽいです。


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