……アンタと銭湯の裏になにがあるのよ。
「こんばんわー」
「咲ー? くるみ連れてきたぞー?」
商店街を抜けたすぐの住宅街。
他の家より一回り大きい二階建ての家が早乙女家である。
「はいはーい! あ、くるみちゃん! 久しぶりー!」
玄関を開けたのは由紀さん。咲の母親だった。
「ゆきおばちゃん!」
「うっ、おば……」
ちなみに由紀さんはおばちゃんと呼ばれるのが嫌いらしい。
「もうそんな歳なのね、おばちゃんかぁ。ねぇ春ちゃん、私ってそんなに老けてる?」
「いえ全く」
「ひゃっほーい!」
ひゃっほーい! とか言ってる内はまだまだ若いと思います。
玄関先でそんな風に騒いでいると、由紀さんの後ろから咲が顔を出した。
「ちょっと近所迷惑でしょ? なにやって、あ! くるみちゃん来てたんだ!」
「さきおねーちゃん!」
嬉しそうに抱き合う二人。
うむ、絵になる。
「由紀さん、咲。くるみのことよろしくお願いします」
「そんなかしこまらなくてもいいのよ? 私たち家族みたいなもんじゃない」
「そうよ、それよりホントに春はいいの?」
「あぁ。僕はもう少しがんばってみる」
「無理しちゃダメだからね」
「肝に銘じておきます」
「もー ホントにバカね春は」
「うるさいです」
そんな感じで早乙女家に挨拶を済ませた僕は、腰を屈めてくるみに話しかける。
「いいかー あんま迷惑かけんなよー」
「よしなに!」
よしなにて。
「お土産のバナナもちゃんと渡せよ」
「うん。あ、そうだおねーちゃん」
「どうした?」
「みはるおねーちゃんとさらおねーちゃんに、またあそびにいくっていってね」
「あぁ、了解。ちゃんと伝えとくから。んじゃ行ってこい!」
そう言ってくるみの背中を押してやると、てけてけ早乙女家の玄関に入っていった。
「ばいばいおねーちゃん!」
「じゃあなー」
僕に手を振った後、くるみは由紀さんとともに家の中に入っていった。
さて、くるみの面倒も見てもらえることになったし、めでたしめでたし。
あとは両親さえ見つかれば最高なんだけどなぁ。
そんなことを考えながら早乙女家に背を向けたとき、
「そこまで送ってくわ」
「え?」
いつの間にか咲がサンダルを履いて隣に立っていた。
「いやもう遅いし」
「いいじゃない。ホントにそこまでだから」
「そうか? それなら、まぁ」
そんなわけで咲に送ってもらうことに。
「アンタって今どこに住んでるの?」
「今は河原の橋下」
「あんなとこに? お風呂とかどうしてるの?」
「銭湯タダ通い」
「……アンタと銭湯の裏になにがあるのよ」
裏があるのは僕じゃなくて田中さんのほうだけど。
「まぁいろいろあんだよ」
「いろいろねぇ……じゃ、最後の質問」
そう言って咲が立ち止まるので僕も足を止める。
「なんでしょう?」
「さっきくるみちゃんが言ってたことなんだけど」
「くるみが?」
「春……『みはるおねーちゃん』と『さらおねーちゃん』って……誰?」
あ。やべ。




