恋文の力は偉大ですね!
それは放課後のことだった。
田中さんと一緒に帰ろうとして生徒玄関のロッカーを開けるとそこには可愛らしい封筒が。
「田中さん。なんかラブレターっぽいの入ってたんすけど」
「ホントですか!?」
封筒を手に取りつつ報告すると、この上ないテンションで食いついてくる。
流石ロマンチスト。
「これが伏線ってヤツか」
「そそそっ、そうですよ! 早く開けましょうよ真鍋さん! あ、わたしは見ないほうがいいですよね! 大丈夫ですよ。そこはちゃんと配慮して、あとでこっそり見ますから!」
「いや。まず落ち着け」
「は、はい……」
大体ラブレターなんて伝説上の代物。きっと誰かの悪戯とみて間違いないだろう。
「しかしラブレターって明らか悪戯だってわかってんのに、もらってみるとテンション上がるもんだな?」
「恋文の力は偉大ですね!」
恋文……流石ロマンチスト。
よし、田中さんはさておき中身を拝見しましょうか。
『真鍋春さんへ。
大事なお話があります。
放課後、体育館裏で待ってます。
PS,死んでも悔いのない様、遺書でも書いてきて下さい。』
「すごいです! これ悪戯じゃなくて、本物の恋文ですよ! キャー!」
「いやいや!? なんか最後の文章おかしいだろ!? てかあとでこっそり見るんじゃなかったのか!?」
「キャー!」
ヤバイ! なんかキャラ崩壊してんぞ!?
「お、落ち着け田中さん! これはラブレターじゃなくて果たし状だ!」
「キャー! イヤー! わたしもうお邪魔そうなので、お先に失礼しますー!」
そう言い残して、田中さんは去って行った。
「ちょ!? おい! 置いてくなって!」
うぁぁあああ! 田中さんと一緒に下校する予定がぁぁあああああ!
おのれ恋文! お前のせいで僕の幸せが丸潰れだ!
「クソッ! この手紙書いたヤツしばき倒したる!」
手紙のどっかに差出人の名前とかねーかな?
「お。裏になんか書いてあるぞ?」
『 逃 げ た ら コ ロ ス 。 』
「……なん、だ。これ」
やややややばい! 死ぬ! これ書いたヤツ異常だ!
どうする僕、これは体育館裏に行くべきか!? なんか行っても行かなくても殺されそうだ!
「一旦戻ってサラダさんに来てもらうか」
『 逃 げ た ら コ ロ ス 。 』
一旦戻るという行動が逃げるという風にとられてしまったら。僕は死ぬ。
「行きたくねぇ」
『 逃 げ た ら コ ロ ス 。 』
「行きたくねぇよぉおおおおおおおお!」
「うるさいわね。どうしたのよ春?」
「え、咲?」
振り返ると咲がいた。
おぉ丁度いいところに。
咲さんの知力さえあれば、たとえ相手が得体の知れない殺人鬼であろうとサラダさんであろうと敵無しである。
「その手紙がどうかしたの? あ、もしかしてラブレター?」
「ラブレターもらって絶叫するわけねーだろ!」
「そ、それもそうよね。じゃあなに?」
「まぁ説明されるより読んだほうが早いだろ、ホラ」
「どれどれ」と僕から手紙を受け取り内容を黙読する。そして読み終えた咲が顔を上げて一言。
「……春、達者でね!」
「見捨てんな!」




