またやっちゃった?
#朝チュンで始まる物語 ※全年齢
(X企画:発案ジンパパさま、運営とーふさま)
参加させていただきます。よろしくお願いします。
目が覚めると、見知らぬ天井だった。
頭は大きな枕に沈み、手を広げてもベッドの端には辿り着かない。
腕を動かすたび肌がシーツに擦れ、ひんやりと心地良かった。
(ああ、また、やっちゃったの……?)
恐る恐る布団の中を覗くと、服を着ていない。
朧げに思い浮かぶ昨夜の記憶。飲み屋で知り合った若い男と呑んだ、そこまでは覚えている。
お腹が空いて、いい匂いがして、つられるがままに入店して。
カウンターに座った。濃い茶色の板張りの壁には古びた半紙に料理名が書かれてある。オススメは焼き鳥らしかった。
煙で白くなった店内はざわついていて、雰囲気に飲まれるように、焼き鳥とハイボールを注文した。
ハイボールを飲み干したところあたりだったか。
知らない男が話しかけてきた。自分も一人だから話し相手が欲しいのだと言っていた。
だから、話をした。二度と関わることもないだろうから、何のことはない、他愛もない話。
(名前は——何だったかな? 聞いたっけ?)
わからない。わからないけれど、部屋を見渡してもその男の姿は無い。
大きなベッドは、おそらくホテルだろうか。
まだぼんやりとした頭では、状況を整理するのに時間がかかりそうだ。
のそりと起き上がると、一度大きくふらつく。身体がまるで自分のものではないみたいだ。
ベッドの横に脱ぎ捨てられた男物の衣服を広げ、ポケットを探り、財布を開く。
(そうね、フジタさん。そんな名前だった)
財布を握りしめたまま、ペタペタと洗面台へ向かった。鏡を見て、財布から取り出した免許証を見て、同じ顔だと認識した。
途端、膨大な記憶が、高波のように、脳に襲いかかってきた。
仕事中の理不尽な難癖を噛み殺し、大学から始めた慣れない一人暮らしに涙を浮かべたこと。高校の時の彼女との出会いの胸の高鳴りから、中学時代のテニス部初戦敗退の悔しさ。小学生の時のめり込んだゲームをクリアした感動に、それから買ってもらったおもちゃを即日壊して泣き喚いたことまで。
フジタという人間の、生きてきた系譜を、覗いて暴いて。
「あ……あー、ああ、そうだ、俺は昨日会社帰りに呑みたくなって。カウンターで一人呑む女が、妙に気になって、それで」
もう一度、鏡を見る。
戸惑った顔が徐々に不敵な笑顔に変わる。唇をちろりと舐めた舌は、赤い。
寝起きの顔を水で洗い、髭を剃り、髪を軽く撫でつけ整えた。
ベッドに戻り、着たスーツは、この身体に合わせて作られていて、やはりぴったりだ。
いつもどおりの朝支度。終えた時にフジタがよくやる、両頬を叩いて気合いを入れた。
随分と、馴染んだようだ。
ベッドの反対側には、剥いたリンゴの皮のように、萎びたワンピースが残されていた。あの女が好きだったから、よく着たそれにはもう、興味はない。面倒ごとにならないよう、袋に入れて、ゴミ箱へ捨てておく。
ポケットに財布を押し込んで、部屋を出る頃には、もう一切の違和感はなかった。
昨夜のどうしようもない空腹は、綺麗に収まっている。
しばらくは持ちそうだ。
「営業マンか、久しぶりだな。——ごちそうさま」
朝、チュン…………!!(必死)




