激突
──突然、男性の声が聞こえてきた。
頭だけの少女がチラリと、目だけを声のした方へ向けた時──
少女の頭へ、男性の乗っていた自転車が空から強襲し、自転車と共に遠くへ転がっていった。
「うわっ」
そして、少女の頭があった場所へ、男性が転がってきた。
隣に転がってきた男性は、私と同じ、顔を横に向けたうつ伏せの状態で挨拶をしてきた。
「こんばんわ。ハハ、自転車に乗ってたら、派手に転んでしまって…」
「大丈夫ですか?」
「まあ、何とか。でも誰かなあ、道の真ん中に¨変な物¨置いていった人は…」
「…そうですよね。」
「…自転車、大丈夫かなあ、痛ててて…」
「………。」
男性は、ゆっくり起き上がると、少し離れた所へ飛んでいった自転車の所へ歩いていった。
私も立ち上がり、男性の様子を見ていたが、自転車の前タイヤの歪みが酷いようだった。
「ダメだな、これは…」
「酷いですね…」
「仕方ないなあ、引っぱっていくか…じゃあ。」 男性は、片手を小さく挙げて挨拶をすると、ヨタヨタ帰っていった。
「…さて、私も帰ろうかな。」
何か、忘れているような気がしていたが、家に帰ってから思い出す事にする。
服が泥だらけで、体に貼り付く感覚が気持ち悪く、早く家へ帰りたかった。
雨が強くなる中、道をまた戻り、角を曲がって交番の前を過ぎ、家を目指す。
途中、雨に濡れたまま歩く子供とすれ違った。
頭が無かったような気がした。
振り返ると、誰もいなかった。