結末
トイレを済ませ戸を元に戻すと、バイトに遅れそうになり、あわてて部屋を出て行った。
──暫くして、部屋のドアをノックする人影があった。
聞き耳を立て、反応が無いのを確認すると、その場を去っていった。
バイトから帰ってきた時には19時を過ぎていた。
薄暗い部屋をフラフラと進みながら、日が当たらない壁を選んで、バイト先で貰ったポスターを貼った。
水着姿の女性が、片手にビールのジョッキを持って、爽やかに微笑んでいる等身大ポスターである。
………うむ。
綺麗に貼れた事に満足し、部屋の雰囲気が変わったのを感じると、急に眠くなり、そのまま床に倒れるように寝てしまった。
静かな、心地よい時間が過ぎていく──
あの死神の言ったことは、すっかり忘れてしまっていた。
──それから4時間後
そのポスターの女性の目が、辺りの様子を伺うかのように動き、足元の男性を見つけた。
すると、女性の顔から髭がまばらに短く生えてきて、顎の形も男っぽく変わり、胸毛も現れた。
だが、完全に全身を男に変えることは出来なかったようで、腹が中年太りした所で変化が止まった。
「ああ、ココまでか。」
自転車の男は、自分の姿を確認しながら頭をボリボリ掻いた。
「ま、いいか。」
そのままポスターから抜け出して部屋を進み、冷蔵庫を開けた。
そして、中から魚肉ソーセージを数本つかむと床で寝ている男性の所に戻ってきた。
ビールを飲みながら、皮もむかずにソーセージを1本飲み込むと、しゃがんで、男性に顔を近づけた。
「あーあ、幸せそうな顔してるよな。」
男は、ビールを一気に飲み干した。
「こんな、デカいテレビ買ってさ。」
残りのソーセージも飲み込んだ。
「好きに生きられる、っていいよな。」
満足そうな顔をして寝ている男性を、じっと見ていた自転車の男は、イライラしている自分に気がついた。
「……腹が立つ。糞っ」
衝動を止められなくなった男は、寝ている男性を軽々と持ち上げ、ポスターの中へ投げ込んでしまった。
「糞っ、気分が悪い。風呂だ、風呂風呂。」
男は台所へ向かった。
──次の日
この部屋を再び訪れた2人は、ドアに鍵が掛かっていない事に気付き、静かにドアを開けた。
「…こんにちは」
──誰もいないようだった。
靴を脱ぎ、2人は部屋に入った。部屋に不釣り合いなテレビに気を付けながら、奥まで進む。
「…誰もいないね。」
「フフ、押し入れで寝てたりしてね。」
「どうする?姉さん。」
「大家さんにでも…」
¨姉さん¨と呼ばれた女性は、壁に貼られたポスターに、何か違和感を感じた。
海の風景の写真で、手前に¨海の家¨が建っている。
その前の波打ち際で男性が、溺れたのか俯せに倒れていた。
会いに来た、あの男性の顔に似ていた。