新たな生活
その後、あの赤い封筒が無くなった事に気付いたが、残骸から出てきたバッチの事ばかり考えていて、やがて忘れてしまっていた。
残骸を、試しに私が蹴っても何も起こらない。
…大家が蹴った時だけ出てくるのだろうか?
その事を確かめようにも、次月の家賃が払えなければ意味がない。
…頑張らなくては
私は、仕事を探し運良くバイトで働く事ができた。
─そして、家賃を払う日
大家にお金を渡すと、ブツブツ悪態をつきながら、残骸を蹴って出ていった。
すると、またバッチが出てきた。
綺麗なオレンジ色をしていた。
私はバッチ集めが楽しくなって頑張って働くようになり、1年が駆け足で過ぎていった。
──朝
押し入れの寝室から出て、見慣れた部屋を見回す。
その中に、このボロ部屋に不釣り合いなシロモノが、部屋の半分を占有していた。
この1年、頑張って働いて買った最新薄型テレビである。
映像が綺麗で迫力があり、部屋の隅からいつも視ているのだが、何より夜の照明代わりにも役立つ。
冬になれば、暖房器具にもなりそうだ。
──その、薄型に近づき手をのせる。
…壊れないでくれよ。
1年前のまま部屋のドアの所に置かれている残骸に、視線を移した。
大家の蹴りにも耐えてきたその外装には多少埃が被ってはいても、思い出が褪せることはなかった。
…2人は元気だろうか
視線を戻すと、薄型テレビの5cm程の幅の上に、あの死神が座っていた。
「元気ですよ、とっても」
「……何か用ですか?」
「ええ、勿論。私の言った事、覚えていますか?」
「………。」
「本当は、直前まで姿を表す事は無いのですが…」
「それで?」
「…あなたの余命は、あと17時間です。つまり明日午前0時、あなたは死にます。」
「……死因は?」
「窒息死。」
「…他殺?」
「さあ、そこまでは知りません。」
「……。」
「残りの時間を大切に。」
「……。」
私が¨まばたき¨をする一瞬の間に、死神は消えていた。
死神の言葉が本当かどうかは、その時になれば分かる。
…大家の家賃期限の方が恐い
特に気にせず、テレビの電源を入れ、バイトへ出掛ける準備を始めた。
《今朝の特集は¨ユニークペット自慢¨です。中継の利夫さん?》
バイト用の服装に着替え部屋の隅に座ると、前日に買っておいた冷たい弁当を食べ始める。
《……はい、利夫です。今日は、こちらのお宅の猫ちゃん2匹が面白い、と近所で有名だそうで…》
食べ終えた弁当の容器を床に置いて、トイレへ入る。
トイレの戸は、最近また壊れて直していないので、出入りの度に持ち上げて移動させなくてはならない。
少し面倒だが、戸の無いトイレの開放感は体験しないと分からないだろう。
《…まず、こちらの黒猫ちゃん。名前は…¨とみちゃん¨と言いまして、何と計算が出来るのだそうです。》
……いつものヤツか。
《では、飼い主さんお願いします。》
──とみちゃーん
¨1億ひく1はあ?¨
黒猫は、肉球を自分に向け、指を広げたり閉じたりして考えているような仕草を見せていたが、突然キレて、飼い主に頭突きしたあと外へ出て行ってしまった。
《えーと、こちらの茶色の猫ちゃんは、¨りこちゃん¨と言いまして、人の言葉が話せるそうです》
…¨ごはん¨だろう
《では、飼い主さんお願いします。》
──りこちゃーん
¨ごはん¨言ってごらん
¨ごはん¨だよーほらっ
茶猫の¨りこちゃん¨は、キョロキョロと落ち着かない様子だったが、口を開き小さく鳴いた。
「ごっ…ごっ…○○○○」
《…ただいま、不適切な表現が有りました事を、お詫びします。》