表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Kの短編集「SF的箱庭プラス」

タイムトラベラー・パーティ

作者: K
掲載日:2026/03/27


 ある奇妙なパーティが開かれようとしていた。

主催者はユーチューバーのヒロマロ。都内のあるパーティルームを借りて、パーティ参加者を待っていた。


「来ると思う?」


 ユーチューバー仲間の瑞浪花音が部屋に置かれた白いソファでくつろぎながら尋ねた。


「多分誰も来ないだろうな。お菓子とパーティルームに使ったお金は無駄遣いもいいとこやわ」


「しかしヒロマロもおかしなこと考えたねえ。タイムトラベラーの存在を証明するためにパーティを開くなんてさ」


「たまにはこういう酔狂な企画も悪くないだろう?」


 そう。このパーティはタイムトラベラーを招待したものだった。

 ヒロマロがこの計画を考えたのは著名な物理学者のホーキング氏の主宰した同じようなパーティがあったことを知ったからだった。


 そのパーティとはこうだ。

 誰にも知らせずにタイムトラベラーを招待するパーティを開く。そして、後日、招待状を公開するのだ。もし、パーティ会場に誰か来たのなら未来で知った情報をもとに来たことになるので、結果的にその人物はタイムトラベラーだということになるわけだ。

もちろんそのパーティでは誰も来なかった。


 ヒロマロはそのアイデアを採用して、投稿動画のネタにしようとしているのだ。正直、誰か来るとは思わなかった。

 タイムトラベラーなど存在しない。そう思っていたのだが。


 パーティの開始時刻。

 部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「誰だろう?」


「パーティルームの人じゃない?」


 ヒロマロがドアを開けると、そこには一人の男の姿があった。

 歳は30代くらい。すらりとした長身で、黒いコートを羽織り、不健康そうな青白い顔をしている。男の黒い瞳がヒロマロをじろじろと見つめてきた。


「なるほど。君がヒロマロ君か」


 謎の人物にヒロマロは心の中で何だこいつと思った。


「失礼ですが、どちら様ですか?」


「招待してくれたのは君だろう? 私はタイムトラベラーだ」


「はあ!?」


 ヒロマロは面食らって自称タイムトラベラーの男をまじまじと眺めた。

 どこにでもいる普通の人だ。何も変わったところはない。


「まあとりあえず上がって上がって」


 ヒロマロはパーティルームに男を招き入れた。



 ソファに男を残し、部屋の後ろの方で花音と今後のことについて小声で話し合う。


「ねえこの人本当に未来人なの?」


「花音のドッキリじゃないのか?」


「知らないよ、こんな人」


「じゃあ誰なんだ?」


「とりあえず未来から来たっていう証拠を見せてもらったら?」


「そうだな。その流れで行こう」


 これからどうするかを決めた二人は、男とのパーティを楽しむことにした。



「タイムトラベラーさんのことは何て呼べばいいですか?」


 花音が尋ねる。


「私のことはAとでも呼んで欲しい」


「Aさんか。いつの時代から来たんですか?」


「遠い時代から」


「どういう方法でタイムトラベルしてきたんですか?」


「それを教えることはできない。しかし、コロンブスの卵のようなもので原理さえ分かればこの時代の人にだって容易に作れるはずだよ」


「何か未来から来たっていう証拠を見せてもらえませんか?」


「いいだろう」


 A氏はコートのポケットから何か取り出した。


「おっ! 未来のスマホですか?」ヒロマロが身を乗り出す。


「いや、ガラケーだ」


 手に握られていたのは一昔前の携帯電話だった。

 銀色の薄いやつだ。


「なぜにガラケー・・?」


「タイムトラベルするときにスマホのようなタッチ式の画面のものを持っていると、故障してしまうんだ。画面をタップできなくなる。だからガラケーだ」


「で、そのガラケーに何の証拠が?」


「見たまえ。君がネットに公開したタイムトラベラーへの招待状だ」


 小さい画面にヒロマロと花音は目を凝らす。

 そこには荒い写真が表示されていた。パソコンの画面を写した一枚らしく、「タイムトラベラー の皆さんご招待!」という大文字が踊っている。


 A氏は得意げに微笑を浮かべているが、ヒロマロはまだ招待状の内容を考えていなかったので、これが証拠になるのかいまいち分からなかった。


「他に証拠はないんですか?」


 ヒロマロが聞くと、


「ない」


 即答された。


「未来の写真とか見たいなあなんて。ありませんかそういうの?」と、花音。


「そういうものは見せることができない」


「なぜ?」


「過去人が未来の情報を得ると往々にして不幸なことになる。それにその情報を教えたことでどんなバタフライエフェクトが起きるか予想がつかないからだ」


「てことは、未来の情報も教えてもらえなさそうですね。いつ地震が起きるかなんて当てられたら強力な証拠になったのに。残念です」


「ロトシックスの当たりを教えてもらうこともダメかあ」


「無論」


 A氏はガラケーをしまうと、テーブルに並べられたお菓子を眺めると、


「今日はパーティだからもちろん主催者のおごりだね」


「ええ。もうどんどん食べちゃってください」


 A氏は次々とお菓子に手を出し、その味を楽しんでいた。


「この時代のお菓子は美味しいですか?」と、花音。


「美味だよ。およそ平和でないと食べられない味だ」


「平和? 未来では戦争があるんですか?」


「案ずるな。君たちには関係ない時代の話だよ」


「俺のばあちゃんも昔東京の空襲で大変な目にあったって言ってましたよ。親戚や友人がたくさん亡くなったって。平和なのはいいことですよ。まったく」


「タイムトラベルできるってことは恐竜時代になんかに行けちゃったりしますか?」


 ポッキーをかじりながら花音が尋ねる。


「残念ながら私の発明したタイムトラベル装置ではせいぜい100年あたりが限度だから、それは無理なことだな」


「そうなんですか。じゃあウェルズの小説みたいに人類の未来を見に行ったり、ドラえもんみたいに白亜紀ヘは行ったりはできないんですね」


「万能というわけではないからね」


 そうこうしているうちにパーティルームの貸し切り期限の時間になった。

 パーティはおしまいだ。


 部屋を片付ける二人を残し、A氏は先に帰るようだった。

 ドアの前で見送りをするヒロマロと花音。


 最後にA氏はヒロマロと花音の顔を交互に見て、別れの言葉を述べた。


「会えてよかったよ。未来はそんなに悪いところじゃない。だから、必要以上に悲観的にならずに生きたまえ」



 ヒロマロにはA氏が本当にタイムトラベラーだったのか分からなかったが、とりあえず動画の編集を行い、自分のチャンネルで公開した。


 コメントの多くはやらせを疑うものだった。

 無理もない。A氏が未来から来たという証拠はあの招待状だけなのだ。ヒロマロ自身もよく分からないなりに、疑念を募らせていた。


 あの人は本当にタイムトラベラーなのか、ただの愉快犯なのか。その正体は意外なところで判明した。


 パーティが行われてから数日後。

 彼は祖父母の家に遊びにきていた。たわいもない近況報告を交わして、話題はこの前の企画でやってきた謎の男についてになった。


「ほら、この人」


 ヒロマロは動画を祖母に見せた。

 特に何らかの反応を期待したわけでもなかったが、祖母は動画の男を見るなり「え!」と絶句して驚愕の表情を見せた。


「伯父さんじゃない、この人」


 そう呟いた。


 伯父さん・・? ヒロマロは予想外のことに混乱した。

 祖母はアルバムを引っ張り出し、古ぼけた一枚の写真をヒロマロに見せた。


「ほら、これが伯父さんだよ」


「!」


 その写真に写るのは祖母の子供の頃と、そして一緒に写っているのは白黒だが紛れもないA氏の姿だった。

 祖母はこう語った。

 

「おばあちゃんが子供の頃に近所に住んでいたのが伯父さんだったんよ。近所でも変わり者として有名でね、何でもタイムマシンについての研究を行っていたって聞いたよ。空襲の夜、私は学校に避難して何とか無事だったけど、伯父さんはあの日を境に行方不明になってしまって。軍は身元が分からない遺体もそのまま埋めちゃったから、当時は行方不明になった人が大勢出たんよね。それでてっきり亡くなったとばかり・・。そうかい。生きていたんだねえ・・」


 そうか。ヒロマロはA氏の言動に対する違和感が氷解するのを感じた。

 確かに彼はタイムトラベラーとは言っていたが、未来人であるとは一言も言っていなかった。


 いろんな時代を旅しているのだから元々住んでいた時代が過去である可能性もあったわけだ。

 この真相を花音に話すと、


「えっ・・、ていうことは、伯父さんがタイムトラベラーだったってこと? すごい! 本物だったんだ!」


 と、興奮を隠しきれない様子だった。


「まさか身内が正体だったなんてね。もしかしたらヒロマロに一目会っておきたかったのかもしれないね」


「そうだな」


 今伯父さんはどこにいるのだろうか。もうすでにタイムトラベルで別の時間へ飛んでいるのか、それとも・・。


「そうだ。やることがあったわ」


 ヒロマロは思い出したように呟いた。


「何をするの?」


 不思議そうに花音が尋ねる。


「招待状を書くんだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ