噂の怖さ
現在、国は様々な脅威に晒されていた。
魔虫による飢饉、謎の伝染病による人口減少、それらによる戦力減少に伴う魔物の被害の増加、物流の減少、神殿や国の機能の低下。
また、この国の問題が多発してくると、他国への移動も禁止された。
他国としては、自国に問題を持ち込まれたくないからだ。
特に伝染病ともなれは、なおさら。
よってどの国も、難民を受け入れないことを決定し、国同士の移動も禁じたのだ。
そうなれば、ますます国は困窮していく。
人々の不満は止まることを知らず、往来で国への不満を吐いているものさえいる。
そんな中、平民たちの間で様々な噂が飛び交っていた。
「俺たちが苦しんでいるのに、王侯貴族は贅沢をやめない」
「神官だって引き篭もるばかりだ」
「何が神様だ!助けてくれない神なんていらない!」
「上のやつらは、食糧をたくさん蓄えている」
「村を焼いて、住民を皆殺しにした」
「平民を助ける気なんか、もともとなかった」
「俺たちもいずれ殺される」
「黙って殺されるくらいなら……」
初めは一部で囁かれていた噂が、国中に広がるまで時間はかからなかった。
何故か1ヶ月程度で広まった噂は、場所を変えるごとに次第に過激になっていった。
だが不思議なことに、この噂は平民の間でしか知られておらず、王侯貴族神官の誰も知らなかった。
そしてついに決定的なことが起こった。
各地の平民が声を上げ、農具などの武器を掲げて、貴族の屋敷に押し入ったのだ。
屋敷の物は根こそぎ奪われ、壊された。
事を起こした平民は、貴族や貴族の屋敷で働いている人の言葉などに耳を貸さず、赤子から老人まで、全ての人間を殺してしまったのだ。
屋敷の中は、血と狂気が蔓延する場所となった。
成功の実例があると、人のハードルは下がる。
このことがやけに早く国中を駆け巡り、平民による貴族虐殺は誰もが知ることになった。
平民は歓喜の声を上げ、王侯貴族神官は悲鳴の声を上げる。
加速した狂気は、留まるすべなどなかった。
だが、人々は知らなかった。
これが、1人の人間による計画の結果だったなんて。
それを知るのは協力者の男、ただ1人。
「さぁ、もっと恐怖を、絶望を。自分の世界が壊れる気持ちを、ちゃんと知ってね。」
女はひたすら耐えた。
この時のために、耐えて、耐えて、耐え続けた。
もう、誰にも止められない、止まらない。
聖女殺害から始まった、この国を滅ぼす計画。
この先の結末を知るのは、彼女と協力者のみ。
全ては、彼女の手のひらの上に。




