治癒院
聖女が聖女を毒殺した事件は、表に出さずに処理され、人々の記憶からも風化されつつあった。
聖女は2人欠けたため、その分仕事が増えてしまった。
それは、想定内のことなので構わない。
構わないのだが、表向きの能力範囲外のことまで任されるのは、ちょっとどうかと思う。
私は、適度に頑張りつつ、失敗しつつ、仕事をこなしている。
完璧にした方がいい時と、しない方がいい時があるから。
まぁ、私の持論だけど。
今日は、聖女アンネと治癒院に来ている。
これも聖女の仕事の一つ。
魔力による治癒では治らない怪我を治す、と言うのが名目。
実際は聖女の宣伝と、寄付を募るため。
治癒院では、本当に魔力の治癒で治らなかった人と、わざと治さなかった人がいる。
この国で魔力による治癒も聖女の治癒も、神殿の特権だ。
なので治癒院は、神殿が運営している。
つまり、治癒院でもお金を取り、聖女の治癒で寄付金を募る、二重にお金を巻き上げる方法が取られている。
だから、治癒院ではわざと中途半端にしか治さない時があるのだ。
……本当に、人間としてどうかと思う。
治癒院で私は1階、聖女アンネは2階以上を担当している。
聖女アンネは、聖女の中で最も治癒能力が高いからだ。
1階の患者は軽症の人しかいないが、その分人数が毎回多い。
よくこんなに集めたものだ。
1階の治癒が3分の2ほど終わった時、妙に上の階が騒がしくなった。
治癒院が騒がしいのなんていつものことだったので、始めは気にしていなかった。
けれど悲鳴のような声が聞こえて、私は顔を上げた。
1階の患者たちは、不安な様子でキョロキョロしている。
そんな中、神殿騎士が1階に駆け込んで来た。
「聖女ヴィオレッタ!すぐ3階へ!」
「え……あ、はいっ!」
大声で呼ばれて、神殿騎士とともに3階へ駆け上る。
人波をかき分けて近づいていくと、鉄錆の血の匂いがした。
ここまで匂いが強いなら、その人は……
「アンネ!?」
治癒を発動させるが、すぐに消えてしまった。
この反応は、もう生きていないということ。
私は涙を溢し、腕を下ろした。
そして言葉なく、首を横に振る。
周囲からは嘆きと悲しみが溢れた。
聖女アンネは、これほど愛されていたのだ。
「……どうして……」
私の声に反応したのは、私を呼んだ神殿騎士だった。
「治癒中、無防備になっているところに……」
「アンネ……アンネ……」
私の嘆きに応えるものは、どこにもいなかった。
おやすみなさい、アンネ。
私を恨んでね。




