トラック1-04 |校舎裏でのキス(美羽視点)
「すごかった……キス、だけなのに」
言葉にしてみたら、少しだけ現実に戻れた気がした。
キスだけ。そう、キスだけ。
なのに、身体が熱い。
「……絶対、気づいたよね?」
気づかないわけがない。
自分でも分かるくらい、身体が震えた。
「……何が?」
とぼける声。
分かりやすい。
でも、
嫌じゃなかった。
「いーよ……とぼけないで」
「ちょっとならバレないと思ったんだけど」
最初は軽い気持ちだったのに、
止め時が分からなくなっただけ。
「……引いた?」
聞く前から、ちょっと怖かった。
もし引かれたら、全部冗談にして終わらせようって、
心のどこかで準備してた。
「……そんなことないよ」
その返事を聞いた瞬間、
胸の奥がふっと緩んだ。
あ、よかった、って思ってしまった自分がいる。
「……そっか。優しいんだね、君って」
優しい、なんて言葉でまとめるのはズルいけど、
でも、今はそれでいい気がした。
視線を逸らしたのは、照れ隠し。
これ以上見たら、顔に出る。
「その……気にしないなら……もっかい、してもいい?」
もっかい。
軽く言ったのは、わざと。
「……えっ?」
やっぱり、分かりやすい。
その反応が、可愛い。
「だから……キスしながら」
全部言わなくても、伝わるでしょ。
伝わってるの、分かってる。
距離を詰める。
近い。
さっきより、確実に。
「君も……どうせ、分かってるでしょ?」
視線を合わせないまま、言う。
目を見たら、
たぶん、ブレーキがかかる。
「好きなことしていいよ?」
言った瞬間、
胸の奥がきゅっと縮む。
でも、言い直さない。
「じゃあキス実習の延長、ってことで」
「でも、レポートに書くのはナシね?」
“実習”。
“延長”。
“レポート”。
全部、
今の私に都合のいい言葉。
……でも、
それでいい。
・・・
・・
・
時間がどれくらい経ったのか、分からない。
気づいたら、彼の呼吸だけが残っていた。
ふと、悪い考えが浮かび、
彼の耳元で囁いた。
「もし今、誰か来たら…どうなると思う?」
でも、その想像すら、どこか楽しい。
「……完全に、“バレる”よね?」
今さら、
何も隠せない。
「フフッ。ふたりだけの……内緒の実習だね」
“内緒”。
その言葉を使った瞬間、
自分で一線を越えた感じがした。
「……実はさ、私、毎晩なんだよね」
少しだけ、
本音。
「……えっ?」
やっぱり、可愛い反応。
「……言わせる気? ……バカ」
「君は? 週にどれくらいしてるの?」
「……毎晩、かな」
「一緒じゃんw。なんだ、案外、私達いいパートナーなのかも」
冗談みたいに言ったけど、
胸の奥では、少しだけ本気だった。
「ね。明日も会おうよ」
言葉にした瞬間、
もう決まってた。
「どうせ1週間はパートナーなんだし」
そう期間限定。
私に都合のいい言葉。
分かってる。
これはもう、ただのキス実習じゃない。




