トラック1-02 | 校舎裏でのキス(美羽視点)
「じゃあ……しよっか。」
……軽すぎたかも。
そう思った時点で、
もう言い直せないのは分かってた。
放課後の校舎裏。
人はいない。
音も、ほとんどない。
実習。
キスの。
理由はどうでもいい。
制度とか、義務とか、そういうの。
今はただ、
目の前にいる彼から目を逸らさないことだけを考えてた。
距離を詰める。
一歩じゃない。
半歩。
……近い。
この距離になると、
相手の顔をちゃんと見ることになる。
思ってたより、落ち着いた顔。
目を逸らさないのが、少し意外だった。
だから、
そのまま触れた。
考える前に。
「ちゅ」
唇が触れる。
……あ。
触れた瞬間、
頭の中が一瞬だけ、静かになる。
……柔らか。
音が、近い。
自分のじゃない息遣いが、直接伝わってくる。
「どう? 私のファーストキス」
少しだけ、意地悪な聞き方。
自分でも分かってる。
「それと初めて女の子とキスした気分は?」
顔が赤くなってるの、
バレたら嫌だなって思ったから。
「だって“実習”でしょ?感想くらい、ちゃんと確かめ合うのがルールなんじゃないの?」
でも、
彼の顔も、もう赤くて。
「……ああ、でも聞かなくてもわかっちゃったかも。」
そう言って、
もう一歩、近づく。
キスした時より、身体が近い
耳元に、息がかかる距離。
「だって君……顔、真っ赤だよ。そんなにドキドキしちゃった?」
……ちょっと、調子に乗ってる。
分かってるのに、止まらない。
「ふぅ~~~…」
息を吹きかけると、
彼の身体が、びくっと跳ねた。
……あ。
「くすっ…耳、ぴくってなった。…可愛いじゃん、そういうの」
反応が返ってくるのを見て、
胸の奥が少しだけ温かくなる。
可愛い、って言葉。
男の子に使うの、よくないかも。
でも。
「じゃあもう1回、してみよっか。」
……言っちゃった。
本当は、一回だけのつもりだった。
ほんとに。
「……実はね、私も……ちょっとだけドキドキした」
これは、嘘じゃない。
「今度は、私からする」
私からの方がまだ大丈夫。
……たぶん。
唇が、また重なる。
「…んちゅ」
さっきより、深い。
確かめるみたいに、
少しだけ、長く。
「さっき初めて会った男子と放課後の校舎裏でこうやってキスするなんてね?」
ほんとに。
でも、不思議と嫌じゃない。
「…ふぅ…そっか。これが…キスなんだね。」
唇に残る感触が、
なかなか消えない。
「じゃあ、さ……今度は君から……」
言いながら、
内心では少し緊張してる。
……来るかな。
唇が触れてきた瞬間、
胸の奥が、じわっと熱くなる。
―――さっきと全然違う
キスされるのって別物なんだ
「でもさ…君にとっては、残念だったね?」
唇が震えているのを誤魔化すみたいに。
「私なんかと、組まされてさ」
少しだけ、
自分を守る言い方。
「私みたいな、地味な陰キャ女が、キス実習のパートナーだなんて」
本心、半分。
試す気持ち、半分。
「…篠崎さん人気あると思うよ」
その言葉に、
思わず目を見開いた。
「…人気? 私が?別にモテた試しなんてないけど?」
……ほんとに。
「あと 篠崎さん、は辞めて。」
「美羽でいいよ」
どうしてか分かんないけど
なんか嫌だった
「……美羽は可愛いし、キス出来て嬉しいけど…」
名前を呼ばれただけで、
胸がきゅっとなる。
「…ふーん、嬉しいんだ?…ま、可愛いって言われて、悪い気はしないけど」
私、ほんと可愛くない。
「…俺は?」
聞かれて、
一瞬だけ考える。
「君?…まぁ地味めだけど、意外と落ち着くというか…
意外とアリっていうか…」
「まぁ嫌いじゃないかも」
言い切れないのが、私らしい。
彼の反応を見るのが怖くて
キスを、止めらない。
どれくらい続けてたんだろう。
キスが深くなる。
息が乱れる。
頭が、ぼんやりする。
「キスって……気持ちいい……」
……やば。
これ、キスだけなのに。
「…何かしてる?」
一瞬、胸が跳ねる。
でも、考える前に言葉が出た。
「服、直してるだけ。…いいから、キス続けよ。」
「目は、絶対…開けちゃダメだからね」
身体が、熱い。
「もうちょっと、強く」
声が、少し掠れる。
「もう、止まんないかも」
頭が真っ白になる。
口の中が、彼でいっぱいになって。
音も、距離も、時間も、
ひとつずつ曖昧になっていく。
身体が、震える。
必死に、息を殺す。
身体の奥に、
理由の分からない熱が残ったまま。
……たぶん、
これはキスのせい。




