トラック1-01 |校舎裏でのキス(主人公視点)
「じゃあ……しよっか。」
軽い。
あまりにも軽くて、逆に逃げ場がなくなる。
待って、今からなにが起きようとしてる?
実習。キスの。
言葉にすると余計に現実味が増して、喉が乾く。
距離が詰まる。
一歩じゃない。半歩くらい。
でもその半歩が、致命的に近い。
——近い。
考えるより先に、唇が触れた。
「ちゅ」
柔らかい。
あ、無理。
これ思ったよりダメだ。
音が、直接伝わってくる。
キスって、こんなに音するものなのか。
「どう? 私のファーストキス」
……感想?
いや、待って。今?
「それと初めて女の子とキスした気分は?」
……そんなの、即答できるわけない。
「だって“実習”でしょ?感想くらい、ちゃんと確かめ合うのがルールなんじゃないの?」
そんなルールあるなら紙に書いていて欲しい
「……ああ、でも聞かなくてもわかっちゃったかも。」
そう言って、さらに近づく。
耳元に息がかかる。
「だって君……顔、真っ赤だよ。そんなにドキドキしちゃった?」
だから息が
「ふぅ~~~…」
耳に吹きかけられた息で、身体が跳ねる。
「くすっ…耳、ぴくってなった。…可愛いじゃん、そういうの」
可愛いとか、今言われても処理できない。
「じゃあもう1回、してみよっか。唇が触れただけじゃ、よくわかんないしさ」
――え。
まだやるの?
「……実はね、私も……ちょっとだけドキドキした」
「ほんとは1回だけのつもりだったんだけど。うん、気が変わっちゃった。」
その一言で、全部持っていかれる。
「今度は、私からする」
…さっき俺からしたっけ?
答えを見つける暇もなく、唇が重なる。
「…んちゅ」
深くなる。
さっきより、確実に。
「さっき初めて会った男子と放課後の校舎裏でこうやってキスするなんてね?」
……それ、俺の方が言いたい。
「…ふぅ…そっか。これが…キスなんだね。」
唇のやわらかい感触が…まだ残ってる。
「じゃあ、さ……今度は君から……」
無理。
無理だけど、身体が勝手に反応する。
頭の奥が、じんわり痺れる。
「でもさ…君にとっては、残念だったね?」
「私なんかと、組まされてさ」
…何が?
「私みたいな、地味な陰キャ女が、キス実習のパートナーだなんて」
それは、違う。
だから、思ったまま口に出した。
「…篠崎さん人気あると思うよ」
彼女が、少しだけ目を見開く。
「…人気? 私が?別にモテた試しなんてないけど?」
…あっ、これ本気でそう思ってるやつだ
「あと 篠崎さん、は辞めて。」
「美羽でいいよ」
名前で呼ぶだけで、距離が変わる気がして、戸惑う。
「……美羽は可愛いし、キス出来て嬉しいけど…」
彼女は小さく笑って。
「…ふーん、嬉しいんだ?…ま、可愛いって言われて、悪い気はしないけど」
「…俺は?」
言った瞬間、後悔した。
でも、取り消せない。
「君?…まぁ地味めだけど、意外と落ち着くというか…
意外とアリっていうか…」
「まぁ嫌いじゃないかも」
その言い方が、逆に心臓に悪い。
キスが、途切れない。
息が足りない。
「キスって……気持ちいい……」
その声、ずるい。
いつまでもしていたくなる
…
服が、かすかに擦れる音。
「…何かしてる?」
「服、直してるだけ。…いいから、キス続けよ。」
「目は、絶対…開けちゃダメだからね」
絶対って言葉が妙にひっかかった
キスだけなのに。
なのに、空気が変わる。
「もうちょっと…強く…」
な、なにを?
「もう、止まんないかも…」
…キスの事、だよね?
息遣いが、近い。
口の中が、彼女でいっぱいになる。
思考が溶ける。
時間感覚が消える。
——気づいたら、終わっていた。




