トラック7-02|エピローグ 二人っきりのキス(美羽目線)
観覧車の下で流れてるクリスマスソングが、
少しだけ遠くに聞こえる。
人も多くて、きっと賑やかなはずなのに、
今は君の隣にいることしか、意識できてない。
「観覧車なんて久しぶり。なんだかドキドキするね」
本当は、観覧車じゃなくて君に、なんだけど。
一年経っても、こういうのは全然慣れない。
係員さんに「カップルシートへどうぞ」って言われた瞬間、
反射的に否定してしまった。
付き合ってない。
恋人じゃない。
……そういうルールだから。
でも、扉が閉まったあと、
「また恋人に間違えられちゃったね」って笑いながら、
内心、ちょっとだけ嬉しかったのも事実で。
ルールその①――
恋人とは名乗らない
自分で決めたくせに、
それを口に出すたび、胸の奥が少しだけ痛む。
大学の話をする。
楽しいか、とか。
君が少し変わった、とか。
正直、どんどんかっこよくなっていく君を見るのが、
嬉しいのに、少しだけ心配になる。
……彼女じゃないから、そんなこと言えないけど。
だから、友達が君のこと褒めてたよ、なんて話して、
君の反応をこっそり確かめてしまう。
……私、高校の頃から、
全然成長してないなって思いながら。
「もし誰かに告白されても、黙ってたらやだよ?」
冗談みたいな言い方だけど、
本当は、かなり本気。
ルールその②――
好きな人ができたら、ちゃんと話す。
「いないよ」
その一言で、いつも胸がふわっと軽くなる。
……ゴメンね、こんなめんどくさい子で。
私が告白されてるって知ってたのは、少し驚いたけど、
隠してたわけじゃない。
「好きな人はいないよ」
それは、半分ホント。
君と出会ってから、
他の誰かを好きになる想像が、できなくなった。
観覧車がゆっくり上がって、
イルミネーションが広がっていく。
綺麗な夜景なのに、
今は正直、あまり目に入ってこない。
「……今日キスしてないよね?」
君の声に、不安が混じってるのが分かって、
胸がきゅっとした。
すぐにでもキスしたかった。
でも、どうしてもしたいことがあったから。
だから隣に行って、手を握る。
これでも、まだ心配?
「信じてる」
そう言われた瞬間、
胸の奥がじんわり温かくなった。
……やっぱり、好きだなぁ。
いつからこんなに好きになったんだろう。
キス実習の期間が終わってから?
高校を卒業してから?
時々、こうやって心の中で言葉にしないと、
胸が張り裂けそうになるくらい、
君のことが好き。
でも……
それを、うまく伝えられなくて。
観覧車が、てっぺんに近づく。
「そこで……キスしよ?」
キスから始まった私たちの関係。
もう一度、ここから始めたかった。
3、2、1。
「メリークリスマスス……ちゅっ」
キスは、ゆっくりで。
初めての時より、ずっと落ち着いてて。
でも、ちゃんと特別だった。
今日ここに来たのは、
私の気持ちを、君にちゃんと届けたかったから。
自信がなくて、我儘で、
君をたくさん不安にさせてきたのに。
それでも、
「そのままでいいよ」って言ってくれて、
抱きしめて、キスしてくれて。
ずっとそばにいてくれて、ありがとう。
君のことが、大好き。
スマホを見せたときの、
驚いた君の顔を見て、少しだけ誇らしくなった。
999が1000になる瞬間を、
君と一緒に迎えられたこと。
キスの数を数えてたなんて、
重いかな、って思ったけど。
「結婚して、子供ができて、
おじいちゃんとおばあちゃんになっても」
1000回を超えた今なら、
少しだけ自信を持って言える気がした。
「ずっと君の隣にいる」
未来の話は、やっぱり少し怖い。
それでも、君と重ねてきたキスの数が、
私の背中をそっと押してくれる。
観覧車がゆっくり下りていく中、
君の手を握りながら思う。
これからもずっと――
一緒にキスの数、増やしていこうね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この物語は、声優さんの演技と音で完成する
「音声作品」を元に制作したラノベになります。
もしこ二人の幸せなやり取りの声を聴いてみたいと思ってもらえたら、
近況ノートをご覧ください。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
ナッツより




