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トラック4-02 |保健室でのキス(美羽視点)

挿絵(By みてみん)


保健室のドアを開けた瞬間、

独特の消毒液の匂いが鼻についた。

静かで、少し冷たくて、時間が止まったみたいな空間。



「失礼します……」



先生の返事はない。

一瞬だけ周囲を見回してから、小さく息を吐く。



「……あれ、先生いないんだ」



心臓が少し早くなる。

いないなら、いないで。

……うん、好都合、かも。


ドアを閉めて、足音を忍ばせる。

カーテンをそっと開けると、

ベッドに横になってる君が見えた。



「……いた」



ベッドがきしむ。

近づくと、思ったより顔色が悪くて、胸が詰まる。



「熱出して保健室で寝てるって……大丈夫?」



額に手を伸ばす勇気が、少し遅れる。



「熱どれくらい?」


「さっき計ったら四十度……」


「え、四十度!?」



思わず声が出た。



「ただの風邪。クスリ飲んだから平気」



それ、絶対平気じゃない。

強がり。

やっぱり男の子だ。



「そんなに熱あるのに学校来ちゃダメじゃん」



責めたいわけじゃない。

ただ、心配で。



「どうして無理したの?」



返事がない。

視線を逸らすのを見て、全部察してしまう。



「……キス実習の期間、終わっちゃうって思ったから?」



沈黙。

それだけで、答えは十分だった。



「クスッ……」



病人相手なのに、



「へー……そんなに、会いたかったんだ?」



なんだか嬉しくて、ついからかっちゃう。



「〝みーちゃん〟に?」







……あれ、今私なんて言った?







「あっ……いや、その……」



慌てて説明する。



「“篠崎美羽”の“みう”で、“みーちゃん”。家族にしか呼ばれてないんだけどね」



うぅ……失敗した……

これ、友達にも言ったことないのに……




「……みーちゃん」



呼ばれた瞬間、胸がきゅっとする。



「……みーちゃん呼ぶな」



反射的に言ったけど、



「……まぁいいよ。君だけの特別ね」



嫌じゃないのが自分でも分かる。


だってトクンって、音聞こえたから。




汗で濡れた額を、そっと拭く。



「汗、こんなにかいてる……」



タオルがすぐ湿る。



「……もしかして、シャワーで冷えちゃったせい?」



昨日のことが、頭をよぎる。



「だとしたら……うん、完全に、私のせいかも……」



胸の奥が痛い。



「……ごめん」


「そんなことないよ」



はっきりした君の声に、胸がギュっと締めつけられる。



「ねぇ……どうして、そこまでしてくれるの……?」



自然と、本音が出てしまう。



「私たち、ただの実習パートナーじゃん」

「一緒にするのだって、ただの遊びなのに……」



そう、言い聞かせるみたいに。



「……また明日、って言ったから」



その一言が、深く刺さる。



「……っ……」



息が止まる。



「……そんなふうに優しくされたら……」



声が、小さくなる。



「本当に大事にされてるみたいで……」



でも、心のどこかで君に聞こえて欲しい。



「……勘違いしそうになるじゃん……」



勘違いしていいよ、って言って欲しい。



少しの沈黙。

保健室の静けさが、やけに重い。



「……キス、する?」



気づいたら、そう聞いていた。



「したくて来たんだよね……?」



首を振られる。



「……ダメ?……なんで?」



戸惑う。



「……風邪、うつしたくないってこと?」


「……」



じゃあ……もしかして



「キスしないのに……」

「……ただ、顔見たかったってこと?」



君の顔見てすぐに正解だってわかった。


……答えが可愛いすぎて、反応に困る。



「みーちゃん、可愛い……」



心臓が跳ねる。



「……っ……」

「……可愛いって……」



私、ほんと陰キャなんだから……



「……そんな真顔で言うの、ずるいよ……バカ」



そうやって、

急にドキッとさせるの、やめて欲しい。





シーツの音。

少し体勢を変える。



「……ねぇ」



躊躇いながら、声を落とす。



「キスがダメならさ……」



何かしてあげたい。



「……代わりに……耳、触ってもいい?」



それくらいなら、って。

自分に言い訳しながら。


近づくと、君の体温が分かる。



「……君の耳、熱い」



そっと、触れる。

息が混じる。



「……誰かにしてあげたの、初めてだけど……」



正直な気持ち。



「……こうしてると……」



胸の奥が、あったかくなる。



「……君が、ちょっとでも楽になるなら……」



それだけでいい、はずだった。




でも、



「……ごめん……」



エッチな女の子で、ほんとゴメン



「……ちょっと……興奮してきちゃったかも……」



だって、

君の事考えて



「……君は動かないでいいから……」



もう何回もしちゃってるもん……



・・・


・・



しばらくして。



「……全然、いつもと違う……」



いつもはすっきりするのに、

今日は違った。



「……むしろ……もっと欲しくなってる……」



切なくて、苦しい。


もう、一人じゃダメなんだって気づいてる。



「……ほんと、ごめん」



自分が、怖い。



「……一回だけ、だからっ」



そんな言い訳して。



「……もう……我慢できない……」



理性が、追いつかない。



その後の記憶は、途切れ途切れ。



・・・


・・




終わったあと。



「……ごめん……」



声が、かすれる。



「……私、最低だよね……」



後悔が、押し寄せる。



「……君、ずっと私のことだけ気にしてたのに……」



君はずっと優しそうに、

私の事受け入れてくれた。



「バカみたいに、自分の事ばっかりで…」



私は、自分がしたい事しただけ



「……こんな女、もう君のパートナーなんてやる資格ない……」



私なんて、今すぐ消えてしまえばいいのに……!








「……んっ……」






唇に、柔らかい感触。

優しくて、静かなキス。

言葉が、全部止まる。






ねぇ

なんで、そんなに優しいキスができるの……?






「……もぅ……バカ……」



涙があふれる。



そのままでいいよ



君がそう言ってくれてるって、分かったから



いっぱいひどい事して

いっぱい自分勝手な事して



それでも、君にこんなキスされたら。



「……ほんとに……勘違い……しちゃうよ……」



胸の奥で、

“好き”が、静かに大きくなる。

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