トラック4-01 |保健室でのキス(主人公視点)
保健室のドアが開く音で、目が覚めた。
薄いカーテン越しの光が揺れて、白い天井がにじむ。
「失礼します……」
聞き慣れた、少し低い声。
それだけでドキっとするの、単純すぎる。
「……あれ、先生いないんだ」
足音。
カーテンが開く。
「……いた」
ベッドがきしんで、近くなる気配。
「熱出して保健室で寝てるって……大丈夫?」
ベッドの上から心配そうに顔を覗き込んでくる美少女。
……さっきより、熱上がったかも。
「熱どれくらい?」
「さっき計ったら四十度……」
「え、四十度!?」
驚いた声に、逆に安心する。
「ただの風邪。クスリ飲んだから平気」
「……薬、もう飲んだんだ」
少しだけ、ほっとした顔。
「でも、よくないよ。そんな熱で学校来ちゃダメじゃん」
責めるというより、純粋に心配してる声。
「どうして無理したの?」
答えられない。
喉が乾く。
「……キス実習の期間、終わっちゃうって思ったから?」
図星すぎて、目を逸らす。
だって、明日で終わり。
まだ、何も伝えられてない。
「クスッ」
小さく笑う。
「へー……そんなに、会いたかったんだ?
〝みーちゃん〟に?」
……?
一瞬、何のことか分からなかった。
「……あっ」
照れたように言い直す。
「あぁ…ほら、“篠崎美羽”の“みう”で、“みーちゃん”。
つい、でちゃった。家族にしか呼ばれてないんだけどね」
ホント可愛いぞこの子。
「……みーちゃん」
「……みーちゃん呼ぶな」
そう言いながら、完全に嫌そうじゃない。
「……まぁいいよ。君だけの特別ね」
特別。
その一言で、また熱が上がった気がした。
汗を拭われる。
その一つ一つの動作が全部優しい。
「汗、こんなにかいてる……」
なんでそんな自分の事みたいに辛そうなんだよ。
「……シャワーで冷えちゃったせい?」
「だとしたら……私のせいかも……ごめん」
自分を責めるみたいに。
「そんなことない」
美羽……みーちゃんのせいだなんて、
これっぽっちも思ってない。
「ねぇ……どうして、そこまでしてくれるの?」
ベッドの端に腰掛けて、真剣な顔。
「私たち、ただの実習パートナーじゃん」
「一緒に…するのだって、ただの期間限定の遊びなのに…」
そう、期間限定。
たった一週間、この関係は明日で終わる。
でも、だからこそ
「……また明日、って言ったから」
一日も無駄に出来ない。
ただそれだけ。
「……っ」
小さく息を詰める。
「そんなふうに優しくされたら……」
視線を落とす。
「本当に大事にされてるみたいで……勘違いしそうになるじゃん」
勘違い、して欲しいって言ったら?
「……キス、する?」
静かな声。
「したくて来たんだよね」
首を振る。
「……ダメ?……なんで?」
みーちゃんのそんな甘えた声、
初めて聴いた。
何でもしてあげたい、でも今は……
「……風邪、うつしたくないってこと?」
「……」
だってこれ、マジでしんどいやつだし。
「じゃあ、キスはしないのに……ただ、顔見たかったってこと?」
はい、そうです。
「……そんなの、反応に困る……」
そんな反応されると、俺が一番困るんだけど?
「みーちゃん、可愛い……」
だから仕返し。
「……っ……可愛いって……」
小さく、ぼそっと。
「……そんな真顔で言うの、ずるいよ……バカ」
……バカって言葉、好きになりそう。
シーツが擦れる音。
彼女が体勢を変える気配。
「……ねぇ」
声、低い。
「キスがダメならさ……代わりに……」
言葉を選んでるのが分かる。
「……耳、触れてもいい?」
それくらいなら、
「……君の耳、熱い」
って思った俺をぶん殴りたい。
「指先で…お耳をやさしく撫でるみたいに…」
少し冷たい指先で、
「……こうしてると……」
耳たぶをなでられる感覚は……
「……なんか、気持ちがあったかくなる」
想像以上に、エロかった……
「……君が、少しでも楽になるなら」
時間が、ゆっくり流れる。
でも、
みーちゃんの呼吸が変わっていくの、分かってしまう。
「……ごめん」
小さく。
「……私、ちょっと……」
自分の気持ちに戸惑ってる声。
大丈夫、察してるさ。
俺も今何かしてあげて……
「……君は動かないでいいから」
あっ、そう……
まぁホント今身体動かないのはマジなんだけど
それ以上は、言葉にしない。
音と、息遣いだけで、時間が過ぎる。
・・・
・・
・
「……全然、いつもと違う」
切なそうな声。
「……もっと、欲しくなってる」
謝るみたいに。
「……ほんと、ごめん」
迷い。
葛藤。
「……一回だけ、だからっ」
抑えきれない、って。
そんな顔を見たら、
自分の気持ちとか感情とか、もうどーでもよくなって……
みーちゃんの好きにさせてあげたいって
ただそれだけだった。
その後のことは、はっきり覚えてない。
きっと熱のせいだ。
・・・
・・
・
終わったあと。
「……ごめん」
かすれた声。
「……私、最低だよね」
自分を責める言葉が続く。
「バカみたいに、自分の事ばっかりで…」
そんな事ない
「……こんな女、もう君のパートナーなんてやる資格ない……」
それ以上、聞きたくなくて。
そっと、口を塞ぐ。
「……んっ……」
優しく、短く。
それだけで、言葉は止まった。
「……もぅ……バカ……」
泣き笑いみたいな声。
「……ほんとに……勘違い……しちゃうよ……」
俺も勘違いしているから。
もう、とっくに。




