表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

配信者は見た!? 〜 ライバーからライター、そしてライダーへ? 〜

作者: モモル24号

 ホラーコメディですが、ドクロのイメージイラストなど苦手な方はブラウザバックをお願いします。


「────はい、みなさんこんばんは。あなたの側にいる⋯⋯⋯⋯よ? ホラー系ライバー水見 澄(みずみ すみ)のホラーストーリーテラーの時間になりました」


 私の名は水見澄。動画配信サービスを使って、リアルな日常のひと時を映像で世の中にお届けするライバーの一人。


 ──団三郎様、オッス!

 ──D・A夢破れ負け子!

 ──ガチコ団三郎様顔バレ乙!

 ──顔面偏差値だけの女!

 ──ダイナマイトボディ(ボン・キュッ・ボン)!!

 ──竹破けた、山本屋!

 ──汚水澪さまに一票!

 


「うっさい、お前ら団三郎様やガチコは忘れろ。あいつらはもうお星さまになったんだ。お前らが騒ぐせいでお上にマークされてんだよ。それに汚水 澪(おみず みお)か。ひでぇ⋯⋯だが、いいな、ソレ」


 つうかさ──なんか増えてないかな、私を観察したがる変態ども(ファン)。上から読んでも下から読んでも同じ名前にならないのも良く見てやがる。


 週末限定の生配信で精々十人だったリアル視聴数が、三倍近くに上がっている。そもそも無名の新人から再開しているのに、どうしてわかるんだコイツラは。


 【団三郎様】とは、かつて同じように生配信を主軸に活動していた底辺Vチューバーの事だ。生配信の映像により殺人事件を解決した事で、一躍有名になった⋯⋯過去の私のアカウントでもある。


 事件解決といってもさ、ストーカー殺人犯が私の部屋のベランダを通路がわりに使っただけだ。切り忘れた配信画面が、通り過ぎて行く犯人を映しただけ⋯⋯なんだよね。


 犯人は、隣人にとっては殺人鬼だが、私には悪いサンタだったってわけ。犯人が勝手に映り込んだおかげで、閲覧爆上がりのウハウハ状態になったからね。


 ただ悪いサンタだけあって、フィーバー(プレゼント)はほんの一瞬で終わった。知名度をあげて荒稼ぎする前にアカバンされてボーナスタイムは終了した。


 配信でバズった団三郎様アカウントは、成り上がりを夢見る私の宝物だったのに⋯⋯荒稼ぎする前にバンされてしまい、アカウントごと消されてしまったのだった。



 そしてガチコとはドリーム・アドバイザー⋯⋯D・A夢見ガチコのことだ。団三郎様のにかわり新たに立ち上げた相談系配信者。


 まあまあ視聴数はあったんだよ。でもこれもアカ停止になった。パソコンごと証拠として取り上げられた。国家権力(お上の圧力)に負けた形だ。



 ────ややこしいんだが新入りの為に簡単に説明するよ。団三郎様の時に映り込んだ殺人犯が殺した元カノ。彼女は私の暮らすアパートの隣の部屋に住んでいたのよ。私は証拠映像を提供したため、身バレする可能性があったわけ。犯人やそいつの身内が逆恨みして私を襲わないとも限らない。


 彼らが寄り付きそうにない部屋へと私は引っ越した。それが殺された元カノの部屋だ。格安というか殆どタダ同然なのに生活環境変わらないなんてお得だよね。


 新しい部屋で始めたのが夢見ガチコの相談部屋。不幸は重なるもので、この部屋には殺された元カノのレイコがまだ住み着いていた。さらに不運が続き、夢見ガチコの相談部屋に、殺人犯(アホ)が相談メールを依頼して送って来た。


 懲りていない殺人犯(不倫男)の自分勝手な言い分に、レイコがブチ切れて怨霊化した。そして拘置所にいる殺人犯をぶっ殺しに行ったってわけ。その時の映像が私のだらしなく爆睡する姿とともに映り込んでいたらしい⋯⋯オゥノゥ神よ、だよ。


 白状するとさ⋯⋯知らないんだよ、寝てたし。安いからって殺人の起きた隣の部屋に引っ越したのが悪かったのか。でもさ⋯⋯レイコだけに冷蔵庫付きで家賃タダ同然とか普通飛びつくよね?


 押収された古いパソコンのかわりに、最新のパソコンとモニターカメラのセット一揃え貰えたので、私としてはわらしべ的には成功者なのだよ。


 登録者権限で勝手に映像等を編集されないために、夢見ガチコのアカウントごと買取りの対価でもあったそうだ。現実はしがない会社員の私。飴ちゃんが降って湧いたような幸運な出来事だ。


 そうした経緯から、私は格安アパートからも追い出された。えっ? 待って、何も悪さしてないし、家賃だって滞納してないよ!? ホワイジャパニーズポリスマン、何するものぞ、だよ!!


 もちろん私は食い下がった。殺ったのがレイコだろうが看守だろうが業者だろうが私には関係ないもの。借りたレイコの部屋だって殺された彼女の現場検証はとっくに済んでいる。霊障がどうとか言われても私は見えないし、平気だもの。



 目の笑っていない捜査官と、ニッコニコの満面の笑みの大家相手に、私は一時間以上戦った。奮戦虚しく、国家権力と地主相手に、一介のOLが敵うはずもなく敗れた。大家め⋯⋯金を積まれてあっさり裏切られたよ。


 夢見ガチコのアカウントはパソコンごと持っていかれてアカウントも凍結された。私は無関係の被害者だが、いったい誰に訴えればいいのだ。裁判か?


 面倒臭い女を見る目で、捜査官が折れた。ゾワッと寒気がしたらしい。フハハハ⋯⋯私を敵にすると恐ろしいと、ようやく気づいたようだ。


 捜査官と大家と三者面談の結果──私はレイコの部屋と同じ家賃で、駅近の小型のマンションへ入居が決まった。殺人鬼のうろつくこともない、セキュリティのしっかりした優良物件だよ。


 レイコの部屋と、私の部屋の負担分は国庫から賄うらしく、大家だけが一人勝ちでホクホク顔が気持ち悪かった。


 だが⋯⋯悪いな諸君。君らが汗水垂らして収めた税金が、私の快適ライフのための養分として使われるのだ。


 ──物井(ものい)物子(ブツコ)、物欲系爆誕!

 ──わらしべ長者物言いブツコ!

 ──令和の税金泥棒団三郎様!

 ──悪夢がチラつく子!

 ──ベランダは、封鎖しとけ!


 味をしめ⋯⋯悲しい過去の出来事を糧に私は心機一転をはかり、金曜日限定のオカルト系ライバーになろうと決意した。何故金曜日かって? オカルトっていったら心霊スポットいくでしょ? 会社勤めの身に、夜更かしはキツイんだよ。


 ホラー系ライバー水見澄として登録し、これまでの経緯をストーリーテラーとして紹介していたのだが──雨が降った水に湧くボウフラのように、ファン(ガヤ)が湧いた。


 ──行動パターン前と一緒!

 ──やめとけ、オチが見えるよ!

 ──ラックが墨子(ブラック)な澄子!

 ──ラックが地中に埋まる!

 ──ついてる女!

 ──ついてる、憑いてるよ!

 ──華金(はなきん)に一人。ホラーより⋯⋯泣!


「だまれ外野(変態ども)! 私のメンタルが泣くぞ! 」


 そもそもこのアカウント、いつの間にか私名義でライバー登録されていたんだよね。こいつらも当然のようについて来た。アカウント数がさらに増えたが⋯⋯真暗な画面でチャットとか想像力豊か過ぎだろ。


「水見だって言ってるだろうが。目ン玉ないんかお前ら」


 ──ブツコ、ブツブツうるさい!

 ──ブツコ、つぶつぶ晒すなよ!

 ──ブツコ、仏壇を買ったのか?


「うっさいのはお前らだ。だいたい後ろのあれは仏壇じゃねぇ、前のレイコの部屋にあった冷蔵庫だ」


 この部屋に移って早々に血塗れで良い笑顔のレイコがやって来て、世話になった御礼といって真っ黒になった冷蔵庫を廃棄していったのだ。


「白よりも黒なら確かに格好は良いけどさぁ⋯⋯」


 粗大ゴミの処分に困った隣家のばあさんかっての。家電の処分にだってお金掛かるんだよ。


 私は配信しながら酒飲むスタイルなので、手が届きやすい位置に冷蔵庫を置いてくれたからいいのだが、冷凍室の製氷皿が邪魔なんだよね。



 ⋯⋯あと料理しないのがレイコにはバレてるぜ⋯⋯ちくしょう。


 ──ブツコ、目玉はどうなった?

 ──ブツコ、目玉焼き焦がした?

 ──レイコさま、生きていた(浮遊霊化?)よ!

 ──レイコサイコーブツコパス!



「お前ら、レイコ好き過ぎだろ。レイコは一途で可憐に見えて、乗っ取り属性だから怖えんだよ」


 今まさに私のアカウントが乗っ取りにあっているし。レイコが置いていった冷蔵庫には、髑髏型の氷の作れる製氷皿があった。髑髏製氷皿の中の目玉の氷、絶妙にブヨブヨなんだよね。食べてもグミより不味いし、魔王なスライムかよと言いたくなる。製氷皿は邪魔だからって捨ててもいつの間にか戻って来るので諦めた。


 冷蔵庫自体は、生温いビール缶を冷蔵庫に入れると三秒も経たない内にキンキンに冷えてくれる。冷蔵と冷凍の機能逆じゃね? めっちゃ冷却力強くて、クソ暑い昨今助かるわけだが⋯⋯電気代が心配だ。


 ──ブツコ、あの目玉食ったのか!

 ──ブツコ⋯⋯恐ろしい子!

 ──ブツコの方がヤベぇ奴!

 ──ブツコのブツギリ!

 ──ブツコ魔王の血が流れてる!

 

「はいはい、戯言好きだなお前ら。あと水見な。水見澄。ブツコは存在しないの」


 誰かが勝手に作った私のアカウント。消さずにそのまま使ったので、混ざって面倒臭い事になっていた。水ってやつは溶けやすく混ざりやすいので仕方がない。こいつらはアホだが理解力は高いので、そのうち慣れるだろう。


 ちなみにこいつらの切望するレイコは、金持ちのお嬢様にスカウトされた。私と違い霊が見える子の元へと引き取られたそうだ。レイコ(ブルータス)よ、お前もか。私にはルビコン川(三途の川)を渡ってまで裏切る相手はいないがな。


「いるよね〜〜クラスに一人か二人は見える子ちゃんが。いじめっ子ほど精神未熟だから効くんだよね。あと、マラソン大会で一緒に走る約束破るタイプも、フラグ全開だよ」


 そう⋯⋯私もアホガキ共にうんざりして戦った覚えがあるの。だから見える子ちゃんとか懐かしい。まあ私の場合、秒で嘘だろと看破されリアルキャットファイトになったが。


 ──スミコ、狂戦士属性乙!

 ──酒乱(バーサク)酒猫(マタタビ狂い)女、スミコ!

 ──スミコ、魔王退治してこい!

 ──真守の上はガチだ、やめとけ!

 ──スミコは逃げられない!


「お前ら、そこは上手くブツコぶつなよとか言えよ。それと真守はリアルに怖ぇよ」


 国家権力の犬捜査官も、その話をした時は目が死んでいたっけ。折れたのは私にではなく、ボスのせいだろう。


 お上のしもべ達も苦労してるのがわかった。ハラスメントだなんだと、騒いでいられるだけ世の中幸せなんだよね。もっとも大家はその名前で狂喜していたけどね。


 ◇


「ホラー、ホラー⋯⋯さてと、どうやってこいつを殺すかな」


 テーマは水。ベタに行くなら水死体とか水子とか水で苦しませて適当に殺せばいいよね。


 団三郎様、夢見ガチコとライバーとして活躍した私は、二度のアカウント停止により警察関係者(お上)からしばらく活動の自粛を求められた。


 水見澄としてライバー再出発の出鼻を挫かれたようなものだ。突然の警告メッセージに、思わず鼻水が出ちゃったよ。



 何も悪い事はしていないのに⋯⋯この世は理不尽だ。騒がしい奴らに絡まれないで済むが、副収入(給水)手段が絶たれたのは痛い。


 そんな権力の横暴を訴えるべく、アカウントを作り直そうとしたが、登録画面へ入ろうとすると、パソコンが自動でシャットダウンした。他の配信者の視聴は可能だ。まるで私だけシットダウンと蛇に睨まれた蛙のようだよ。


 最新の機種を気前良く私にくれた理由がわかり、配信は断念した。タダほど高い物はないを実感した。あいつら(ドブネズミ)のために断水宣言くらいしておきたかったな。あっ、でも週末に売れないライバー視聴(ゲテモノ食い)しているようなろくでなしばかりだから、放っておいてもいいか。


 仕方なく別の手段で一人きりの週末(会社の休み)を過ごす。もともと癒しと暇つぶしのために始めた執筆だ。喋る事から、書くことへスタイルが変わっただけ。


 肩書きは売れない物書き⋯⋯というか、薄い(うっすい)駄文を書き連ねて他人の時間を貪り食うのが趣味の私、水見澄。


 キャラ設定としてはホラーストーリーテラーを名乗りながらも、実はホラーが苦手なの⋯⋯って感じかな。ホラーで釣れるような連中はどこかおかしいはずだから、羊水に塗れた産まれたての子鹿は優しく育てようとするよね。すぐに赤子を喰い殺すような奴は外道だよ、外道。


 びっくり箱のように単純に驚かすのは好きなのに、最近は二重三重に仕掛けないと驚かない。ホラーインパクトとしては、これくらいギャップがいるよね。


「うはっ、普段喋っている事を文字に起こすとエグいな」


 投稿したホラーには一桁しかアクセスがないまま、ゼロの行進が続いた。誰が書いたのかわからない得体の知れない物語を読んでみようとする者が世の中にはいる。


 映像の時と違って、文字は水を飲むように目から脳へと吸い込まれてゆく。 テロップってだから入れるのかと妙に納得出来た。


・ コロナ禍のおかげでマスクを外したら──口紅が蒸れと汗とマスクで擦れて口が雪解け水のように溶けた、口割れ女だった⋯⋯そんな単純な恐怖が再燃した話はウケた。まあ私の実体験だからね⋯⋯流した涙は本物だよ。



 執筆となるとやはり厳しい。色香や映像の誤魔化しが効かねえ。想像を刺激するような描写力か、ありふれた日常を美しい文章で飾って壊す⋯⋯そんな演出が必要になる。


 刺激を与え続けると慣れてしまうのと同じで、こいつら読者は飢えたゾンビのように毒者に変わり、恐怖を求めて齧りついて来るからな。機器に塗れた現代では、活字中毒なんて、逆に貴重なのかもしれないと思ったよ。


 なにより⋯⋯グルメなゾンビと私の駄文は相性が悪い。ライバーの生配信と違ってじっくりたっぷり覗かれるからな。生配信なら、噛もうが誤引用しようが後の祭りだ。


 新ジャンルにチャレンジしてみてわかったよ。間違いを正してくれる存在はありがたい、と。誤字に塗れた読後の悪い毒書。毒文が毒を撒き散らしたあとに、後始末を手伝ってくれる聖者みたいなものだ。なんて尊い存在なんだ。聖人の爪の垢をライバー視聴者(変態)どもに飲ませてやりたい。


 あぁ、でも駄目か。あいつらゾンビ共は毒されたいから、オブラートの風船に包まれた聖水(美しい文)を、貪り齧り付いて死にたいんだからさ。


 ────やつらの末期の水はさぞ美味なんだろうよ。


・ スマホでネット検索するとAIがしゃしゃり出てきて「いかに人を水で殺せるのか?」 を、これでもかってくらい得意気に提示してくれる。私のスマホが水死体のホラー化してもお構いなしだ。


 簡単に調べられるのはありがたいんだけどさ⋯⋯その情報が呼び水となって水死体の大群を呼んでしまうわけだ。バブルだよ腐ったバブル。


 私はしばらく水死体についての専門家になれるくらい、水問題と戦う羽目になる。延々と水風船(水死体)がストーカーして来るのを、バブルが弾けるまで退治し続けなければならないのだ。勇者顔負けだよ?



・ 怖いもの見たさで、クリックしてはいけないのは詐欺広告だけじゃない。うっかり覗いてしまうと土左衛門と例えらた力士の怨念にも付きまとわれる。ちゃんこにして喰われる。


 ────これは嘘だ。こんな与太話に騙されるような純真無垢な真水のような人間はいないよな。暴力的な表現やグロい表現や性的な表現には情報提供に制限がかかる。たぶん土左衛門は制限かからないので注意しろよ。


・ 清く正しく清潔で健全な聖人だけの世界を実行する為に、汚く狡く不快で不健全な悪人は虐殺してでも徹底的に排除しようという美しい(クレイジー)世界。生きる意味って何だろうって考えさせられるよね。



「色々投稿したけど⋯⋯読まねぇなここの住人。とりあえず土左衛門は勘弁してよっと。殺さないで済む怖い方法を考えて欲しいよね」


 反応のない、屍のような私のホラーネタ作品は、静かな新月の夜の海くらい穏やかにゼロの水平線が続いている。寂しげな熱帯魚の歌を歌ってみたら警告が来たよ。覗かれてるのか⋯⋯ゼロの穴から。



 覇権を握りかけた元ライバーとして、潜水艦の窓から覗きたくなるようなゼロ行進は流石にムカつく。


 そうなると水の怪物や怪異だね。人魚の歌とか幽霊船での別れなんてヒットした映画なかったっけ?


 水も滴るいい男⋯⋯これは駄目だ、こうした界隈ではそんなイケメンの、歯が水に浮くようなセリフは嫌いだ。創作だろうと話は叩かれておしまい。見向きもされないままドブに捨てられる。


 良い男、良い女はドブに落ちてドブ水啜るような地獄を求められるんだよ。怯えよ、震えろっ、⋯⋯これはもちろん私の偏見────嘘だ。


 ライバーの時は、こんな話をすれば入れ食い状態で餌に齧り付いて罵声が飛んで来たものだが、ここは氷結地獄(コキュートス)かというくらい冷え切ってますよ。あっ、決してオタクの夫婦関係の事ではないの⋯⋯。


「フッ⋯⋯虚しい」


 あまりの反応のなさに、水面に映る私と会話しているような気分だ。ない知恵を絞り、知恵熱で頭の血がが沸騰した湯のように熱くなる。


「少しだけ⋯⋯覗いてみるか」


 私は冷蔵庫の冷凍室から氷枕(アイスノン)を取り出して、タオルで包みおでこや首を冷やす。


「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙気持ちえぇ⋯⋯さて、何から視聴するかな」


 ガス抜きしないと身体に悪いように、週末ライバーとして毒を吐き出すのは私の健康に良かったのだと実感した。汚水に溜まる腐った林檎のような連中(ファン)も私という存在を活かす肥料になっていたんだな。


 冷蔵庫から冷やしておいた麦茶を取り出しコップに注ぐ。


 ────ゴクリ。


 エアコンの冷房はつけていても、私一人の時は省エネモード。エアコン付いてるのに外気温が高すぎて、室温高い。執筆サイトは氷河期が続いているというのに、熱中症でやられそうだったよ。


「これだからホラーは嫌いだよ⋯⋯」


 ホラーから路線を変えろって話だが、あわよくば再開したライバー視聴の呼び水にしたい乙女心だよ。⋯⋯下心でした、すみません。


 いずれ趣味を仕事へと変えたいと思っている以上、苦手だろうと出来る所はみせておきたい。執筆を始めたのも、パンパンに膨れた野心が下心に変換された果実なんだよ。知恵の実ならぬ、塩っぱい氏に死神の林檎だよ。


 執筆に飽きた私はライバルの配信者の動向でもチェックしようと、フリーズしたパソコンを再起動する。


「あれっ? 水見の数字伸びてる?」


 初回にケチをつけられて以降、ライバー配信は休止中のはずだ。私のアカウントは閲覧も禁止されたはず⋯⋯。


「コメント数がバグってる? 何があったの? どうなってるの?」


 なんで私が入る事が出来ないのに、こいつらは使えてるのかがわからない。いや答えは主不在の⋯⋯水見澄の配信にありのままに映し出されていた。


 ──配信始まってるよな?!

 ──気づいてないパターン!

 ──オッス! 団三郎様!!

 ──ガチコ、またドジっ娘!

 ──ブツコのブツブツ怖っ!

 ──機械音痴のライバー澄!

 ──強制メンテを勘違いか!

 ──絶対曰く付き物件だよ!

 ──俺たちの回線は残った!

 ──スミコ執筆無理っぽい!

 ──スミコ執筆飽きっぽい!

 ──これ内容BANじゃね?!

 ──了解。検索禁止しとく!

 ──あっ⋯⋯監視員発見乙!

 ──暇過ぎ登録者招待ヨロ!

 ──了解。配信とリンク済!

 ──監視員、仕事早くね?!

 ──たぶん中身レイコ様だ!

 ──レイコサマサイコー!!

 ──寝てる間に髑髏が⋯⋯!

 ──便利過ぎる冷蔵庫⋯⋯!

 ──水見澄の知らない世界!

 ──寝言が気持ち悪い⋯⋯!

 ──いつまで主不在なんだ!

 ──不本意だが、澄カモン!

 ──やっぱメンタルお化け!

 ──⋯⋯⋯⋯

 ──⋯⋯⋯⋯

 

「また勝手に室内カメラが作動パターンかいっ! いや待て、犯人はお前か〜!!」


 レイコがくれた黒い冷蔵庫が動き出す映像を見て、私は冷蔵庫にライダーキックをお見舞いする。


──ボキッ!!


 凝った関節の鳴るような鈍い骨音と共に冷蔵庫から髑髏(しゃれこうべ)が吹き飛んだ。


「⋯⋯おいっ。まさかしゃれこうべがシャーベットに似てるなんてオチじゃないよな?」


 ガタガタ震えるのは髑髏だからか。私は扉の冷蔵庫を開けてみる。そこには肉のない骨が収まっていた。


「お前⋯⋯私のビール(楽しみ)どこやった!!」


 ──スミコ、違うそこじゃない!

 ──怪異よりビールが生命の女!

 ──⋯⋯家政婦さんは飲んだ!!

 ──監視の人、事案発生したよ!

 ──電気代と酒代どっちが得?!

 ──


 この冷蔵庫⋯⋯電気代はかからない。ただし酒代がかかるとわかった瞬間だった。


「酒代の方が高く付くっての」


 ──この髑髏、大家の親父の愛人!

 ──この髑髏、大家の実家家政婦!

 ──この髑髏、冷蔵庫と一体化!

 ──この髑髏、レイコの血で付喪化!


 監視員なる視聴者が、見える子ちゃんから情報をもらいメッセージを送って来た。


 この冷蔵庫自体は、大家の実家で昔使っていた冷蔵庫だそうだ。ただその中身がヤバかった。まず髑髏の製氷皿を特注で作らせたのは大家の親父だ。


 愛好家の収集癖がこじれたのだろう。長年家政婦として、愛人として世話になった女の骨をしまうのに、冷蔵庫を使っていたという。恨みなどではなく、愛するものをずっと身近に置いておきたい男の歪んだ性癖。


「骨抜き話はいらん。それよりなんでビール飲むのか骨に語らせろって」


 ──スミコ、心臓ふとしっ!

 ──怖がるより酒をくれっ!

 ──いい話っぽい、クズ話!

 ──大家一家頭おかしい系!

 ──骨々、酒と歌はロック!


「うっさいぞ!お前ら。コメが流れるからシャーラップ!」


 しばらくの休止で反応が鈍ったか。死んだ愛人家政婦と殺されたレイコの血を吸って、冷蔵庫が付喪神に近い物の怪に育っていた。年齢足して合計百年になるのか⋯⋯だとすると、それなりに髑髏も長生きしたのだろう。


「さてと⋯⋯原因わかった所だし、壊すとしますか」


 まったく私の楽しみを奪うなんて、なんて冷蔵庫だ。何故レイコの部屋に大家の冷蔵庫があったのかは謎のままだ。レイコは殺されてしまったし、がめつい大家に話させる為にお金を払うのは嫌だ。


「これがあれば暴漢の頭も一撃で割れる百均ハンマー召喚!」


 気分はロックなアイスクライマーだよ。製氷皿の髑髏氷はグミなくせに。蹴った感触、なんか厚い氷のように硬い髑髏だったから。


 ──ドクロだけに洒落になんねぇ!

 ──髑髏、骨は拾ってやる!

 ──アイスクラッシャースミコ!

 ──やっぱ髑髏氷も飲むんか!

 ──監視員何やってんの!

 

 何だかスミコの画面が騒がしい。お前らどうせ観てるだけで何も出来ないよね。まあ髑髏の形をした氷を砕くだけだから、騒ぐほどの事はしていない。


 ──ストップだ、水見澄!


 急にパソコンから機械的な音声が流れた。誰か知らないけど、私の配信画面を乗っ取りやがった。


 ──取引しようか!

 ──光熱費も無料だ!

 ──酒代も賄うとしよう!


「家賃に光熱費、それに酒代だとぉ? その条件乗った! 乗るに決まってるって」


 誰か知らないけど、焦った監視員が上層部を呼び出したのだろう。家賃に光熱費に酒代に、家政婦まで無料セットみたいなものだ。レイコの置き土産、中々良かったよ。


 ブルブル震える髑髏はホッとしたように蒸発し、湯気のような煙になって消えた。消え去った後、私の部屋の床をびしょ濡れにしやがった⋯⋯。


「あいつ、わざとやったな」


 もう一度冷蔵庫から引きずり出してかち割ってやりたい所だが、色々お得になったので勘弁してやったよ。


 ──ガチンコ勝負はスミコの勝ち!

 ──スミコよりガチコで良くね?!

 ──ガチコより、団三郎様だよね!

 ──酒は週一回、奉納するように!

 ──スミコ、ニコニコ拝金主義!!

 ──髑髏ちゃん、メイド属性萌え!

 ──怠ると不運に見舞われるから!

 ──レイコサイコーカムバック!!

 ──時代はレイコから髑髏ちゃん!

 ──忘れないよう注意するように!

 ──薄幸メイドドクロちゃん爆誕!

 

「うっさいぞお前ら。ん? なんか監視員から重要なメッセージなかったかな?」


 騒がしいのに慣れたせいで狂った調子も元に戻った。再開したものの水見澄は封印だ。どうも私自身がホラー気質なのか、面倒事ばかり起きる気がするんだよね。


 ──今頃何言ってるんだ、スミコ!

 ──天然ぶり(そういうの)はいらん!

 ──氷見ブリコ!

 ──ブツコ復活っしょ!

 ──団三郎様、オッス!


 うっさいこいつらは、どんなに名前を変えても必ずついて来る。穴があったら消防車の水圧でこいつらまとめて放水して沈めてやりたい。


 監視員は別として、いつもいるこいつらの正体だって、中身が人とは限らない。増えるワカメのようにユラユラと蠢く人影が、自我でも持ったんじゃないかと疑っている。


 まあ人でも物の怪でも視聴者には変わりないし、私の収益が上がるに越した事はないよね。


「おっと、最後に一言忘れていたよ。新規登録よろしくね? 彼氏も募集中だぞ? キャハ♡」 


 ──目がぁぁぁ目がぁぁぁぁぁ!

 ──目に毒攻撃だと!聖水求む!

 ──気持ち悪くて吐きそうだ!!

 ──目が腐る⋯⋯スミコは脳が!

 ──髑髏ちゃん助けてぇ〜〜〜!

 ──スミコの方が化物に一票!!

 ──ボン・キュッ・ボン生命体!

 ──悩殺に不向きな残念生命体!


 せっかく再開のサービスしてやったのに何て酷い奴らだ。こいつらの目的や正体が判明する日は来るのだろうか⋯⋯⋯⋯。 


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 お読みいただきありがとうございました。


 アイスコーヒーの事を「レイコ」 と呼ぶ地域がありますが、この物語では冷蔵庫にもかかっています。


 イラストは作中に出てくる髑髏メイドがおビールを運ぶイメージイラストです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜 関連作品 〜                      ◆ベランダを散歩していたのは誰って話がバズった                         ◆夢見がちな配信者            ◆生配信していただけなのに 〜 あるライバーの背後で起きていた事件 〜
― 新着の感想 ―
ブツコーーー(◍´ᯅ`◍)ノ 彼女も懲りないし、ガヤたちもいつの間にかついていくし、鋼のメンタルすぎるこいつら全員好きだꉂꉂ(ˊᗜˋ*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ