Ⅲ
「こんなことに巻き込んで悪いとは思っている。だが、これは私の単純な興味でもあるんだ」
「だったら尚更嫌ですけどね」
これ以上、変なことをすれば魔族だということがバレかねないし、最低限でやり切ろう。
「ではこれより、リューガス騎士団長 対 セントの試合を始めます!」
開始の合図と同時に、リューガスは巨大な大剣を持ちながら、さっきの騎士の数倍の速さで接近してきた。
(はやっっ)
右下からの大振りの剣筋。俺は身体強化魔法をフルに使って短剣で受け止める。
「まさか、この大剣を短剣で受け止めるとは!」
リューガスは驚きながらも、その手を緩めることはない。そして不思議なのは、超巨大な大剣をいとも片手剣のように振るってくるということだ。
こんなの、食らったら骨の数本じゃ済まないぞ?
俺がそんな危機感を覚えていた時。
「このまま本気を出さないなら、身分証は発行しねぇぞ」
こいつ.....!話がどんどん変わっていってるんですけどぉ?
まぁ、少しだけ真面目にやろうかな。そうして俺は手を前にかざした。
リューガスは驚いていた。自分の身体が、数十メートル後ろへ吹き飛ばされている事実に。身体強化を使い、オークの攻撃すら容易く受けれる自分が、なぜ吹き飛んでいるのか。唯一分かるのは、目の前にいる男が手を前に向けているということだけ。
「今...何をした?」
「ただ、魔力をぶつけただけだ」
「だが、術式も魔法陣も見えなかったぞ?」
普通、魔法は魔法陣を構築し指定されたスペースに術式と呼ばれる決まった古代言語の羅列を加えることで発動する。だが今の攻撃に、魔法陣を構築した素振りは見えなかった。
「そりゃ、魔法陣なんて使ってないからな。ただ魔力をぶつけるのに魔法陣もなにも要らないだろ」
この時、サラッとこの男が言った言葉に対しての疑問を全ての騎士が持った。
「ちょっと待て.....理解ができん」
魔力は空気と同じだ。空気は何か道具を使わなければ集める事もまとめる事もできない。魔力も同じで、魔法陣を用いなければ、我々は魔力を集めることはできないはず。
「お前たちの疑問は分からんでもない。だが、出来てしまうのだからしょうがないだろう」
俺からすれば、出来ない事の方が理解できない。
「たしかに、戦いの中で疑問を持つことは良くない。やっぱり、お前は本気でやっても問題なさそうだな」
そう言ってリューガスの身体強化の強度が大幅に上昇している。周りの空気が振動しているのを感じる。
『アーレルド流大剣術 巨山大裂断』
リューガスが図太い声でそう言い横に大きく振られた剣からは、分厚い剣撃が地面を抉りながら猛スピードで飛んでくる。
咄嗟に、俺は結界魔法『天使の防護 フリエスペンス』を使ってしまった。目の前に張られた結界は斬撃を打ち消した。それと同時に、簡易氷魔法でリューガスの足元を凍らせ後ろに回り込み短剣を突きつけた。
その瞬間、リューガスは手を上に上げ降参の合図を表した。
「俺の負けだセント。上級結界魔法をそんなに容易く使うなら俺の攻撃はお前に届かない」
なんか分からんけど、潔さは嫌いじゃない。
「お前、最初に見た時は接近戦だけかと思ったが魔法も使えるとはなぁ。気になることは増えたが、これ以上の詮索はしない約束だからな。とりあえず、お前の身分証は発行してあげよう」
俺が、お礼を言おうとしかけたとき、ケニスが近ずいてきた。
「お前、セコイとは思わないのか?騎士相手に魔法を使って足を止めるなんて。正々堂々勝負もできないのか?」
何を言っているんだこいつは。勝負に正々堂々も何もありゃしないだろ。俺がそう思っていると。
「お前は、魔族との戦いで魔法を使われたらセコイと言うのか?実際の戦場で相手に向かってセコイって言えるのか?...お前はもう一度、騎士としての振る舞いと役割を学び直せ!」
スッキリだ。俺からこれ以上言うことはないくらいに。
まぁ、当の本人は納得してないみたいだけど。
「うちの団員がすまないな。最近はなぜか魔族領との戦争が減っていてね。まぁ良いことではあるんだが....」
言おうとしていることは分からんでもない。
「それで、この後のことは何か決めているのか?」
「この後?」
「そうだ。お前はこれからどうするつもりんなんだ?」
たしかに、具体的には決めていなかったな。とりあえず、魔族としてのセントエリセンストは殺して、セントとして生きていくつもりだったが、そろそろ生き方を決めないとな。
「もし、何も決まってないなら学園に通ってみないか?」
「...........は?」




