Ⅱ
セントエリセルトが魔族領を発って2週間。ホーリエンス共和国の入り口に立っていた。魔法を使えば逆探知される可能性もあったので、魔法は使わずに来たため時間がかかってしまった。
「止まれ!身分証の提示をお願いしよう」
これが第一の難所。基本的に各国の入り口には検問が敷かれていて、身分証の提示が義務付けられている。もちろん、俺は人間の身分証など持っていない。
「すみません。道中魔物に襲われて荷物ごと置いてきてしまったんです」
わざわざ、この嘘の為に道中での荷物は最小限にしてここまで来た。
「ならば犯罪歴の有無を調べる。何も無ければ仮の身分証を発行しよう」
そう言って門番が持ってきたのは水晶だった。
『真偽の水晶』
特殊な魔法を有していて、手を置いて者の発言に嘘があるか無いかを調べる事ができる。
(たしか、聖女とかいう人間の魔法が使われてるんだっけ)
俺は言われるままに手を置いていくつかの質問に答えた。そして最後に
「お前は、擬態しか魔族か?」
「いいえ、人間です」
水晶は何も反応を示さなかった。つまり、本当ということだ。
まぁ、恐らく俺の再構築した身体が人間寄りだったんだろう。最悪、魔法でこいつらの記憶を改ざんするつもりだったから問題なかったけど。
「よし、通っていいぞ。今お前に渡した身分証は仮発行だ。騎士団本部で正規の身分証を発行してもらえ」
「分かりました」
門を抜けて中に入ると、魔族の身からすれば新鮮な光景が広がっていた。
魔力濃度が薄く空気が綺麗に見える。そして何より
「綺麗だ」
まさか、今まで沢山殺してきた人間達の国を美しいと思ってしまうとは。そんな資格ないのにな。
「まずは騎士本部に行けって言ってたよな」
街を歩きながら中心部に向かうと大きな建物が見えてきた。
言われなければ王城とすら思ってしまう程の大きさ。あれが、この国の騎士団本部。恐らく、この国が魔族領と近いため立派に作られているんだろう。
中に入ると多くの白甲冑を着た人たちが忙しそうに動き回っていた。
「あの、身分証の発行をお願いしたいんですけど」
「身分証の発行ですね。ではこちらをお書きください」
若い女性の受付に渡された紙には職業や住所を書く欄がある。
「自分、世界中を旅していまして....」
俺がそう言いかけた瞬間、とてつもない殺気を感じ反射で身構えてしまった。
「何者だ?お前」
図太い男の声の方に顔を向けると、巨漢な中年の男が立っていた。
「騎士団長!」
そのフロアにいた人達全員が動きを止めている。
「あんたが殺気を飛ばしてた本人か?」
一目見ただけで分かる。こいつは強い。
「お前、怪しい匂いがプンプンするな。少なくとも、この場にいる騎士全員よりは強い」
見抜かれたのか?これでも魔力は制御してるんだぞ?
「なんのことだかさっぱり...」
「もし!隠すつもりなら身分証を発行することは出来ねぇな。何者かも分からんやつには特に」
ミスったか。まさか癖で殺気を感じたのが仇になるとは。
「どうすればいいんですか?こっちは早く発行してもらいたいんだが」
俺がそう言うと、騎士の1人が俺に向かって来た。
「貴様、騎士団長様に向かってどんな言葉遣いをしている?いくら客人だからと言って許される行為ではないぞ」
いかにも面倒そうな奴だ。ぱっと見強いとは感じない。
「やめておけ、ケニスがどうこう言って勝てるような相手じゃないぞ」
この騎士、ケニスというのか。騎士団長は俺に突っかかるこいつを止めたつもりなのだろうが、逆効果だったようだ。
「騎士団長様、お言葉ですがいつもこの国を守ってあげている私が負けると?ならばお前、私と決闘して証明してみせろ」
(何を言っているんだこの男は。というか、このままだと面倒ごとに巻き込まれる未来しか見えない。ぜひ止めてもらいたいんだが)
「いいだろう!互いに全力で戦うといい」
「はぁ?何を言ってるんだ」
「もし、お前がこいつに勝てたら身分証の発行を許可しようじゃないか」
引き下がれない。もう、多くの騎士がこの言い争いを見ている。ここでやりませんなんて言ったら逆に怪しまれる。
「分かった。ただし治癒師は用意しておいてくれよ」
そうして、俺とケニスとかいう騎士、他大勢の騎士は外にある修練場に集まった。審判は騎士団長自らがするそうだ。
「ではこれより、決闘を始める。ルールは先に戦闘不能になった方が負けとする。では始め!!」
「手加減はなしでいかせてもらう」
最低限の心配なのか、ケニスは俺にそう言ってから剣を抜いた。
剣を鞘近くに構えたケニスは身体強化の魔法を使い接近戦を仕掛けてきた。俺に到達するまで2秒といったところか。
(遅すぎるな)
短剣をマジックボックスから取り出し、同じく身体強化を使う。俺は一瞬でケニス背後に回り込み首元に短剣を押し当てた。
「これでどうでしょうか?」
一瞬の出来事に何が起こったか分からなかった様子のケニスも、自分の置かれている状況を理解すると逆上しだした。
「イカサマだ!!そんな速さ見たことがない。皆さんも見たでしょう?あんな速さはありえない。それこそ騎士団長様なんかでないと」
彼がそう言うと、他の騎士たちも便乗して俺に疑問の念を押し付けてきた。
「酷い言いようだな。国を守る騎士がこんな言い分なんて」
「なんだと?」
「両者、そこまでだ」
騎士団長様、自らのストップ。助かった。
「ケニス、お前の疑いは私自らが晴らそうではないか。...そういえば、君の名前を聞いてなかったね」
「セント」
一応、名前全部言うとバレる可能性もあるから、貴族名を抜いた名前だけ伝えた。
「そうか、セントというのか。私の名はリューガス・グランドリデだ。リューガスと呼ぶといい」
こいつのグランドリデとかいう貴族名。たしか10年ほど前に当時のある7大天魔の軍を壊滅までに追い込んだ戦いの団長だったか。
「それで、俺に何をさせようと?」
正直、ロクでもない返答が来るのは目に見えている。
「私と戦って、一太刀でも浴びせたら身分証を発行しよう」
「それは、話が違うんじゃないですか?」
俺がそう言うと、リューガスは近づいてきて小声で
「私は気になるんだ。君の隠している本当の実力と正体が。もしやってくれれば、これ以上の関与と詮索はしないと約束しよう」
「天下の騎士団長様が脅しとは...」
だが、ここでやらなければ俺が魔族なのがバレてしまうかもしれない。つまり、やる以外の選択肢は残されていないということか。
「分かりました。ただし、これで勝ったらほんとうに詮索しないと約束してください」
「もちろん。私はこれでも約束は守るんだ」
そうして、ここに人間の英雄と最強の魔族の歴史に残らない大勝負が始まろうとしていた。




