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心終絵巻  作者: シモルカー
雷鳴の章
24/33

死地ノ唄③

       七


 泡沫は、歌うように言う。

「『妖怪絵巻』は、悲劇の歌が綴られた、哀しい恋の物語。そこには、色んな恋の物語が描かれている。破れた恋の数だけ、絵巻は存在する。そして、恋が出来るのは、生きた人のみ――つまりだ、この悲劇の主人公は、お前さんじゃない」


『五月雨の――』


 歌と共に、氷の礫ほどの強度を持った水の飛沫が弾丸のように降る。

 その中、泡沫は進む。時折、泡沫に水の飛沫が直撃しそうになるが、後方から賀照が太刀で叩き切る。しかし、賀照が援護した数はごく僅かであり、水の軌道を読んでいるように、泡沫は優雅な動きで避けて通る。

「それじゃあ、賀照。こっちの事は、任せたよ」

「ああ!」

 それを合図に、泡沫の姿は淡く光り始めた。


 蛍火のように、陽炎のように――或いは幻のように、

 

 泡沫の身体は無数の光が集っているように見えた。

 眩しすぎず、淡すぎず――適度な明るさを持ち、一寸先の闇を打ち消す。しかし、それ以上は照らさず――本当に必要な人だけを照らすように。


『五月雨の――』


 対する(せせらぎ)は、機械的に同じ行動を繰り返す。

 それを見て、泡沫はフッと笑みを零した。

「もう完全に囚われちまったかい、(せせらぎ)……怨霊を上書きする程の強い想いを持ったお前さんなら、この呪いを解くことは可能かと思ったんだがな……所詮、人間には、闇を打ち消す程の力はなしか……ああ、別に責めているわけではありやせんよ。だって……」

 そこで泡沫は細い目をやや見開き――

「そんなもんだろ、お前さん達なんざ」

 冷めた声に、一瞬だが(せせらぎ)の動きが止まったように見えた。

 が、すぐに普段見せている温和的な笑みを浮かべながら、口元を扇子で隠した。


『水の泡の――』


 一歩、進む。


『消えで浮き身と――』


『いひながら 流れて猶も――』


 二歩、三歩と進み――


『――たのまるるかな』


 泡沫が和歌を全て口ずさんだ刹那――泡沫の身体を纏っていた無数の光は泡のように弾けた。

 そして泡沫の姿も、光の粉と共に消え――泡となって周囲へ散った。完全に彼の姿が消える直前、泡に映った賀照を見て、「頼んだよ」と目で訴えて。


「早くしろよ」

 泡沫の声なき言葉を聞き取った賀照は、そう呟いた。


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