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心終絵巻  作者: シモルカー
雷鳴の章
23/33

死地ノ唄②

「おい、うた。これって……」

「あっしに分かるわけねえだろ。何でも知っているわけじゃありやせん」

「何で拗ねているんだよ」

 ――しかし、確かに、こいつは想定外だ。

 泡沫から見ても、先程までは確かに決着がついていた。今まさに終わろうとしていた。

 ――いつもなら、あそこで仕舞いだった筈だ。

 周囲を一瞬で黒い霧に変えた潺。

 先程まで、(せせらぎ)にはまだ意識があり、(せせらぎ)自身の自我が強く出ていた。自分と縁の深い小雨の意識を上書きし、肉体を乗っ取る程に――(せせらぎ)の意識は強かった。

しかし、今目の前にいる【残狂(ざんきょう)】からは(せせらぎ)の意識は感じられない。

(せせらぎ)の意識そのものが闇の中に取り込まれ――得体の知れないナニカに変化していた。

 まるで、別の感情を植え付けられたように。


 【残狂(ざんきょう)】の強さは、乙女に取り憑いている歌との同調率にある。

 乙女が歌に同調しなければ、歌に込められた怨念との繋がりは薄くなり、やがて切れる。距離が離れて、やがて左右に切れる糸のように――二度と繋がることはない。

 ゆえに、【残狂(ざんきょう)】との戦闘では、歌との繋がりを断ち切らせるために、時に幻覚で惑わし、時に言葉で意識を引き上げ、時に圧倒的な力を見せて戦意を挫くことで恋の執着を断ち切り――少女を鬼から人へと戻す。

 ――どうなってやがる? 同調率が増している……いや、違う。

 人と歌――その間に、何かが入り込んでいる。視えない何かが、断ち切れそうだった二つを繋ぎ止めている。

 最初はそれぞれの意味を持つ、たった一つの言葉が、違う言葉で混じり合うことで別の言葉となり、二字熟語へとなるように。

 やがて消える「泡」が、飛び散る「沫」と重なり、すぐに消えてなくなる、この世で最も儚い「泡沫」となるように。



 黒い霧は周囲を包み、世界そのものを飲み込む勢いだった。

「こいつは、思っていた以上に手強いかもな」

「手強い?」

「よく考えなさいな。ここら一帯は、巴さんが結界を張る事で、この空間そのものを中に閉じ込めた状態だった。しかし、その空間を、今度はアイツが黒い霧で覆った。つまり、結界の中を侵食したって事だ」

「それじゃあ、先生は……」

「まだ到着していないか、或いは中に入れないか……」

 出来れば前者であってほしいが、望みは少なそうだ、と泡沫は思った。

 黒い霧は、全身に纏わり付くように、周囲に広がった。

「だが、大本を叩けば終わりだろ!」

「待て、賀照!」

 泡沫にしては珍しく大声を上げた。賀照はそれに従い、太刀を振り落とす直前に緊急停止した形で止まった。

「うた……」

 訴えるように賀照が泡沫を見ると、泡沫は懐から扇子を取り出し、賀照の顔の前でばさり、と開いた。

 たったそれだけで、全てを焼き尽くす勢いだった炎は消え、薄暗さが増した。

 賀照は小さく息を吐いて太刀を背負う。

「すまねえ、うた」

「いや、いい。あっしは泡沫……熱を沈めるのが、あっしの役目だ」

「うた……俺は、何をすればいい?」

 賀照は真っすぐと泡沫を見つめて言った。

 燃えるような瞳に浮かぶのは、一縷の迷いもなく、目の前の相手を信じる「信頼」だけだった。

 ――まったく、そういう真っすぐな所……

「お前さんの、そういう所……あっしは、好きだよ」

「お前は本当に……嘘つきだな」

「そりゃあ……あっしは、泡沫ですから」

 そう返した泡沫の暗い色の瞳にも、確かな信頼が浮かんでいた。

「お前さんは、(せせらぎ)の相手を頼みます」

「言われるまでもねえが、お前は?」

「そんなの決まっているだろ……悲劇を終わらせに。いや、塗り替えに」


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