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睨み合いが続いたのち、先に動いたのはゼルドナーだった。
「……ふんっ!」
「っ……!」
利き手の逆側に回り込まれたと思ったら、そのまま銀色の軌跡が向かってくる。どうやら俺のナイフをある程度対策してきているらしい。体を捻りながら後ろに跳ね、辛うじてその切先が服を掠めるのに留めた。
「"炎の剣"!」
ふとグランツの声が響いたかと思うと、ゼルドナーがその場から飛び退いた。先ほどまで彼がいた場所に、メラメラと燃え立つ炎の剣が振り抜かれる。
「無詠唱で出来ればよかったんだけど。あれはヘルスティアの専売特許だからなぁ……。」
彼は若干苦笑しながら剣を構え直した。その剣の柄は本物のようだが、剣身は純粋な炎の魔法で形作られているように見えた。どうやらそういう魔道具であるらしい。
「……魔導剣か、面白い。」
ゼルドナーがその姿を消したかと思うと、次の瞬間にはグランツの真後ろについていた。振り下ろされた巨大な剣身を、揺らめく炎の剣身が受け止める。しばらく押し合ったのちに互いに一度飛び退くと、そのまま斬り合いが始まった。圧倒的なリーチ・質量の大剣と戦闘能力を持つゼルドナーに対して、グランツは互角に渡り合っている。
鎬の削り合いの中で見つけた小さな隙を突き、飛び上がって背後から奇襲する。剣を振るうその腕を封じるために、その肩を目掛けてナイフを振り下ろした。
「……!」
しかし肩にその刃先が当たる直前、ゼルドナーがグランツを突き飛ばし、そしてそのまま俺の攻撃を流しにきた。それでもナイフが大剣にぶつかった瞬間、その角度の誤差だけ、金属の塊が薄くスライスされた。
「……まったく、恐ろしいナイフだ。」
「だろ?」
そんなやりとりを短く挟む程度の余裕をひとまず見せるが……実のところ、そんな余裕な状況ではないのだ。守らなければならない対象が転がっているし、戦闘能力やリーチでは相手の方が圧倒的に有利。こちらが勝っているものといえば人数とおそらくは魔法といったところだろうか。このままじゃジリ貧になりそうだ。
「……はぁ。」
短くため息をつく。このままじゃ埒が開かない、こちらからも攻めなければ。ただ、狙うのは敵本体ではない。
「……っ!」
一気に近づき、そのまま大剣の根本を狙う。すぐに飛び退かれたが、それでも三分の一程度にまで食い込ませる事ができた。単純計算であと二回。それだけでこいつ最大の武器をぶっ壊すことができる。
「……考えたな、小娘。」
「前はそっから武器壊されて逃げたらしいじゃねぇか。今度はお前逃げられねぇな?」
「……言ってくれるな。」
しばしの睨み合いが続く。互いに、少しでも下手をすれば途端に敗北へと繋がるのだ。いやでも慎重になる。……先に痺れを切らしたのは俺だった。
「……来るかっ!」
地面を強く蹴り上げ、ゼルドナーへと突貫する、その瞬間。彼の意識が、完全に俺に向いたそのタイミング。
「……"雷の剣"!」
まるでその時を待っていたかのように、グランツの短い詠唱が辺りに響く。バチバチという音が聞こえたかと思うと、ゼルドナーの背後が一瞬青白く輝いた。
「ぐぁっ?!」
雷の剣が直撃し、彼の体に一気に電流が流れる。この機会を活かさないわけにはいかない。
「……オラァ!」
大剣の根本に刃を当て、一気に振り抜く。バターを割くかのようにその金属の塊は簡単に裂けていく。そして、ガランという大きな音を立てて、刃先が遂に落下した。
「っ?!」
しかし次の瞬間、鳩尾から腹にかけて強烈な衝撃が走る。思いっきり吹き飛ばされ、テーブルにぶつかり、そのまま高級そうな絵画に突っ込んだ。壁に叩きつけられるのと同時に、肺の中に残っていた空気が一気に吐き出される。
「ぐがっ……。」
ふと、遠くからそんなうめき声が聞こえてきた。無理やり呼吸を整えながらそっちの方に目線を向けると、グランツがバラバラに砕けた彫刻と共に倒れていた。どうやら運悪く彫刻に突っ込んでしまったらしい。暫くはあのままだろうというのが容易に想像できた。
「はぁ……はぁ……今のは、流石に、焦ったな……。」
痺れから回復したゼルドナーが、息をあげながら呟くように言う。
「そんな小娘と少年に苦戦するようでは、この先あなたの商売も長くありませんね。」
「黙っていろ、宰相。」
フィエルドが飛ばしたヤジに対して、露骨に不機嫌そうな声でゼルドナーは返答した。まあ今のはウザい。傍から見ていただけのやつにとやかく言われているわけだし。
「……。」
不意に、ゼルドナーがアーマリアの方に目線を向けた。
「っ!」
「……悪いが、戦いよりも勝利が優先だ。」
そう言うと彼は一歩一歩アーマリアへと近付いていく。少しずつアーマリアは後退りしていくが、端の方にまで追いやられてしまう。
「……小娘、今この場で大人しく拘束されるのなら、こいつには何もしないでやろう。だが……そうでなければ、こいつを殺す。」
その言葉を聞いて、一気にドス黒い何かが頭の中から湧き上がってくる。しかし落ち着け、落ち着くんだ俺。今この場で下手なことをすればアーマリアの命が危ない。あいつは間違いなく殺る男だ。下手に動くわけにはいかない。
「……全員生きたまま、という契約だったのをお忘れですか?」
「貴様は首を突っ込むな。」
フィエルドの顔に焦りが浮かんだ。ちらり、とこちらに目線を向けてくる。なんだよ、お前が始めた事だろうが。人質を取られることを想定していなかったお前が悪いわけで……。……人質?
「……!」
頭に電流が走る。そうだ、一つだけ確実な手があった。初見であれば間違いなく対策のできないものが。アーマリアも巻き込まれるが、こればかりは仕方がない。死なないのだから問題はないだろう。
「……っ?!」
「?」
「……?」
手の中で生み出された魔力の塊を、思いっきり投げつける。俺以外全員の意識がその宝石のような塊に向いたその瞬間。
「……"フラッシュバン"!」
眩い閃光と、耳を劈くような高音があたりに響き渡る。非殺傷兵器の名を冠した……というより名付けたその魔法は、一時的にこの場にいる俺以外の耳と目を使い物にならなくさせる。
「ぐぁっ……?!」
とうぜんながら、それはゼルドナーも例外ではなかった。狙うのは、今この瞬間だ! ナイフを拾い、すぐさま彼との間合いを詰める。
「……終わりだ。」
まだ相手の脳が正常に動作できていないその刹那の間に、両方の膝裏を深く切りつける。そして肩の腱を切断した。そのまま彼の体は崩れていく。念には念を入れて、踵も落としておこう。
「……これは、完敗だな。」
両手両脚が使い物にならなくなったゼルドナーは、何か捨て台詞を吐くわけでもなく、大人しくその場で負けを認めた。
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