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 王都にきた時のものよりかははるかに乗り心地のいい馬車だ。少なくとも腰の負担は遥かに減っている。


「それで……ヨハン様、今回のティーパーティー、他にも三人ほど参加者がいるとありましたが……。」


 流れゆく外の景色をなんとなく眺めていると、アーマリアが王子にそう問いかけるのが聞こえた。


「うむ。フィエルド宰相によれば此度の参加者は、主催たる彼自身に加えてバウマイスター公爵家令嬢、マギア家長男。それに加えて僕と君たち二人とのことだ。」


 うわっ、マジで上位の貴族様じゃねぇか。ちゃんとした服買ってもらってよかった……。というか待て、フィエルド宰相? なんでここでフィエルド宰相の名前が? っていうか主催……?


「此度のティーパーティーの提案及びほとんどの招待状作成等は、全てフィエルド宰相によるものだ。その目的はわからないが……二人くらいなら招待しても構わないと言われたのでな、せっかくだから提案に乗ってアーマリア嬢を招待した次第だ。」


 俺が疑問を問いかけると、そう彼は答えてくれる。……何考えてんだ、あの転生者は。急にきな臭くなってきたな。


「紅茶……というよりハーブティーについてはフィエルド宰相の助言のもと、僕が選ばせてもらった。それについては楽しみにしてもらえると嬉しい。」


 彼の言葉に、俺もアーマリアも頷く。……まあいいや、ひとまずちゃんとティーパーティーとして楽しませてもらおう。


「……と、話しているうちにそろそろ着きそうだ。」


 ヨハンの言葉に釣られて、外を見てみる。もう目と鼻の先に、荘厳な白い王城があった。中世くらいの城のイメージをそのままに、ぐるりとその周りを城壁が囲っている。遠くに見える屋根は青色だ。少し先には、城門を潜ろうとしている別の馬車が見えた。おそらくは他の招待者が乗っているのだろう。


 ……あれ、なんか忘れているような。フィエルド宰相が本当の主催だというのに驚きすぎて、色々飛んでしまった。まあいいや、忘れるってことはあまり大したことでもないのだろう……。






「おぉ……おぉ〜……。」


 前世も含めて生まれて初めて入った王城。その大広間は感嘆の声しか漏らせないほどに豪勢で、その上で気品に満ち満ちていた。天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアに壁に飾られた明らかに歴史のある絵画、あまりにも精密な彫刻。少なくとも下手に触ったりして壊すような真似は到底できないし、するつもりもない。


「すごいですね、シークス様。」


「おう……まったくだな……。」


 貴族である以上、少なくともこういうのは多少見慣れているのだろう。アーマリアは俺よりかは冷静だった。俺は下手なことを起こしてしまわないかと手足が若干ガクついているのに、彼女はそんなことはない。


「はっはっは、どうだ。言葉が悪くて申し訳ないが、平民が見る機会なんて滅多にないのだ、大広間だけでも存分に堪能するといい。」


 まあ実際、平民がそう易々と往生の中に入れる事なんてないだろう。不法侵入ならまあありえるが……それで次に入れるのは檻の中だ。


「お待ちしておりました、ヨハン王子。」


 ふと、聞き覚えのある声が正面からしてくる。そこにいたのは中年の男性。ヨハンに対してなんの緊張をするそぶりもなく近づいてくる。


「おお、フィエルド宰相。準備はもう終わっているのだろうな?」


「ええ、もちろんです。一応主催者ですから、やっておかないわけには行かないでしょう?」


 そう、この国の実質トップであり今回のパーティーの主催でもあるフィエルド宰相だ。思わず頬を引き攣らせてしまう。


「して……そちらがヘンドラーさんに……()()()()さんですね。()()()()()初めまして、この国の宰相であるアイン・フィエルドと申します。」


 当然ながら……どうやらこの場では初対面のふりをするらしい。まあこんな小娘と宰相になんらかの繋がりがあるとなると、周囲から疑いの目線を向けられたりするだろうしな。俺もそれは嫌だ。


「これはご丁寧に。ご存知のようですが……改めて、ヘンドラー伯爵家のアーマリア・フォン・ヘンドラーです。以後お見知り置きを。」


「……ハナ・シークスです。よろしくお願いします。」


 なんとか引き攣らぬように作り笑いを浮かべながら、フィエルド宰相の演技に乗っかる。一方彼は自然な笑みだ。こういうことにはかなり慣れているのだろう。


 彼と少々の雑談をしたのちに、周囲を見渡す。まだティーパーティーが始まったわけではないが、そろそろな雰囲気だ。そんな中で、ふと一人の男に目が留まる。灰色の髪で、横から見える瞳は藍色だ。年齢としては少なくとも年上だが、そこまで歳が離れているようにはみえない。テーブルの上に置かれた茶菓子を興味深そうに眺めている。


「……あっ。」


 そうだ、思い出した。フィエルドショックで忘れていたが、マギア家長男とやらが来ているんだ。同姓なだけという可能性を考慮しなければ……もしかして。


「……あの、すみません。」


「はい?」


 気になったからには解決せねば気が済まない。彼に近寄って声をかけた。


「その、もしかしてヘルスティアという妹さんがいたりしますか……?」


「え? いますけど……もしかして!」


 俺の質問で全てを察したらしい。先ほどまで若干怪訝そうな顔をしていた男は、パッと顔を明るくした。


「はい、ヘルスティアの友人です。ハナ・シークスと申します。」


「おおっ、ヘルスティアについに友人が……! これはこれはご丁寧にどうも、マギア家長男のグランツ・マギアです。妹がお世話になっているみたいで。」


 ヘルスティアの兄たるグランツの発言に、思わず苦笑した。ヘレンとヘラーにも弄られていたように、どうやら友達がいなかったというのは家族内で知れ渡っているらしい。


「あの子は内気で静かな子でしたから……かなり心配していたんですよ。学園でも学年自体が違うので全く会えませんし……。ちゃんと友達ができたのなら安心だ、これからも僕の妹をよろしくお願いします。」


 そう言って彼は握手を求めてくる。……なんか、思っていたよりも彼女は気にかけられているらしい。これまでの口ぶりから察するにあまり家族に関して良い思い出がなさそうだったが……親とかに原因があるのだろうか。というか、この人もエルステ学園の生徒なのか。


「ええ、もちろんです。」


 まあいいや。少なくともこの人は妹のことをちゃんと気にかけているみたいだし。彼の手を握り返し、固い握手を交わす。少し遅れて、後ろからアーマリアが駆け寄ってきた。


「シークス様、いきなり走り出さないでくださいよ……こちらの方は?」


「ああ、この人は……」


 と、アーマリアに彼のことを紹介する。彼女もまた妹の友人であるということを聞いたグランツは、いたく感激した様子で彼女と握手を交わした。友達がもう一人いるといえば、彼はいったいどんな反応をしてくれるのだろうか。気になるが……まあ今はいいだろう。


 ……でも、なんでこの人も呼ばれたんだろう。名前にフォンを冠していないし、おそらく俺と同じく平民なはずだ。


「お元気そうで何よりです、グランツ。」


「ああ、エーデル。相変わらずのようで僕としても安心だよ。」


 ふと、見知らぬ女性が横から彼に話しかけた。えっと……ああ、バウマイスター公爵家令嬢って人か。ピンクグレーのツインドリルに、黒色のドレスを身に纏った綺麗な女性だ。年齢はグランツと同じくらい。


「それで……こちらの方々は?」


「ああ、僕の妹の友人らしい。こっちがアーマリア伯爵令嬢で、こっちがハナさん。」


「ああ……金髪の貴女が噂の……。バウマイスター公爵家のエーデル・フォン・バウマイスターと申しますわ。以後お見知り置きを。」


 アーマリアに興味深そうな目線を向けたのちに、丁寧な所作で彼女は自己紹介した。さすがは公爵家令嬢といったところだ、無駄な動作もなにもない。……というかなんでこの二人こんな親しい感じなんだろ。


「ヘンドラー伯爵家のアーマリア・フォン・ヘンドラーと申します。」


「ハナ・シークスです。」


「あら貴女、女性でしたのね! 格好から勝手に殿方だと勘違いしておりましたわ、謝罪いたします。」


「ああいや、謝らないでください……自覚はあるので……。」


 エーデルは俺の声を聞いて、かなり驚いた様子を見せた。いやまあ、勘違いされてもしょうがない格好なのだ、こればかりは仕方がない。それに公爵令嬢に謝罪させるのはなかなかにこう、抵抗がある。


「あ、シークス様。そろそろ始まるみたいです。」


 アーマリアの言葉を聞いて、俺は一度彼らと別れた。指定された自身の席に向かう道中、フィエルド宰相が喉の調子を軽く整えている様子が見える。


「……うぉっほん、本日は私の急な招待に応えてくださり、ありがとうございます。本日は異国の地より仕入れた、"青いハーブティー"をどうぞお楽しみください。カップを片手に、お互いの交流を深めましょう。」


 ……青いハーブティー……なんか聞き覚えがあるような……。


「……バタフライピーってやつかなぁ。」


「バタフライ……?」


「ああ、俺の地元にも似たようなやつがあるんだよ。飲んだことはねぇけどな。」


 と、軽く誤魔化しながら説明する。テレビで色々と知識は持っているが……飲むのは初めてだ。いやしかし、もしかしたら違うものの可能性もあるなぁ。


「それでは、順番に注がせていただきますので少々お待ちを。」


 と、フィエルド宰相がティーポッドを片手に歩き始めた。


 うーん、まあ今のところは普通のお茶会か……。このまま、何事もなく終われば良いのだが。

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