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多くの学生で賑わう食堂で、俺たち四人はテーブル席を一つ占有していた。バイキング形式で、各々が好きな料理を好きなだけとっている。当然アーマリアのその量はえぐかった。
「んでアーマリア、さっきのって……。」
「はぐっ、はぐっ……。」
……さっきのことを聞こうと思ったが、思ったよりもめっちゃがっついていて、思わず言葉が止まった。朝食の量が少ないと嘆いていた、とヴェアティが横から説明を入れてくれる。
「ところで、なにを聞こうとしてたの?」
「ああいや、こいつに話しかけようとしたときにな……」
と、軽く事のあらましを説明する。それを終えたところで、ちょうどアーマリアが口の中のものを全て飲み込み終えた。
「……あの二人は男爵家であるウェーバー家出身のようでして。何故か昨日から私の召使というか護衛というか、そんな感じに振る舞うんです。様付けもやめてくれと言われましたし……。」
そう言って彼女は軽く説明を始めた。アイスとリーラというその二人は双子であるらしく、いつも一緒にいるんだとか。兄の方がアイスで、妹の方がリーラとのこと。少し不満そうな顔を浮かべながら、彼女は続ける。
「誰かが近づくとああやって威嚇してしまって……あまりいい気はしないんです。お友達が出来なくなってしまうので。」
「んじゃあ、やめてくれって伝えればいいんじゃないのか?」
アーマリアは首を横に振った。
「伝えたのですが……伯爵家令嬢を守るのが自分たちの役目だと言って聞かなかったんですよ……。」
……なるほど、中々に面倒臭そうな奴らだな。にしてもなんでそんなことしてんだか。
「さっきみたいに強く言えばやめてくれるんでしょうけど……。でも、積極的に話しかけてきてくれるのが嬉しいんです。だから拒絶もできなくて。それに、リーラ様が私と同部屋なんですよ……。」
苦悩に満ちた表情を浮かべながら、彼女はパンを一口齧る。……そうか、確かに同部屋だと拒絶も難しいだろうなぁ。
「んー、玉の輿狙ってそうだね。周りを遠ざけてるのは盗られないようにするためとかじゃないかな? 色々と空回りしてそうだけど。」
サラダをもしゃもしゃと食べながら、ヴェアティはそう言った。確かに、話を聞いている限りだと好感度を上げようとして空回りしている感じがする。
「むぅ……否定しきれませんね……。」
アーマリアは少し苦々しそうにしながらそう呟いた。
「……ま、まあ! せっかくの食事の時間なんだし、いまはそっちを楽しもうではないか!」
重々しい空気に耐えかねたヘルスティアが、冷や汗をかきながらそう提案する。
「……そうですね。今は忘れましょうか。」
そう言ってアーマリアはパンを齧り始めた。ヘルスティアは安堵したかのような表情を浮かべると、手元のサラダに手をつけ始めた。俺もコーンスープに口をつける。……少し冷めていた。
歴史と魔術理論、そしてショートホームルームを終え。俺とヘルスティアは駄弁りながら教室から出ようとしていた。ちなみに魔術理論は要するに魔法版物理で、魔法の中から法則性を見出していく学問らしい。
「ハナ殿、この後はどうする?」
「んー、ちょっとお前の本を読んでみたいんだよな。戻ったら貸してくれるか?」
「うむ、勿論だ! 好きなものを借りるがよい!」
嬉しそうな様子でヘルスティアは了承してくれた。あの怪奇図鑑とか結構気になってたんだよな、ありがたい。
「……あ?」
「……っ!」
ふと、青色の髪の少年と目が合った。昨日からアーマリアに付き纏っているらしいアイスだ。横には藍色の髪の少女、つまりリーラもいる。そっちはまだ俺に気付いていないらしい。
数秒ほどして、彼はこちらを睨みながら近づいて来た。そんな兄の様子から、リーラも俺の存在に気付いたらしい。
「……なぜ貴様のような庶民が、アーマリア様の友人に……!」
そう変ないちゃもんをつけてきた。横にいるリーラもブンブンと首を縦に振っている。なんだこいつら、しばいたろか……いやそれはダメだな。
「はぁ? いいだろ別に。問題でもあんのかよ?」
さっきの件もあり、少々こいつらには苛立っていた。それ故か少々声色に棘が出る。横ではヘルスティアがあわあわしていた。
「大有りですわ! アーマリア様は伯爵家の令嬢ですのよ、貴様のような庶民がそう易々と関わっていい存在ではありませんわ!」
……地球の歴史に当てはめて考えてみると、彼女の言っていることは時代的にはそこまで間違っているわけではないのだと思う。地球では当時、貴族と庶民には社会的に結構大きな格差があったわけだし。
「だから何だ? それが俺とアーマリアの交友関係がダメな理由にはならんだろ。それに、お前らはアーマリアを無視して自分の主張を押し通すのか?」
だがしかし、やはり彼らはまだ幼いのだなと思う。自身の矛盾に気が付いていないし、主張も感情に任せてやっている感が否めない。まあ中身おっさんの俺だからこそ言えるわけだが。
「ぐっ……!」
「っ……。」
完全に二人は黙り込んでしまった。俺は軽く舌打ちをすると、彼らの横を通り抜ける。ヘルスティアも冷や汗をかきながら、俺の後をついてきた。
「……庶民ごときが……僕は断じて認めないからな……!」
後ろから、アイスのそんな声が聞こえた。てめぇに認められようが認められまいが関係ないに決まってるだろ……。
荷物を部屋の隅に置き、深いため息をつきながらベッドへと腰掛ける。
「ハ、ハナ殿。読みたいのはあるか?」
俺の顔色を窺うように、少し小声でヘルスティアは問いかけてきた。
「ああ、じゃあ怪異図鑑を読ませてもらえるか?」
「う、うむ。」
彼女は意外そうな顔をしながらも、カバンから本を取り出して俺に手渡してきた。
「……その、もしかしたら気を悪くするかも知れぬが。もう少し荒れているのかと思っていたぞ……。」
その身を縮こませながら、ヘルスティアは言った。まあ、そう思われても当然だろう。本当に久しぶりにあんな不快な思いをして、内心かなり苛立っていたのだ。
「だって、お前に当たる意味なんかないだろ?」
確かに不機嫌ではあるが……それはそれ、これはこれだ。彼女に八つ当たりするような真似はしたくない。むしろ変に気を使わないでもらったほうがありがたいまであるし。
「そ、そうか……。」
ヘルスティアは安堵した表情を浮かべる。少しの間を置いて、彼女は問いかけてきた。
「して、明日は休みだがどうする?」
「んー……まあ、明日になったら考えようぜ。」
正直そこそこ疲れているので、今はあまり物事を考えたくなかった。
「ふむ、了解した。」
ヘルスティアはそう返事すると、彼女もまた本を取り出して俺の横で読み始める。……そういえば、明日の昼頃か。今日色々ありすぎて危うく忘れかけていた。三日連続何か起こることが確定していると思うと、流石に辟易としてくる。しかし、明日が一番大事まであるのだ……ちゃんと気を引き締めなければ。
本のページをめくっていると、ヘルスティアが横から話しかけてきた。
「で、どうだその本は。」
「すげぇ面白い。」
当然俺は素直な気持ちで答えた。怪異の詳細が丁寧に書いてあって、その怪異が登場する怪談もいくつかまとめられている。こう、すごくワクワクする本だ。
「そうであろうそうであろう! 特に私のお気に入りの怪異はだな……」
ニコニコと笑みを浮かべながらヘルスティアは語り出す。実に楽しそうだ。
……三日連続で何か起こるんだし、少しぐらいは休んでいてもバチは当たらないだろう。ひとまず今は、ヘルスティアと一緒にこの本に集中することにした。
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