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 俺がこの世界に来て、どうやら1年が経ったらしい。どうやらと言うのは、この肉体の年齢が11から12になっていたのを今先ほど確認したからだ。ちなみに現在のステータスはこんな感じ。


姓名: ハナ・シークス

性別: 女

年齢: 12

種族: 人間

体力: 25,631

魔力: 6,125


戦闘スキル

ナイフ術Lv.4 弓術Lv.3


魔法スキル

光魔法 闇魔法 音魔法


耐性スキル

病毒無効 性感無効 精神苦痛耐性Lv.7


体術スキル

跳躍Lv.6 疾走Lv.6


特殊スキル

超回復Lv.5


加護

生と死の神リーフェの加護


 1年前に比べて体力と魔力が増え、一部のスキルのレベルが上がっている……という感じ。ちなみにあの時ぶっ倒れたのはやはり魔力切れが原因だったらしい。翌日見たら魔力が10ぐらい上がっていた。まあ、あれから何回も魔力切れを起こしたというわけだな。あと体力はどうやらスタミナの方を指しているらしいというのも最近分かってきた。体を動かし過ぎて疲れ切った翌日、微妙に増えたりしてたし。


 兎だとか猪だとか、そういうタイプの野生動物と何回も遭遇しているうちに、ナイフ術のレベルが1上がっていた。実戦を積めば伸びるんだろう。初めて兎を狩ったときは罪悪感でちょっと数日ダウンしていたのを思い出す。初めて食べた兎肉、おいしゅうございました……。


 にしてもあのナイフの切れ味はちょっとどころかかなりおかしい。これも初めて狩りをしたときの話だが、力加減が分からずとりあえず全力でナイフを振るったところ、兎の頸椎どころかその下にあった石さえも切り裂いてしまったのだ。流石に少し力を込めただけで切れるというわけではなかったが、石が綺麗に輪切りになる時点でイカレている。


 ちなみに料理についてだが、小屋の中にある暖炉を利用している。燃料の薪はあのイカレたナイフで木を切れば手に入るし、炎も光魔法を応用すれば簡単に付けれる。なんなら大き目の石を加工すれば鍋や器だって作れる。正直地球の頃よりも食卓は彩り豊かでかつ美味しい。最高。


 そして小屋はあの後しっかりと綺麗にした。外側に纏わりついてた蔦は全て剥がしたし、石を先端に括りつけた蔦を使って簡易的な出入り口も作った。風は多少吹き込んでくるが、なにも無いよりかは遥かにマシだ。ベッドは乾燥させた蔦で作っているために鳥の巣みたいになってる。羽毛なんて当然生えていないし、その代わりとなる掛け布団もない以上、正直鳥の巣以下だ。睡眠環境に関しては地球以下で正直泣きそう。


 とまあ、あの時からいろいろ変わったわけだ。今は暖炉の前で猪肉焼いてる。この森は香辛料となる植物が結構自生しているから香りや味に大きな問題はない。でも塩欲しい。岩塩とか探そうかな……。


「……そろそろか。」


 いい感じに肉も焼けてきた頃合いだ。小屋の中に香辛料の芳醇な香りと猪肉の野生的な香りが広がる。地球にいた頃ではほとんどしなかったような、結構贅沢な食事だ。楽しみ。


 そんなことを思っていると、急に後ろからガサっという音が聞こえてきた。反射的にナイフを取って振り返る。


「……。」


「……。」


 ……人間だ。金髪のふんわりとした髪と、青空のような目。背丈と見た目上の年齢は多分俺と同じくらい。泥と葉っぱで汚れてはいるが、絹製の高そうな青い服を着ている。結構かわいい。


「……えーと、どちらさまで」


 しょうか、と言いかけたところで、目の前の少女の腹の虫が大きく鳴いた。そして即座に顔を真っ赤にする彼女。


「……食べますか?」


 肉を指差しながら尋ねると、少し恥ずかしそうにしながらも彼女は頷いた。






「はぐ、はぐ……、んぐっ、はぐ……。」


 姿勢よく、ステーキを一口大に切り分けながら黙々と食べる少女。相当空腹だったのだろう、フォークやナイフの動きは速い。しかしそれでもどこか上品さを感じる。服装も含めて考えると、どこかの貴族様だろうか。まあ、とりあえず俺も食べることにしよう……。


「……美味い。」


 焼き加減はミディアムぐらいだが、野生動物故か肉質は結構硬い。かけ過ぎぐらいの香辛料が肉の獣臭さをアクセントぐらいにまで抑えてくれている。総合して評価すれば結構美味い。でもやっぱり塩味が足りない。塩欲しい。あと米も欲しい……。ちょっとだけ日本が恋しくなってしまった。


「んぐっ、んぐっ……ぷはっ、助かりました。丸一日何も食べていなかったものでして……。」


 彼女は俺に話しかけてきた。年相応ではあるものの、どこか大人びた雰囲気のある声色だ。


「あ、申し遅れました。私、アーマリア・フォン・ヘンドラーと申します。」


そういって彼女はお辞儀をした。フォン……やっぱり貴族だこの人。


「あ、ハナ・シークスです……。」


 うーん、ただでさえ人と話すのは1年ぶりなのに、その相手が貴族様だと来た。かなり緊張する。まあいいや。とりあえず質問したいことがある。


「えっと……、名前的に貴族様だと思われますが、どうしてこんなところに……?」


「実は……」


 と彼女は答えてくれる。なんでも馬車で移動中、魔物の群れの襲撃にあったのだそうだ。その結果家族や護衛、御者とは散り散りになってしまい、とにかく群れから逃げていたらいつの間にかこの森に迷い込んでいたのだとか。食べ物もなく丸一日彷徨って、ふといい匂いがして……。


「……そして今に至る、と。」


「はい……。」


 少し俯くアーマリア。家族の安否も分からず、人気のない森に迷い込んでしまった彼女の心情は計り知れない。


「……せっかくですし、暫くここに滞在してはどうでしょうか。生憎ベッドは鳥の巣以下ですが、食事や飲料水等は提供できますよ。」


 正直、放っておけなかった。少なくとも彼女は子供だし、死なれたりしたら本当に胸糞が悪い。貴族ならきっとそのうち捜索隊が結成されるはずだ。彼らがここに来るまで保護しておきたい。


「! よろしいのですか?」


「ええ、もちろんですよ。正直、1人でずっとここに住んでるのも辛くて……。」


 実際のところ、辛くはない。ただ結構寂しい。話し相手がいない分独り言が多くなってしまったんだが、たまに我に返って虚無感に襲われる。


「御迷惑でないのであれば……。その、暫くよろしくお願いしますね、シークス様。」


「はい、よろしくお願いします。」


 少しもじもじしながらも、彼女は俺の提案を受諾してくれた。計画通り……ってやつかな。


「ところで、私もお聞きしたいことがあるのですが……。」


「なんでしょう?」


「シークス様はなぜこの森に住まわれているのでしょうか?」


 ……思わず持っていたフォークを落としてしまった。異世界転生した後に女神様にお勧めされたからとか言えるわけねぇじゃん。とりあえず誤魔化さないと。


「ま、まあ色々ありまして……ははは……。」


「……色々、ですか。」


 少し訝し気な顔をする彼女。だがしょうがない、こればっかりは馬鹿正直に答えても信じてもらえないだろうし。


「その、御両親とかは……?」


 これまた答えられない質問を……。女神様に体作ってもらったので両親いませんとか言えるわけなかろうて。


「もう、顔も覚えていませんね……。」


 焦りが混じったせいでちょっと声に吐息が多くなってしまった。


「……その、失礼なことをお聞きしましたね。」


「え? いやいや、そんなことないですって。」


 なんか悲しそうな目してるんだけどこの人。なんか勘違いさせてる気がする。……まあいいや。下手に追及されるよりもいいだろ。


 少し気不味い空気の中、若干冷めたステーキを黙々と食べた。






「……そろそろか。」


 窓から夜空を見上げ、呟く。あれから1年間、晴れていれば必ず俺はあの川辺に通っている。毎日少しずつ動いていく星空と、満ちては欠ける月が、先日のものとは違う風景を作り出すのだ。お陰で全然飽きない。


「どこか行かれるのですか?」


アーマリアが問いかけてきた。そうだ、今日からは彼女もいるんだ。


「ええ、夜空を見るのが日課でして。一緒に来ますか?」


「御一緒させていただいてもよろしいので?」


「勿論です。エスコートさせていただきますよ。」


「ふふ、ではよろしくお願いしますね。」


 ということで彼女の手を引き、いつもの川辺へと歩いていく。少々歩くが、それ以上の価値があるのだ。誰かに見せたい、この感動を共有したい。そう強く思うほどには。


 そして、辿り着いた。今日は少々波が荒い。


「っ……!」


 その風景を目にした瞬間、彼女は目を大きく見開いた。今日は二つの月がどちらとも新月だ。その分、星がいつも以上に瞬いている。天の川の濃淡がいつも以上にくっきりしているだけでなく、なんと空に銀河が浮かんでいるのだ。渦巻銀河のバルジも腕もはっきりと見え、腕に至ってはその本数も分かる。初めて見たとき、暫く脳が思考を停止して宇宙猫状態になっていたのを思い出す。


「どうです、綺麗でしょう。夜にここでこの風景を見るのが日課なんです。」


「……こんなに美しい風景が、この世界にあるんですね。」


 彼女の言葉に、俺は深く頷いた。


「ここに座って、ぼーっと空を眺めて。気が付いたら数時間経っていたり、なんなら寝ちゃったりするんですよ。」


「……私も、きっとそうなります。ずっとこの風景を見ていたいですから。」


 俺とアーマリアはその場に体操座りして、2人してぼーっと夜空を見つめ始めた。暫くして、こてん、と肩に何かが当たる。


「すー……、すー……。」


 俺の肩を枕にして、どうやら彼女は眠ってしまったらしい。軽くその頭を撫でた後、俺も自分の膝に顔を埋めた。


 1人で見たときよりも、さらに景色が綺麗に見えた。遠のいていく意識の中、俺はそう気付いた。

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