21
「……ということで、まあ俺の旧友のリーフェ……だ。」
「よろしくね〜。」
冷や汗が止まらない俺に、えらく呑気な様子の神様。目を丸くして驚いている二人。……どうしてこうなったんだ。
そもそも以前神様に会った時、こいつは「今年はもう会うのは無理」的なことを言っていたはずだ。まさか今年中に会うとは、しかも現実でとは思うわけもなかった。
「シ、シークス様に旧友……?」
「いたの……?」
幸いなことに、この世界では神様の名前を子供につけるのは当たり前のことらしい。リーフェという名前も特に何事もなく受け入れられる。それ以上に、彼女たちは俺に旧友という存在がいることに違和感を抱いているようだった。
「五、六年前に会ったのが最後だからなぁ。ボクとしてはまた会えて嬉しいけどね?」
「……。」
……まあ、俺の嘘に協力的なだけ良いだろう。意外とノリノリなようだし。
「……なんか、こう。もう少し感動の再会的な雰囲気があっても良さそうな気がするのですが。」
「いや……別に会いたかったわけじゃねぇしな。」
「数年振りの友人にそれは酷くない?」
実際には数年前の友人なんて関係ではないのだ。当然涙なんか出ないし抱き合ったりもしない。
「……本当に旧友なの?」
そう言ってヴェアティは訝しげな表情を向けてくる。……本当に聡いな、こいつ。互いのやりとりがどこかぎこちないのと、感動的な再会という空気が一切ないところから疑いを持ったのだろう。
「本当だよ。なんせボクは彼女の趣味嗜好から身長体重、体のほくろの位置まで把握してるんだから。」
まあ、俺の体の造物主だからそりゃ把握してるだろうな。……それでも最後の発言は仮に友人だとしても普通にちょっと引くな。自分の顔が若干引き攣っているのがわかる。
「……ふーん? でもそれって昔のでしょ。今この場では確認が取れないと思うんだ。」
じーっとヴェアティは、神様を睨むようにして見つめる。俺と彼女が本当に旧友なのか、彼女の中では相当疑念が深まっているらしい。
「……逆に俺とこいつが旧友じゃなかったら、何だってんだよ。」
「……まあ、それもそうだけど……。」
俺の言葉でひとまず睨むのはやめてくれたが、まだ彼女は納得が行っていないらしい。実際その疑念は当たっているのだから、何とか彼女の追求を退けられただけでも御の字だろう。
「……。」
一方神様は、彼女を興味深そうな目で見つめていた。いまさっきのあれでヴェアティに興味でも湧いたんだろうか。
「……後で話がある。」
「わかった。」
短いやりとりを、彼女らに聞こえない程度の小声で交わす。後ほど色々聞いてみねば。
「……ん〜! あま〜い……。」
手に持ったクレープを一口齧って、頬を緩めながら言葉を漏らす彼女。……もしやこいつ飯目的で来たんじゃないだろうな。
俺たちの胃が回復した頃合いに、アーマリアがせっかくだから四人で食べ歩きしないかと提案してきた。特に断る理由もなかったし、なんなら神様はかなり乗り気だった。ドーナツ片手に、スイーツを選んでいる彼女たちを眺める。
「……。」
一方、少し複雑そうな表情を浮かべているのはヴェアティだ。承諾こそしてはいたが、あまり好ましくは思っていないのだろう。手に持った環状のチュロスを小さく齧りながらも、神様の後ろ姿を時々睨んでいる。
「……一口もーらいっ!」
「あ、ちょっと!?」
ザクっという食感と共に、スパイスの芳醇な香りと砂糖の甘さが広がる。
「あ、美味いなこれ。」
「でしょ? ……って、これ私のチュッロなんだけど!」
この街ではこのお菓子のことをチュッロと呼ぶらしい。抗議の声を上げる彼女の様子が年相応で、少し笑ってしまった。
「ははは、すまんすまん。……普通に、怖い顔してたからな。こうでもしねぇと。」
「……だって、あの人なんか怪しいんだもん。」
彼女の視線の先では、アーマリアと神様が仲良くスイーツの食べ比べをしていた。二人とも目をキラキラと輝かせながら、口に甘いものを大量に放り込んでいる。
「まあ、あいつは悪いやつじゃねぇよ。それは保証する。」
生と死の神、だったか。死者の魂を審判して云々というのを最初に言っていた記憶がある。性格が悪や善に偏っていたらむしろ不味いだろう。……快楽主義者かつ愉快犯ではありそうだが。
「悪い人じゃないならいいんだけどさ……。本当に、旧友なの?」
彼女はその疑念に満ちた顔をまだ変えず、そう問いかけてくる。……普通に根負けしそうだ。自分の持つ疑念を簡単には手放さず、可能な限り解消しようとする彼女の姿勢はすごく好きだが、この場においては厄介極まりなかった。
「……さあ、どうだかな。」
真実は絶対に言いたくないが、だからと言って追求を続けられるのも困る。だから、何となく彼女にそう察してもらえるような言い方をした。
「……はぁ〜……。分かった、分かりましたよ〜。」
彼女はようやく、その疑念に満ちた顔を緩めた。少しだけ笑みを浮かべながらこっちを見てくる。
「ひとまず、忘れることにするよ。それにせっかくのお祭りなんだし。変なこと考えるよりも楽しんだ方が、いいもんねっ!」
「あっおい!」
こいつ俺のドーナツ齧りやがった。
「さっきの仕返しだーい!」
「このやろっ!」
そんなじゃれ合いをしているうちにも、段々と日は西に沈み、二つの月が空に浮かび始めていた。
トイレ休憩と言って、一旦俺と神様は二人と別れた。理由はもちろん、彼女と二人きりでないとできないような話をする為だ。人気のない広場の端で、二人しゃがんで近づく。
「……んで、お前は何でここにいんだよ。この前今年は無理だって言ってたじゃねぇか。」
「働きすぎだって怒られちゃってね。強制的に休みにされた。」
どうやら神様のいるところは割とホワイト寄りらしい。……にしても、神様が働きすぎで怒られるって何だよ。ワーカーホリックな神様とか考えたくねぇよ。
「んで、せっかくだから美味しいもの食べたくてね。そういえばゲールツがあったじゃんって。」
「……やっぱり飯メインか。」
何となく想像はついていたことだが、そんな理由で降臨したと思うと……。ジト目で彼女を見つめる。
「ああいやえっと、もちろんキミの様子も確認しにきたんだよ?」
「……サブだろ、それ。」
「……うん。」
深くため息をついた。この神様、きっとちゃんと仕事はしているのだろう。ただ、いざオフになると自分の欲求を満たすことを最優先事項にするだけで。
「でも、実際細かいところは会ってみないとわからないからね。思ったよりも元気そうで良かったよ。」
「……まあ、お陰様で。」
ははは、と彼女は笑う。綺麗な笑顔だ。
「ボクは今日でもう帰るつもりだから、そこは安心して。」
「……おう。」
そこまで寂しいと思わないのは、彼女が神様故だろうか。いつでも会えそうだという、謎の確信がある。
「それと、受験勉強頑張ってね。ボクは手伝えないけど、応援してるから。」
「……アーマリアから聞いたか。」
こくり、と彼女は頷く。受験生の時、合格祈願をしたのを思い出す。まさか本当に神様に応援されるとはな。効力はなさそうだが。
「んじゃ、そろそろ戻ろっか。早く戻らないと心配されるよ?」
「だな。」
そう言って俺たちは立ち上がる。遠くの方で盗み聞きを試みている二人を見つけて、思わずため息をついた。彼女たちの様子を見るに、どうやらうまく聞き取れなかったらしい。
「ははは、本当に面白い子達だね。」
「……まったくだな。」
俺たちに見つかったことに気付いたのだろう、慌てて逃げようとする金髪の少女と赤髪の少女。
「盗み聞きしてんじゃねーッ!」
俺は彼女たちを追いかける。一瞬見えた神様の顔は、優しい微笑みを浮かべていたような気がした。
作品が気に入って頂けましたら、評価やブックマークをして頂けると幸いです。




