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コロナになってました。

 ……朝か。まだ脳が眠いし、ここは優雅に二度寝でもかまして……。


「おはようございます、シークス様。本日も良い天気ですよ。」


 ……いつもの流れで毛布を引っぺがされた。服が胸元まで捲れ上がってるせいかめちゃくちゃ寒い。下着つけててよかった。


 ヴェアティの誘拐騒動から数日。事の顛末としては、若頭とテーリッヒは牢屋にぶち込まれ、ヴァイスはカウフマン商会で雇われることになったらしい。ボロボロでカサカサになった俺の服は、結局新しいものを作ってもらった。


「んー、ショートヘアーなシークス様にはまだ慣れませんね……。」


 朝っぱらからそんなことを言われる。あの騒動の翌日、アッフェル夫人がせっかくだからと整えてくれた髪型だ。自分ではかなり気に入っている。頭軽い。


「……飯は?」


「もう準備できてますよ、行きましょう。」


「……ん。」


 彼女に半ば引っ張られるような形で、俺は飯を食いに部屋を出た。


 今日の朝食はコーンスープにパン、サラダだ。少し前までは体面を保つために行儀よく食べていたが、もう今は欲求に耐えきれなくなってパンをスープに漬けて食べている。やっぱりこれが一番美味しい。特にお咎めもないからいいんだろう……。なんならニコニコされてるし。


「そう言えば、食神祭まであと三ヶ月なんですね。」


「ああ。楽しみにするのはもちろんいいが、ちゃんと勉強もしておくんだぞ。食神祭のすぐ後に受験が控えてるんだからな。」


「うぐ……も、もちろんです……。」

 

 ……今の短い会話の中で、初耳の言葉が二つも聞こえてきた。全く新規の言葉と、二十数年前に聞いたっきりの言葉だ。


「……なんの話だ?」


「あれ、説明していませんでしたっけ。」


「されてないな。」


 そう言えばこの家に招かれた時、ヴィンド卿が「あと数ヶ月で云々」的なことを言っていたような気はする。逆にそれ以外では何も聞いていない。


 とまあ、何も知らない俺のためにアーマリアが説明してくれた。食神祭というのはこのゲールツで毎年末に一週間ほど行われるお祭りらしい。この日まで飢えることなく過ごせたことを祝い、来年飢えることがないのを願う祭りなんだとか。


「いいですよねお祭り。その日限定の食べ物とか、いろんな屋台とかあって。」


「お前それ祭りじゃなくて飯が楽しみなんだろ。」


「……あはっ。」


 あはっ、じゃねぇよ。誤魔化すの下手すぎるだろ。


「んで、それはわかったが受験ってなんだよ。」


「えっと……実は。」


 と、彼女は話し出した。なんでも王都にある"エルステ学園"というところを受験するつもりなのだという。多くの貴族や王族が通う名門校なんだとか。


「実は私とアッフェルもそこで会ってなぁ……。」


「最初は互いに嫌い合ってたのよねぇ。気づいた時には……。」


 なんか急に惚気話が始まりそうになる。俺もアーマリアもジト目になって、二人揃ってわざとらしい咳をした。


「おっと、すまない。」


 ちょっと申し訳なさそうな顔をするヴィンド卿。互いが互いのことを好きなのはいいことだが。


「私たちは食神祭に招待されたのでゲールツに来たんです。ゲールツ自体がかなり王都に近い街なので、食神祭が終わったらすぐに王都に向かうつもりなんですよね。」


「ふーん。」


 ……要するに、数ヶ月後には離れ離れになるってことなんだよな。そう考えると、少し寂しくなった。






「ところで、気になってたんですけど。」


 ヴェアティの部屋で、いつもの三人で大富豪をやっているとき。アーマリアがヴェアティに話しかけた。


「あそこの本棚にあるすごく分厚い本たちって、なんの本なんですか?」


「ああ、参考書だよ。王都の方で受験があるからね。」


 ……ブルータス、お前もか。


「えっ、もしかしてエルステ学園ですか?」


「そうだけど……なんで分かったの?」


「私もそこを受験するつもりなんですよ!」


「本当?! じゃあ向こうでも一緒だね!」


 二人とも興奮した様子だ。


「……んじゃ、お前らとは後数ヶ月でお別れか。」


「え、ハナは受験しないの?」


「勉強とかしてねぇからな。今からやっても間に合わんだろ。」


 厳密に言えば地球の頃の知識はあるし読み書きもできるから、多分数学と国語はなんとかなる。数学は中学レベルなら紀元前ぐらいからあったらしいし、国語は転生特典的なもので余裕で読み解ける。しかし受験というからにはおそらく他の科目もあるはずだ。国数理社というところだろうか。理科に関しては、まず少なくとも地球よりかは未発達なはずだ。社会に関しては歴史も地理も何もわからん。終わり。


「そっかぁ……。」


「……。」


 ……結構気まずい空気になってしまった。


「あ、革命。」


「ちょっと?!」


「なんてことを!」


 ひとまず、無理矢理この空気をぶっ壊す。数ヶ月も後の話だ、今は気にする必要もないだろう。それでも気にしてしまうのが人間だが。






 あれから時間は経ち、夜。俺とアーマリアの部屋。


「……そういえばよ。」


「なんでしょう?」


 ふと、一つだけ疑問に思うことがあった。今までは特になんとも思っていなかったが、今日あの話を聞いてからずっと疑問に思っていたことだ。


「お前、数ヶ月後には受験あるんだよな。」


「そうですね。」


「んで、お前基本的には俺とお前って一緒にいるよな。」


「ありがたいことに。」


「……うぉっほん。んじゃ、お前いつ勉強してんだよ。」


 その質問をした途端、アーマリアがフリーズした。顔の前で手を振っても反応がない。少しして意識を取り戻したらしく、露骨に顔を背けた。


「……シ、シークス様が寝た後にしてますよ。」


「でもお前俺よりも先に寝てんじゃん。」


「……。」


「……サボってるだろ、お前。」


「……はい……。」


 しょぼくれた様子で頷く彼女。まあ、勉強したくない気持ちはすごく分かるが……。それでも貴族かよお前。


「ヴェアティも行くんだろ? ちゃんと勉強しないと三人互いに離れ離れになるかもしれないぞ。」


「……シークス様がいかないなら、いきたくないです。」


 若干拗ねたような顔をしながら、呟くように彼女は言う。それはそれでヴェアティが可哀想だけどな。


「学校で学べること得られることは人生レベルで影響するからなぁ。友達一人よりも自分のことを考えた方がいいぞ。」


「……シークス様は、私やヴェアティ様がいなくなって寂しいと思わないんですか?」


 いきなりそんなことを聞かれて、少し戸惑う。


「……寂しいに決まってるだろ。お前が一番分かってると思うが。」


「……そうですよね。私も、寂しいんですよ。きっとヴェアティ様も同じです。三人とも、誰か一人がいなくなっただけでも寂しいと思うと思うんです。だから、学園に行くなら三人で行きたいんです。」


「……。」


 少しだけ沈黙の時間が流れる。彼女の言葉と、その酷く寂しそうな表情。俺は深くため息を吐いた。


「……受験科目って何があるんだ?」


「え? ……国語、数学、理科、社会と……魔法の実技ですね。」


「……理科と社会は教えてくれよ?」


「……!」


 ぱーっと、彼女の表情が明るくなる。実際、やってみなければどうなるのか分からない。ならば最初から諦めるよりも当たって砕ける覚悟でやるしかないだろう。


「ふふ、社会と国語は任せてください!」


「……理科は?」


「じゃあ、勉強しましょうか!」


「おい。」


 彼女は露骨にこっちの問いかけをガン無視しながら、寝室にある机の棚から何冊かの参考書を取り出す。国語と社会のものは何回も読み込まれているらしく少しボロボロだが、理科と数学は明らかに小綺麗だった。


「……お前……。」


「……苦手なんですっ!」


 ……潔いだけまだいいか。数学は中学高校レベルなら全然教えられるし、理科も場合によっては教えられるはずだ。


 さて。これから三ヶ月、忙しくなるぞ。

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