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「んじゃ、作戦通りに行くぞ。突撃!」


 ドミニクの一声と共に、ミュラー商会本館への門が打ち破られた。屋敷の敷地内へと騎士たちが雪崩れ込み、警備を担当していた男たちと戦いになる。


「くそ、なんだお前ら!」


 剣と剣がぶつかり合う音と共に、警備のそんな叫び声が飛び交う。少し遅れて、俺とドミニクも参戦した。


「シークス嬢、今回の作戦は不殺が鉄則です。相手を殺さずに無力化する方法は分かりますか?」


「頭をぶん殴るとかか?」


「正解です。」


 タイミングよく突っ込んできた男を、ドミニクは剣の腹で思いっきりぶん殴る。頭に何も装備していなかった男はモロにダメージを受け、一歩二歩進んだのちにそのまま倒れた。


「場合によっては頭の骨や血管にダメージがいってしまいますが……騎士の中に回復魔法を使えるものがいるので、特に問題はありません。」


 頭にそういうダメージが入ると一生レベルで再起不能になるイメージが強いが……回復魔法、かなり強力なんだな。


「ですが、この戦法はこの重たい剣を振り回す騎士だからこそできるものです。シークス嬢の場合はそうもいきません。」


 ちらり、とドミニクは俺のナイフを見る。そう、サイズからわかるようにこいつは軽い。打撃にある程度のダメージは追加されるだろうが、それでも気絶するには程遠いだろう。


「なのでシークス嬢は、武器と腱を破壊するという手段を取るのが一番良いでしょう。そのナイフの切れ味的にもそれが一番ぴったりです。」


「任せろ、武器破壊は得意だ。」


 苦笑するドミニクを横目に、早速そこら辺にいる奴へと向かって行く。


「へっ、嬢ちゃん。流石に俺たちを舐めすぎじゃねぇのか?」


 俺を一目見て、あっという間に油断した様子を見せる男。しかしそれでもちゃんと剣は振るってくる。ということで、久しぶりにやるか。


「はん、そんなナイフ一本で何ができ……る……?」


 ナイフで剣を受け止め、そのまま思いっきり振り抜く。分断された剣身は宙を舞い、音を立てて地面に落ちた。


「は……?」


 自身の手に握られた剣だったものを、呆然と見つめる男。その隙をついて、肩、肘、膝、踵と関節を斬りつけていく。ものの数秒で男は無力化された。


「流石です、シークス嬢。」


 ドミニクは拍手しながらこちらへと歩み寄ってくる。どうやら外にいる敵はあらかた片付け終わったらしい。もう既に何人かは本館内へと突撃しているようだ。


「……。」


 少し驚いた様子のアダム。ドミニクもアーマリアも似たような顔をしていたのを思い出す。……ヴェアティに見せたらどんな顔をするのか、ふと気になった。


「んじゃ、オレたちも行きましょうか。」


 ドミニクの言葉に、俺とアダムは頷いた。






「クソ、こんなガキに……!」


 足元で呻き声を上げながらぶっ倒れている、見るからに治安の悪そうな男たち。剣やクロスボウといったものの残骸があちらこちらに散らかっている。流石に遠距離攻撃には焦ったが、転生特典のスキルに弓術があったおかげか、なんとか対応はできた。……今度、弓とかクロスボウとか練習してみるか。


 狩りをやっていたおかげか、対人戦闘でも今のところパニックになっていない。だが、狩りとは違って生かしておかなければならないというのが難点だ。力加減が難しい。実際、深く斬りつけすぎて切断寸前にまで行ってしまったり、逆に浅過ぎて腱を断ち切れなかったりと、そんなことが何回かあった。


「そっちは片付きましたかシークス嬢?」


「おう、なんとかな。」


 剣についた血を拭き取りながらこっちに歩いてくるドミニク。敵をぶん殴った拍子に相手の皮膚が裂けたらしい。布を受け取り、俺もナイフにべっとりとついた血を拭き落とした。


「……なるほど。」


 後ろからアダムの声が聞こえてきた。


「……疑ってすまない。どうやら貴殿の実力は本物のようだ。」


 と、彼は軽く頭を下げた。どうやら俺の戦いの様子を見ていたらしい。特に気にしていない旨の言葉をかけたのち、三人で一階の調査を始めた。




「……シークス嬢、何か見つけましたか?」


「いや、なんもないな……。」


 一階にあるのは、使用人のものと思わしき部屋と無駄に豪華な客間がいくつか。しかしどれも最近使われた形跡はなく、ミュラー商会の現状を暗に表していた。


「……本館にいない可能性は?」


「それはないはずだ。でないとこんなゴロツキを大量に雇っている説明がつかない。」


「……ならば、上の階か。」


「その可能性が高いな……。」


 アダムとドミニクは、そう会話を交わしながらゴロツキどもの装備を漁っていく。一見略奪に見えるが、これは調査の範疇……なはずだ。


 ドミニクが、一人のゴロツキのポケットから黄色の宝石を見つけた。矢印と何本もの直線が垂直に交わっているような奇妙な模様が描かれている。なんかこの模様、見覚えがあるような……。


「おい、この魔石はなんだ。」


「あぁ? 答える義務なんかねぇだろうが。」


 無言でアダムが彼の首元に剣を当てる。顔を真っ青にした男は、すぐに情報を吐いた。なんでも、これは遠距離での相互会話を可能とする人工魔石であり、王都の方の貴族層で最近話題になっているものらしい。


 ……そこまで聞いて、ふと思い出す。


「……八木アンテナ……。」


「ヤギ……アン……?」


「あ、ああ。なんでもねぇ。」


 呟きがドミニクに聞かれてしまったらしい。とりあえず適当に誤魔化しておく。あの矢印と直線で作られた形は、いわゆる八木アンテナに酷似していた。家の天辺に立っている、たまに鳥が止まっているあれだ。似ているのは偶然なのか、それとも意図的なものなのか。興味深いな。


「……カウフマン嬢はどこだ。」


 俺が色々考えていると、横からアダムの声が聞こえてきた。また男の首元に剣を当てて脅しをかけている。


「……くそっ! 地下室だ、そこの壁に突っ込んでみろ!」


 男は悪態をつきながら、顎で近くの壁を示す。一見なんでもない壁だが、触ろうとしたところ、そのまま腕が壁を貫通した。


「……"幻影"か。」


 そういや、そんな魔法もあったな。確か光属性だったか。


「シークス嬢、俺とアダムはここで情報を聞き出すんで、壁の向こう側の調査を頼めますか。」


「了解。」


 後ろから男の悪態と悲鳴が聞こえてきたが無視する。"幻影"によって偽装された壁の奥には、地下へと続く階段があった。


 一歩一歩階段を降りていく。階段の端に嵌め込まれた、淡い光を放つ魔石が唯一の光源だ。かなり暗く、何度も足を踏み外しそうになる。


「……扉?」


 一番下にあったのは、茶色い木製の扉だった。きっとこの扉の奥にヴェアティがいるはずだ。念の為、聞き耳を立ててみる。


『乱暴だなぁ、もう少し優しくしてよ!』


『あいつら思った以上にガチガチに縛ってるな?!』


 ヴェアティと、男の声が扉越しに聞こえてくる。


『痛い痛い! 痛いそれ!』


『うるせぇな、大人しくしてろ!』


 ヴェアティの叫び声と男の怒声が、脳裏に嫌な風景を想像させる。まずい、これは早く止めないと。ナイフを振り、扉を斬りつける。そのまま扉を思いっきり蹴破り、中へと飛び込んだ。


「ヴェアティ!」


 視界に飛び込んできたのは石畳と錆びた檻、開いた檻の扉。そして、両手両足を縄で縛られている赤髪の少女と、彼女の足を掴んでいる男。


「……ハナ!?」


 驚いた様子で、彼女……ヴェアティは俺の名前を叫んだ。彼女を助けるために男を蹴っ飛ばし、そのままハンマーロックを決める。


「ストップストップ! その人味方だから!」


「え?」


 予想だにしていなかったヴェアティの言葉に、思わず声が漏れた。え、マジ? しっかりと関節極めちゃったんだけど。

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