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 あれから数日。俺とアーマリアとヴェアティは毎日一緒に行動するようになっていた。


「うーん、流石にもう無理だよ……。」


「えぇ? シークス様はもっと食べられますよね?」


「無理。絶対に無理。」


 まあ、こんなふうにアーマリアの胃袋に二人揃って振り回されることも当たり前になった。俺とヴェアティの前にある食いかけのタルトを、アーマリアは掻っ攫ってバクバクと食べ尽くした。本当に貴族かお前。


「まあ、腹八分がちょうど良いとは言いますからね。」


 俺とヴェアティの量を合わせたぐらい食ってるのにまだ八分なのかよこいつ。こわ。


「そういえば、明日貴方のお父さんがまたうちの商会に来るらしいじゃない。」


 そのヴェアティの言葉にアーマリアは頷いた。なんでも、前回は挨拶ということで、ゲールツの領主の仲介で一度会ったらしい。今回は商談とのこと。


「じゃあ、せっかくだし二人もうちに来てよ。ボードゲームとかあるし。」


「いいですね! 勿論シークス様も来ますよね?」


「え、寝るつもりだったんだけど。」


「来ますよね?」


「はい……。」


 圧がすごい。顔すごい近い。


「あっはは、すごい圧かけるじゃん。んじゃ、楽しみにしとくね。」


 そう言うヴェアティの顔は、どこか嬉しそうだった。






 ということで翌日。二人してヴィンド卿に頼み込んでカウフマン商会に連れて行ってもらった。数分ほど歩いていると、遠くにカウフマン商会の本拠地が見えてくる。


「……一度来ましたが、やっぱり大きいですね。」


「金持ってんなー……。」


 カウフマン商会の建物は、もはや屋敷と言っても間違いではないほどの巨大さがあった。おそらくは会頭とその家族の邸宅も兼ねているのだろうが、それでも普通にデカすぎる。


「おーい!」


 建物の前には、筆髭を持つふくよかな男とヴェアティが立っていた。こちらに手を振ってくるヴェアティ。


「ようこそいらっしゃいましたな、ヴィンド卿にアーマリア嬢。」


 ヴィンド卿の手を取り、柔らかな笑みを浮かべながら歓迎の言葉を述べる男。間違いなく、このカウフマン商会の会頭だろう。


「そしてお話は娘から聞いておりましたよ、ハナ嬢。私はカウフマン商会が会頭、フェカウヘン・カウフマンと申します。以後お見知り置きを。」


「ハナ・シークスです。娘さんとは仲良くさせていただいております。」


 なるほど。子供相手にも礼儀正しく応対するというのは好感が持てるな。


「ヴェアティ、彼女たちを別館に連れて行ってあげなさい。ヴィンド卿、では行きましょうか。」


 ヴィンド卿とフェカウヘンさんはそのまま屋敷の中へと入っていく。


「んじゃ、行こうか。別館はここからちょっと離れたところにあるんだ。」


 ということで、俺たち三人は歩き始めた。


 また数分ほど歩いていると、今度は一見普通の商店にも見えるような建物に辿り着いた。中に入っていくヴェアティを追いかけ、俺たちも中に入る。


「いらっしゃいませ……、おや、ヴェアティ様でしたか。ご用件は何でしょうか。」


 どうやら玩具屋であるらしく、トランプやボードゲーム、積み木や人形なんかが置かれていた。受付にいた男が、ヴェアティに駆け寄る。


「ん、友達を連れてきたんだ。自室に通してもらえる?」


「承知いたしました。どうぞこちらへ。お二方もどうぞ。」


 男は受付の奥へと俺たちを通した。その先にある扉を開くと、少し長い廊下に出る。


「自室って、お前本館には住んでないのか?」


「まぁね。」


 特に何とも無いように、俺の問いかけに返答するヴェアティ。特に何か言い辛そうな素振りも見せないため、暗い事情があるわけではなさそうだ。


 廊下の端にある扉に辿り着くと、ヴェアティはその扉のノブを捻り、俺たちを迎え入れた。


「ここが私の自室。あんまり綺麗じゃないけど寛いでよ。」


 確かに彼女の言うように、あんまり綺麗ではない。汚れているとかそういう意味ではなくて、モノが整理整頓されていない感じだ。


「トランプにチェス、リバーシ……色々あるな。」


「ちょっと収集癖があってね。こういうの集めてるんだ。」


 そう言う彼女の顔はちょっと誇らしそうだった。実際自慢しても良いくらいには色々ある。さっき言った三つの他にも、チェッカーやバックギャモン、なんなら将棋や囲碁まであった。俺以前の転生者が持ち込みでもしたのだろうか。


「で、実は最近新しいのを仕入れてさー。」


 そう言って彼女は、棚の中からケースを取り出す。普通のボードゲームを入れるにしてはかなりの厚みがあった。ケースのロックが外され、その中身が取り出される。


「麻雀、って奴らしいんだけどね。みんなでちょっとやってみたいなって思ってさ。」


 うわ出た、面白いけどルール複雑であまり人が寄り付かないゲーム代表格。懐かしいな、よく上司と接待麻雀をやっていたのを覚えている。


「マージャン……ですか? 聞いたことがないゲームですね。」


「最近王都で流行ってるゲームらしいよ。はい、説明書。」


 彼女は羊皮紙の束を取り出し、こちらに渡した。……なるほど、ルール的には日本麻雀ではあるが符計算が消滅しているらしい。役を覚えるのが大変だが、まあこれなら初心者でもかなり取っ付きやすそうだ。


「あれ、シークス様はもう大丈夫なのですか? 結構ルールが複雑そうですけど……。」


「ああ、地元に似たゲームがあってな。」


 役の欄も確認したが、どうやら日本麻雀のものをそのままに、プラスアルファで一部の役の飜数……つまり得点が上がった程度だった。うん、問題なくできそうだ。


「ふーん。じゃあ手加減とか面白くない真似はしないでね?」


 軽く睨まれながら釘を刺された。こっわ。






「あ、ツモ。立直ツモタンヤオ平和一盃口三色同順……と、裏ドラ2枚載ったから倍満だね。4000・8000かな。」


「うっわきしょ。」


 開かれた彼女の手牌を見て、思わずそう呟いた。なんだかんだ数時間やって、全員がいい感じに勝ったり負けたりしている。ふふーん、と誇らしげにしながら彼女は点棒を受け取った。親被りしたって! というか、三人打ちで牌全種類使うのもこれはこれで楽しいな。時間かかるけど。


「……あれ?」


 改めて全員が手に配牌を取ったところで、親番となったアーマリアが声を上げる。


「どうした、傷でもあったか?」


「いえ、そういうわけではないのですが……。」


 何度も確認するように自分の手牌を確認するアーマリア。


「……ツモ!」


 「「は?」」


 俺もヴェアティも、思わず声を上げた。開かれた手牌は黒と赤の丸、すなわち筒子で染まっており、しかもその形は「一一一二三四五五六七八九九九」という特殊な形。


「天和九蓮宝燈、32000オールです!」


 ……被弾者二人してしばらく絶句したのち、震える手で点棒を渡す。


「……ねぇ、ハナ。説明書にあったけど、天和と九蓮宝燈って三人で打つ場合でも滅多に出ないんだよね?」


「……おう。」


「あれ、どんな確率?」


「……考えたくない。」


 ヒソヒソと二人でそんな会話を交わす。ちなみに結果は当然ながらアーマリアの大勝だった。


「……日も落ちてきたし、今日はもう終わろっか。途中まで送るよ。」


「……だな。」


「えー、もうちょっとやりましょうよ。」


 そう言って渋る彼女。俺とヴェアティの説得により、渋々彼女は引き下がってくれた。






「んじゃ、バイバーイ!」


 本館が見えてきたところでヴェアティと別れる。彼女が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、俺たちはその背中に手を振り続けた。


「にしても、面白いですね麻雀って。運だけじゃなくて技術も問われるゲームとは。」


「俺もそういうところにハマったんだよなー。初心者が上級者に勝てる可能性が少なくなくて、その上で長い目の勝敗じゃ技術が左右するってところが……。」


 「いいんだよ」と言おうとしたところで、後ろから何かが聞こえてきた気がした。そちらの方を睨むが、何も見えない。しばらくして少し運転の荒い馬車が視界を横切っていった。


「どうかしましたか?」


「……いや。」


 ……なんか、嫌な予感がする。


 本館の前でヴィンド卿と合流し、用意された馬車に乗り込む。


「にしても、友達が増えたようだな。」


「はい! 王都で流行っているというゲームを遊ばせてもらいました。」


 楽しげに語る彼女の様子に、満足そうに頷くヴィンド卿。娘に新しい友達が出来たことを心の底から喜んでいるようだ。


「今回の商談も上手くいってな。今日は皆良い気分で寝れそうだ。」


 ニコニコしながらヴィンド卿は言う。相当上手くいったらしい。


「具体的にはどんな商談に?」


「我々の騎士が商人たちの護衛を担う代わりに、販売価格よりもはるかに安く我々に色々売ってくれるということになってな。うまいこと全員に利がある形で話がまとまったんだよ。」


 騎士たちの訓練にもなる、とヴィンド卿は付け加える。なんでも、ここ最近カウフマン商会所属の商人に対する襲撃が増えているらしい。既に死人も出ており、護衛を依頼するために彼らからヘンドラー家に打診してきたんだとか。


「これは私の予想ではあるが……。おそらく襲撃犯はカウフマン商会に恨みのある連中……例えば、結果的に店を潰されたりした奴だろうな。」


 まあ、その可能性が一番高いだろうな。盗賊の可能性もなくはないが……。まあいい、少なくとも俺が関わることはないだろう。






…‥そう思っていた。


「ヴィンド卿、緊急の報告です。」


 ラインハルトが居間に飛び込み、寛いでいたヴィンド卿に焦った様子で声をかける。


「何だ。」


「……カウフマン商会会頭であるフェカウヘン様の娘、ヴェアティ様が失踪されたとのことです。我々に捜索の協力を要請しています。」


 思わず、俺は持っていたカップを落としてしまった。中身が床にぶちまけられ、破片が飛び散る。しかし、誰もそれを咎めようとはしない。


 ……どうやら、嫌な予感が的中したようだった。

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