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プロローグ

ふと、自分が真っ暗な空間にいることに気が付いた。内臓が浮く感覚が常にあり非常に不愉快だ。マジで不愉快。


「おっ、お目覚めかい。」


 そんな声が聞こえるのと同時に、目の前に真っ白な女の子が現れた。白い髪に白い肌、真っ白なワンピース。まつ毛さえも白い。白以外の色彩を持つのは、血のように紅く染まった虹彩のみだ。背丈は大体140とかそこらへんだろう。


「あなたは?」


「うんうん、声色からしてボクのことを子供扱いしてないね。プラス1ポイント。」


 真っ白なのはともかく。暗闇の中から現れた上に、明らかにここのことについて何か知ってそうな相手を、子供扱いする人間などいるのだろうか。


「ボクはリーフェ。人間的に言えば、生と死を司る神様……ってとこかな?」


「……神様がここにおられる訳は?」


「おうふ、もっと驚いてくれると思ったんだけど。冷静でいいね、プラス1ポイント。」


 まあ、神と言われても信じざるを得ないところはあるだろう。というかポイントってなんだポイントって。やらかしたらマイナスされるのだろうか。


「ま、ボクが生と死を司る神様だって時点で分かるんじゃない? 死者の魂を審判し、その後の処遇を決める。それがボクのお仕事さ。」


「じゃあ、私は死んだんですか?」


「うん、過労による急性心不全でそのまま。」


「……そうですか。」


「あれれ、思ったよりも反応が薄いな……。」


 あんな職場にいればいつか死ぬと思っていた以上、多少ショックではあるものの驚きはあまりなかった。パワハラモラハラが横行するわ、上から無限に仕事が押し付けられてくるわ。残業と朝帰りは当たり前。うーんゴミ。


「さて、本来なら経歴とか見た上で色々聞いて、そこから天国地獄転生とか決めるんだけど……。」


 神様は俺を指差す。


「キミ、異世界転生しないかね?」


「します。」


 即決だった。異世界転生、この言葉に心踊らぬ男などいるだろうか、いいやいない。漢文の現代語訳のような言葉遣いになってしまったが、それだけ夢が詰まっていると俺は思う。無双、成り上がり、スローライフ……色々あるが、誰しもそのどれかには憧れるに違いないだろう。


「判断が早くて素晴らしい、プラス1ポイント。さて、それじゃあ色々説明しなきゃね。」


 と、彼女は異世界転生をするにあたって色々と説明を始めた。


 まず、転生先の世界の説明。名称は"アノザール"。魔力が存在する、いわゆる剣と魔法の世界であり、科学はそこまで発展していないらしい。魔物や亜人などといったものも存在してるんだとか。スキルというものが存在し、一定の条件を満たすことで様々な耐性が付いたり、攻撃の威力が上がったりするとのこと。かなりゲーム的だが、敵を倒してレベルアップ……ということはないらしい。


 次に、転生するにあたっての説明。一から生まれ変わるという形ではなく、転生者だと神から見分けがつくように細工を施した上で、向こう側に肉体を用意するのだという。ちなみに肉体については完全に神様の趣味らしい。なぜ細工が必要なのかと聞いたところ、神様曰く「神様はこの世の全てを見なくちゃダメだからね。特定個人に付き纏ったらサボりってことで他の神にボコボコにされる。」とのこと。向こうでの肉体はどんな見た目なのか聞いたが、「向こうに行ってからのお楽しみ」ということらしい。嫌な予感がする。


 あと、"転生特典"というものについて。転生するに当たって、向こうの世界で1人でも生きていけるようにある程度スキルが与えられるらしい。神様が言及したのは、"病毒無効"というスキル。名は体を表すというが、そのまま毒や病気を無効にするというスキルらしい。毒キノコでもなんでも食べられるということ。他のスキルは向こうに行ってみてからのお楽しみとのこと。


「……さて、説明はこんなもんかな。何か質問は?」


「……先ほど即決したので聞きそびれてしまったのですが。どうして私にこの提案を?」


「……ふむ。その質問をしてきたのはキミが2人目かな。」


彼女は少し考える仕草をする。


「ま、教えてあげよう。こういうふうに異世界に転生させるのは……簡単に言えば世界のバランスを保つためだ。」


「世界のバランスを……?」


「そうだ。僕たちからみても地球の人口の増え方は異常でね。魂がどこかに偏りすぎると、簡単に言えば世界のバランスを保っていた天秤が崩れる。そうなると世界そのものが潰れたり、そうじゃなくても大災害が起きたりしちゃう。」


「地球の魂の数を減らしてバランスを取るために異世界転生を、ということですか。」


「キミのような察しのいい魂は好きだよ。プラス1ポイント。」


 いやだからポイントって何?


「……さて、それじゃあそろそろ行こうか。次の魂が待ってる。」


次の瞬間、体が光に包まれ始めた。不思議と眩しくなく、どこか暖かい。


「ああそうだ、ボクへの敬語はいいよ。堅っ苦しいの嫌いなんだよね。」


「わかりま……分かった。じゃあ、また会うことがあったらこの口調で行かせてもらうからな。」


「うんうん、飲み込みが早い。プラス1ポイント。」


 だからポイントってなんの……もういいや。


「ああ、そうだ。ボク毎年末は長期休暇があるんだよね。だからその時、ちょっと生存確認ついでにお話ししに行くから。よろしく。」


「えぇ……。」


 神様から休暇という言葉を聞きたくなかった自分がいる。ただサボりだとか言っていたので、割と神の世界も人間の世界と変わらないのだろうなとも思った。


「……さて、六花 亮(ろくはな りょう)くん。キミの異世界での旅路に幸在らんことを。って女神らしく言ってみたり。」


 彼女のその言葉を最後に、俺の体は完全に光に包まれた。






「……うぅ……。」


 突然、少女の声が聞こえてくる。しかもかなり近くから。慌てて体を起こし、周囲を見回した。しかし、辺りには誰もいない。緑色の草原と青い空が広がり、少し遠くには森が見えるぐらいだ。


「ここが、異世界か……!」


 少し興奮しながら声を漏らす。その瞬間、思わず自分の口を押さえた。あ、と短く声を出してみる。聞こえてくるのは、男の低い声ではなく、少女の声。自分で感じる声と他者の感じる声は違うと言うが、間違いなくこの声は女の子だ。


 ひとまず、自分の格好を確認する。裾などの縁が赤い黒地の服。おそらく麻製。ズボンも同じく黒地に赤い縁の、おそらく麻製のもの。わりと着心地は良い。己の服装をよく見ようと顔を動かすと、長い髪の毛がしゅるりと垂れた。自分で言うのもなんだがかなりサラサラ。


「……。」


 そして襟を摘み、そこから服の下を覗き込む。……まあ、少なくともこの肉体は本当に少女のものなのだと確信した。ちなみにちゃんと下着はつけていた。


「……はぁ。」


 思わずため息が出る。まさか外見だけでなく、性別まで変わっているとは思わなかった。別に少女になるのが受け入れられないと言うわけではないが、少しショックだ。


「……あの神様こんな趣味してんのかよ。」


 草原に吹く風が雲を運び、草を揺らす中で。俺はそう呟かざるを得なかった。

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