嗚呼、合言葉
貴方との合言葉
秘密の合言葉
出会った時の印象は最悪
相当意地悪だった貴方
でも趣味は意気投合
大好きな本について
日が暮れるまで
語り合った
そんな貴方と
語る時間は宝物だった
合言葉はお互いが一番好きな小説のタイトル
幼い子どもの様に言い合ったね
玄関の扉の前で
電話の第一声で
確認しあったね
そんな貴方が離れていく
あの子に
貴方が惹かれていく
本なんか読まなさそうなあの子と
貴方が談笑している
貴方は眼鏡をコンタクトにした
髪型も変えた
服装もお洒落になった
手を繋ぐ二人を背に
私は本を片手に歩き出す
私の恋人は本でいい
「さようなら」
呟きは風に乗って
冬の空に消えてゆく
「落としましたよ」
その声に顔をあげると
私のお気に入りの栞を手にしてる男性が
私に向かって栞を差し出していた
「落としましたよ」
男性がもう一度言う
慌ててお礼を言い受け取る私
手と手が少しだけ触れた
何故かドキリとした
「その本僕も好きですよ」
その一言で私の口から出た台詞は
「語りませんか? 一緒に」
恋の始まる予感
合言葉の奇跡、もう一度
始まれ……!
お読みくださり、本当にありがとうございました。