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第12話 リブラと大魔法使い様



 魔法を解除すると同時に杖をしまう。

 ぱちんと立ち消えた膜からモーガン殿が落ちてきて「ふぎゃ!」と尻餅をついた。しまった。膜を地面すれすれにしてから解除すれば良かった。私はシーザー様に押しつぶされた状態のまま、なんとかジェスチャーと言葉で謝罪する。



「いたたたた。どういう状況――かは大体わかったよ。いやぁ、タイミング悪かったねぇ。ご愁傷様。で、そんなことより今のって何? 君の仕業? 何を使ったの?」


「そんなことよりって」



 シーザー様の身体について誰よりも気を付けているであろうモーガン殿が慌てた素振り一つ見せないのは、やはり日常的に倒れられているからなのか。これだけ騒いでも目を覚ますどころかピクリとも反応がないのは正直怖いのだけれど。

 息をしているか心配になり、とりあえず呼吸と鼓動を確認してほっと一息つく。



「聞いているのかい?」


「……聞いてはいますが」



 不機嫌そうに覗き込んでくるモーガン殿。長い銀髪がぱさりと落ちてきて顔にかかる。ごめんごめんと言ってすぐに耳に掛けてくれたが、鋭く細められたブルーの瞳はそのままだ。皇帝陛下に押しつぶされた状態で、大魔法使い様に睨まれる。

 なんだこの状況は。



「あの、先にシーザー様を寝室に」


「ああ、いつものことだから大丈夫だよ。それに、きっとすぐ起きる。運んだところで意味はないさ」


「ですが」


「シーザー君の体調は僕が見てるから心配いらないよ。うっかりぽっくり死んじゃうことはないから安心するといい」


「言い方が不穏すぎます!」



 再度手を振って助けを求めるが、モーガン殿はぱっと杖を消して机の上に腰を下ろした。行儀が悪い。というか助けてくれる気は毛頭ないのか。優雅に足を組み思考に興じている彼には、お願いするだけ労力の無駄かもしれない。

 なんのために頑張って呼んだと思っているのだろう。


 仕方がない。私は気合と根性で肩より上だけ脱出する事に成功する。シーザー様の睡眠を妨げないよう細心の注意を払い、頭を抱きかかえる形でとりあえず落ち着いた。

 でも私がシーザー様を布団にしている事実は変わっていない。せめて毛布だけでもどこかから呼び寄せなければ。そう考え杖を出した瞬間、突如伸びてきたモーガン殿の手に杖ごと握りこまれた。



「……離していただけますか?」


「収集魔法のギフトっていうのは確かに珍しいものだけど、今まで出会わなかったわけじゃない。そいうのは大体、結構面倒な制約があって、収集対象も縛られるものだ。人間――の枠組みから僕はちょっと外れているけどそれは置いておくとして、生物なんて集められるわけないだろう。なにをしたんだい?」


「別に特別なことはしていません。お掃除魔法の延長ですよ。生物……虫とかですけど、昔集めたことがあったので、それを応用して――」


「はぁ!?」


「わ!」



 モーガン殿の綺麗な顔が近づいてきて、とっさにのけ反る。

 鏡のような青い瞳に私の姿が写り込んでいた。近い。近すぎる。身動きが取れないのだからもう少し配慮してほしい。



「普通に魔法で呼び寄せただって? 無理無理無理無ぅ理! 生物なんて集められたら大変な事になるじゃないか! 百歩譲ってそこいらの凡夫な一般人を呼ぶならまだしも、僕だよ僕! 魔法の耐久値カンストしてるんだよ!?」



 そんな事を言われましても。

 訝しげな視線を隠そうともせずぶつけてくるので、私もつい張り合って睨み返してしまう。モーガン殿が今まで見てきた収集魔法とちょっとだけ仕様が異なる私のギフト。人間の寿命を越えた大魔法使い様が食いつくくらいなのだから相当珍しいものだと分かるけど。

 所詮はお掃除魔法の範疇。買いかぶり過ぎだ。


 収集対象に生物が入っているだけで、制限なしになんでも集められるわけではない。運よく収集対象の網に引っ掛かったとしても、良い使い方は出来ないだろう。生物を集めてどうするのか。燃やすのか。非道すぎる。モーガン殿だって「大変な事になる」と言っていた。誰かの役に立てるマリルのギフトとは雲泥の差だ。

 私はシーザー様の頭を一撫ですると、はぁと息を吐いた。



「でも、誰でも集められるわけじゃない、と思います。私の予想が正しければ陛下の御身は絶対に呼び寄せることはできません」


「ふぅん? 制約はちゃんとあるんだね。それどんな?」


「私が害悪だと判断したものです」


「なんて?」


「私が害悪だと判断したものです」


「意味わかって言ってるよねそれ!?」



 思い切り首を縦に振る。

 酷い方法で無理やり呼び寄せてしまった事は私の落ち度だ。それは間違いない。反省している。でもちょっとくらい助ける素振りを見せてくれてもいいのでは。

 モーガン殿は私から手を放すと、地面に座り込んでじっと私を見た。なんというか、叱られた子供みたいだ。大人と言う年齢を飛び越えているのに庇護欲をそそられる。一種の不具合だ。脳味噌の。



「……やっぱり、モーガン・アンブローズはこの国にとって害悪だと言いたいのかい?」


「いや、何でそんな話になるんですか」


「君が害悪だって言ったんじゃないか」


「現状を! 把握! してください!」


「現状?」



 私の顔を見つめた後、ゆっくりと視線をずらしてシーザー様の頭から足までぐるりと確認する。そこでようやく気付いたらしい大魔法使い様は「あ。もしかして出たい?」と可愛らしく首をかしげて見せた。出たいに決まっています。あと毛布。毛布を持って来てほしい。


 どうやら数々のヘルプ要請を照れ隠しかと思ってことごとくスルーしていたらしいモーガン殿は、立ちあがって「ごめんね」とどこか嬉しそうに微笑んだ。


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