真夏の暑さの中で
短めのホラーです。
暑い。
蝉が狂ったように鳴き喚き、太陽が肌を焼き尽くすかのようなそんなある日の昼下がり。
私は、とある平凡な公園に来ていた。
私は、そこで木の木陰にあるベンチに座りスケッチブックを広げ、意味もなくただ、ボーッと居る。
何故そのような事をしているのか判らない。
ただ、そこに座らなければ行けないような、一種の使命感のようなものが、私をそうさせているのか、或いは何かに取り憑かれたのか…
刹那
ふッ─と何かが湧いてきた。
それはインスピレーションと言えばいいのか…私には表現が出来ない。
───が、「ソレ」は風船のように、私の体の中で膨れ上がり、突き動かされたように絵を描き始める
描いて描いて描いて描いて描いて描いて
気付けば、辺りは夕日に照らされ真ッ赤
に染っていた。
ハッと、正気に戻った私は何気なく先程まで一心不乱に向かっていたスケッチブックを見た。
───否、見てしまった。
そこには、白いワンピースを着た少女の顔を絞める私の姿があった。
しかし、肝心の顔の部分は、黒く染められており、この少女は誰なのか判らなかった。
「悪趣味な絵だ…僕は何故このような絵を?」
ボソリ…と呟いては未だに鳴き喚いている蝉の声に掻き消される。
ぞわり、と何か嫌な予感がする。
ここに居ては行けない。逃げなければ
と言う感情が、私にまとわりつく。
私は居ても経っても居られなくなり、公園の出入口めがけて走る。
走る!走る!走る!
その時だった、独りの少女が出口の前を塞いでいた。
「退いてくれ!急いでいるんだ!」
私はそう叫ぶ。
しかし、少女は退かない。それどころか、
ゆっくりと、私の方に体を向けて来た。
ズキン
と頭が痛む。酷い頭痛だった。
私は思わず、立ち止まってしまった。
じゃりじゃりじゃりじゃり
公園の砂を踏みしめながら少女が近づいてくる。
その度に頭痛が酷くなる。
私は顔をあげ、少女の姿をハッキリと見た。
そして───
「う、嘘だ…なんで、なんで君が…」
絶句する。
それもそのはず
その少女は、私が描いたあの悪趣味な絵に出てきた白いワンピースを着た少女だったのだから。
顔がしっかりと見えない。どこかぼやけて居るように見える少女は、どんどんと、近づいてくる。
その度に、私は後ずさる。
「来るな。来ないでくれ。こないでください。」
そう、少女に祈る。
しかし、止まらない。
私は元のベンチにまで追い込まれる。
そこでようやく、少女が止まる。
そして同時に口を開く。
「ねぇ、私のこと覚えてる?」
「し、知らない。それよりも僕の目の前から消えてくれ、頭痛が酷くて…死んでしまいそうだ…」
「あら、残念。でも、身体は覚えてる見たいよ?ほら、貴方のスケッチブックを見てご覧なさい。」
「ぼ、僕が君を殺したとでも言うのか!こ、この絵のように!」
「えぇ、そうよ。苦しかったわぁ…悲しかっわぁ…」
少女は首に手を当て、ここではないどこかを、見つめながら少し、寂しそうな顔をした。
「──ッ!こ、この頭痛は君のせいなのか!?そうなんだろ!」
「えぇ、そうね。」
「君は、君を殺した相手が憎い!だから復讐しようとしている!だ、だが!その相手は僕じゃあないッ!」
「いいえ、貴方よ。」
少女はキッパリと、言い切った。
「人の脳みそってよく作られているのね…」
「な、なんの事だ!?」
「都合の悪い真実を忘れてしまえるように作られてるって言っているのよ。」
ズキン
そう言われて痛みがまた、強くなる。
耐えられなくなった私は、勢いに任せて、目の前の少女の首を掴む!
しかし、少女は苦しんでいる様子は見えず、
掴みあげている私を見下していた。
「そうやって、私を殺したのよね〇〇〇〇〇」
最後の部分だけ私の耳元で囁き、少女は消えた。
それと同時に、全てを思い出した。
あの少女が誰なのか、そして私は何をしたのかを。
「ははっ…本当だな。人間の脳みそって都合よくできてるよな。ははっ…」
その日。私は家に帰ることが出来たが、一睡もできなかった。
翌日。
私は、昨日のうちに起こった出来事をまとめ、一晩中何をすべきか考えた。
それは、少女──否、私の娘の墓へ、謝りに行く事だ。
そのあとは自首し、罪を償う。
それが私ができる唯一の贖罪と信じて。
墓は隣町にあるので電車で行こうと思う。
駅に着くまでの間、娘の事を思い出していた。
墓は隣町にあるので電車で行こうと思う。
駅に着くまでの間、娘の事を思い出していた。
あの子は、産んだと同時に亡くなった私の妻にそっくりだった。顔から、性格まで、
一度、本気で生まれ変わりなんじゃないかと錯覚してしまうまでには、似ていた。
そんな娘を私は父として、愛していた。
できる限りの事はしてあげたし、当時、売れっ子の画家だった私の手元には金も沢山あり、亡くなった妻の分まで贅沢もさせてあげていた。
切っ掛けは些細な喧嘩だった。
門限を守れとか、そんな理由だった気がする。お互い頑固で仲直りが出来ないままずっと険悪な雰囲気が続いていた。
娘は血が上って居たのだろう。
つい、こう口に出してしまった。
「おとうさんなんかと結婚したおかあさんが可哀想ね!亡くなって正解よ!」
その言葉を聞いた瞬間。私は、私は…
あの絵のように…娘を…殺してしまった。
娘がなんの反応をしなくなってからすぐに私はやってしまったと思った。
だから、私は事が発覚する前に娘を埋め、
失踪した体で警察に捜索願を出した。
そこから私は娘の事を忘れるために一心不乱に絵を描き続けた。
いつの間にやら駅に着いていたようだ。
切符を買い、電車を待っていた。
平日の真昼間、辺りはがらんとしており私以外には誰もいないようだ。
ピリリリリ
『4番線に電車が到着します。』
とアナウンスがなる。
私の乗る電車だ。花束を持って、
黄色い線の前に立ち、待つのみ──
ドンッ
私は背中を押された感覚を感じ、後ろを見ると、口を三日月のように歪ませて見下ろす娘の姿が─
「おとうさん。私と一緒に地獄に堕ちましょ?大丈夫。親子ですからなんとでもなりますよ。」
あぁ、電車が近づいてくる。線路に投げ出された私は、為す術なく轢かれてゆく。
ポーン
と私の首がとぶ。
なんだか、その様子が可笑しくって
うふふ
あはは
私の意識はそこで途切れた。
おわり
お久しぶりです。金平糖です。
暑いですね!ホラーです!