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マノゼノ大戦  作者: シュート
第1章:プレリュード
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第2話:数奇な出会い

「はぁっ……!? 」


 人もまばらな講義室で雷電は目を覚ます。辺りを見回すとふと自分の腕時計に目が止まった。午前八時五十八分。講義が始まる二分前だった。


 何事もない現実に雷電はようやく安堵(あんど)する。しかしまだ鼓動は波打ち、冷や汗が頬を伝っていた。


 それにしても奇妙な夢を見た。現実味はないが妙に生々しさが残る夢を。しかし電波塔はどこか見覚えがあった。あれはどこにあったのだろう。そう思いながら窓に目を移す。


 電波塔はあっさりと見つかった。だが見ただけでは夢との関係性が出てこない。どうすれば謎が解けるか。その答えは単純明快だった。講義が終わったら電波塔に行くしかない。雷電は窓に映る電波塔を眺めながら心に決めた。


 講義は全く集中出来なかった。雷電は教授の話や板書に無理やり意識を集中させる。だがいつの間にか夢のことばかりに意識が行っていた。雷電は夢は時間が経つと共に忘れていくものだと思っていた。しかし今でも鮮明に思い出すことができている。


「はぁ……」


 雷電はため息をつくと頭を振る。夢のことばかりで頭がおかしくなりそうだった。何があってこんな事になっているんだ。心のどこかでは怒りのような感情が湧き上がっていた。


 しばらくして講義終了のチャイムが鳴る。結局雷電は板書を取ることすらもできなかった。

 次の講義は確か四限目だったはずだ。学校から電波塔へ行ってから帰ってきても間に合うだろう。そう思いながら雷電はリュックを背負うと講義室を出ていった。



 『ズュートタワー』

夢に出てきた電波塔はそんな名前だったはずだ。

かなり昔は中に入れたという記述がある。しかしあることを期に立ち入ることが禁止された。

 雷電はそんな建物へ足を踏み入れようとしている。リスクを冒すほどのリターンはない。むしろリターンすらもあるか怪しいはずだ。だが絶対行かなければならない。馬鹿げた直感が雷電の体をつき動かしていた。


「そこの男性、止まりなさい! 」


 その声に雷電ははっとする。振り返ると女性の警察官が目の前にいた。顔全体のバランスは悪くは無い。むしろ美人に入る部類だろう。だが深紅のウルフカットの髪が全てを台無しにしている。

 もう何もかも終わりだ。雷電は思わず奥歯を噛み締めた。


「キミ。名前は? 」


「雷電……幻夢です」


 女性の警察官は手帳を開くとペンを走らせる。


「雷電幻夢か。なるほど 」


 しばらくして女性は黙り込む。大した時間では無いはずだ。だが妙に長く感じ、胸が締め付けられるような思いに囚われる。


「出身は雷霆(らいてい)高校か。よりによって後輩がこんなことをするとは思ってなかった」


 女性はため息混じりに愚痴を吐いた。


「キミ、どうしてズュートタワーの敷地内に入ろうとしたんだ? 」


「はい、実は――」


 こんな与太話など通るはずがない。心の中で自嘲じちょうしながら口を開いた。意外にも女性は無言のまま話を聞いている。


「なるほど。馬鹿馬鹿しすぎる夢だな。だがあんな夢を―― 」


 突然発言を遮るように地震が起きる。そして黒い『何か』がズュートタワーから溢れ出てきた。それは地面を侵食し、荒廃した大地へと変貌させていく。


「な、なんだこれは!? 」


 女性は困惑しながら周りを見回している。雷電は異様な状況に動けなくなっていた。しばらくして冷静さを取り戻し女性と共に辺りを見回す。気がつけば周囲にいた人達は忽然(こつぜん)と姿を消していた。まるで元からいなかったかのように。


「嘘……だろ? 」


 雷電は絶句した。


『――キミたちのいる場所に現れるのも時間の問題になってしまったんだ』


 夢に出てきた少年の言葉が声として蘇ってくる。もしや彼の言った事が現実となるのだろうか。黒い“何か”によって日常が崩れていく。絶望的な光景に思わず膝から崩れ落ちた。


「大丈夫か? 」


 女性は幻夢に訊ねると手を差し伸べる。


「はい、大丈夫です。君は……? 」


「あたしか。心配しなくても大丈夫」


「あと私は朝火詩音(あさひ しおん)だ。次からはちゃんと名前を呼んでくれ」


 雷電が立ち上がると女性はにこやかに微笑む。だが彼女の隣で空間がぐにゃりと歪んでいるのが見えていた。

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