第5話:メタモルフォーゼ
雷電は謎の光で視界が見えなくなる中、どこかから声が聞こえた。
「幻影の天使、ラミエル。今からボクの力を全て貸すよ! 」
その声に困惑していくうちに光とともに痛みが嘘のように消えていく。
雷電は信じられないような気持ちになりながら自分の姿を見ると、水色のバトルアーマーが現実を突きつけるかのように輝いていた。
これが秘められた真の力なのだろうか。
雷電は拳をぐっと握りしめると再び声が聞こえてきた。
「幻夢くん、ボクの力を思う存分使って戦って。君ならばこの力を制御できるはずだよ」
絶望的な状況で武器の力を借りて変身などがありきたりだとかそんなことを言っている余裕はなかった。しかしこの状況を打破できる可能性が一気に高まって自信が湧いていたのは嘘ではない。
「幻夢……お前…………」
鍵本は雷電の姿を見てようやく口を開いた。
「鍵本さん、ここは僕に任せてください! 」
雷電はそう言うと東方に距離を詰めていく。そして無限を突き刺そうとする。しかし彼女は何事もなくひらりと避けた。
「ふうん。意外と大したことないのね」
東方はそう吐き捨てると雷電に近づいてくる。
「さてと、キミは魔法を使えるんだ。あのアークゼノに手のひらをかざして『雷霆』って唱えてみてね」
「こ、こうですか……? 雷霆! 」
雷電が詠唱するとそれに応えるように東方の元に雷が落ちた。それに対して東方は人間とはかけ離れたような動きで避ける。そして雷電の右腕を目掛けて斧を振り下ろした。
あまりにも遅い動きに雷電は軽く避けるとカウンターとばかりに彼女の肩を無限で突いた。
血は全く出ない。だが彼女の左肩が貫通されていた。
「くそっ…………こんな雑魚相手に傷をつけられるなんて……恥だわ!」
雷電は東方の言葉を無視しながら無限を真っ直ぐに引き抜く。すると彼女は鬼気迫るような顔でこちらを睨みながら怒りを露わにする。
「ウチが負けるなんてこんなことは絶対にないわ!」
東方が僕に向かって斧を振り下ろそうとした。だが避ける間もなく斧は空を切る。その間に幻夢は雷の力を無限に纏わせた。
「これでもくらえっ!稲妻槍! 」
僕は雷をまとった無限を東方に向かってビームのように発射した。素振りからしてどうやら直撃したようだ。
「まだまだっ! 」
雷電はさらに追い打ちをかけるように東方に接近して槍を軸にして回転蹴りを放つ。彼女は先程の攻撃で体が痺れて動けなくなったのか、回転蹴りを回避できずに顔に直撃して鼻血を出した。
「ウチよりも遅く生まれた天使に負けそうだなんて…… 」
東方はボロボロになりながらもフラフラと立ち上がる。相手がアークゼノとは言えちょっとやりすぎたのではないかと不安に思った。だがまだ彼女が立ち上がることにびっくりする。
「こんな天使相手に負けなんか認められないよ!こんなのノーカウントよ! 」
彼女はそう言うと雷電に向かって斧を振り下ろそうとしたが、とある一言でピタリと彼女の動きが止まった。
「いい加減負けを認めたらどうだ」
この言葉と同時に東方の体が更にボロボロになり始める。慌てて僕は後ろを振り向くと、黒のバトルアーマーに身を包んだ鍵本がいた。
彼の左目はボロボロになっている彼女を睨みつけている。まさか彼のひと睨みだけでこのようなことが起きているのだろうか。
雷電は鍵本に対する恐ろしさを覚える反面、改めて味方でよかったと思った。
「イ……邪眼…………。くっ、覚えていなさい! 」
東方はそう言うと炎と共に突然姿を消す。
何が何だか分からないが、ともかく危機は去ったのだ。雷電はほっとすると同時に疲れが溜まったのか急に目眩が襲いかかってくる。それと同時に変身が解けて倒れ込んだ。
「幻夢、大丈夫か」
鍵本はこちらの異変に気づいたのか体を支える。
美火の炎によって辺りが火の海になっているこの状況。意識を失うなんて死ぬのと同じだと思い、意識を何とか保っていた。
「大丈夫……じゃない…………」
雷電は鍵本に訴えるとこちらの体を背負いながらぽつりと何かを呟いた。だが何を言っているかまでは聞き取れない。朦朧とし始めた意識は段々あやふやになっていき、遂には途切れた。