第2話:運命を信じますか
「暇だな。なんか面白い話でもないか? 」
突然鍵本が運転しながら雷電に訊ねる。楽しそうな声をあげるが、表情はピクリとも動かない。
大切な任務の前にこんなことをするのも良くないことはわかっている。しかしこのまま暗い雰囲気に押しつぶされる方が嫌だった。
雷電は必死に面白い話を考える。
だがそのような話が全く出てこない。そう言えば御剣に彼の話を聞いていた。
「特にないですね。でも……実は鍵本さんに一つ聞きたいことがあるんです」
「なんだ? 」
鍵本は興味津々で訊ねる。
「鍵本さん、御剣さんが過去に君とゲームで戦ったことがあるらしいですが本当なんですか? 」
雷電の疑問に対して彼は少し考え込むと口を開いた。
「本当だ。俺は御剣と過去に何度か戦ったことがある。戦績は恥ずかしくて言えないが」
鍵本は話を続ける。
「確か最初に会った時は十年前にある携帯会社主催のオンラインゲームであるイノセントエックスという大会だったな 」
彼は懐かしむように表情を浮かべる。かなり思い出深い大会だと言うことが伝わってきた。
イノセントエックスは最も有名の格闘ゲームでe-スポーツの大会のゲームにも選出されている。そんな大会に参加している。つまり彼はそれなりの実力を持っていることが分かった。
「優勝すればスポンサーの打診が入り、プロゲーマーになれる大切な大会だった。様々なところからの猛者が集い、白熱した戦いを繰り広げたあまり戦意喪失しかけたのは覚えている」
彼は一息つくと話を続けた。
「まぁそれはさておき俺は運良くトーナメントの相手が良くて決勝までたどり着き…… 」
鍵本は途中で話を切ると空を仰ぐ。
雷電は任務を忘れさせる程に彼の話に聞き入っていた。
「そして決勝戦。その相手がプロゲーマーの御剣だった 」
なるほど、全てが繋がった。
最初に知り合ったのが大会の決勝の相手とは正直出来すぎではないかと思っていた。だが彼の真剣な目つきを見ていると本当の事のように思えてくる。
「俺は彼に容赦なく叩き潰されて負けた。まるでお前は負ける運命だという程に……な 」
「なるほど。プロの道を閉ざされたんですね。彼を恨んだりとかはしなかったんですか? 」
雷電は興味津々で彼に疑問を投げかける。プロゲーマーという道を彼に閉ざされたなら少しは恨んだりもするはずだ。
「あぁ。恨みは……しない」
鍵本は歯切れが悪そうに答えると質問をなげかけた。
「ともかくプロゲーマーになれなかったのもこうやってまた御剣に会えたのも何かしらの運命だろうな。幻夢、お前は運命を信じるか? 」
運命――
そんなことなど一度も考えたことは無かった。運命論では幸も不幸も予め決まっていると述べている。しかしそうなると今のような事が起きることも予め決まっていたとでも言うのだろうか。
いや、違う。運命なんかあるわけない。
しかしそう思ってもどう表現したらいいのかよく分からない。
「僕は運命は信じません。運命なんて幽霊とあまり変わりませんから」
雷電はそう言いながら鍵本に目を移す。運命も幽霊も信じるからこそそうだと感じるのだ。信じなければただの陰謀に終わる。これが雷電が出した結論だった。
「そうか。それは意外な答えだな」
鍵本は運転しながらニヤリと笑う。
「意外……ですか? 」
「あぁ。お前は信じると言いそうだったからな。それ以上にこんなまともな回答が返ってくるとも思っていなかった」
確かに彼の言う通り意外かもしれない。雷電は彼の横顔を見ながら苦笑した。だが彼の意表を突けたようでどこか嬉しくなったことは嘘ではない。そんな気持ちに満たされていると突然インカム越しに声が聞こえた。
「二時方向、エラーの敵影を発見したぜ。幻夢、路月。殲滅を頼むぜ」
「雷電です。分かりました」
その声の相手は御剣からだった。なぜそんなことが分かるのだろうか。雷電は疑問に感じながらも冷静に答えた。