第5話:仲間と明日のために
橙色の毛布が広がっているような橙色の空だった。南都の上空には西日が落ちてかけている。それはまるで余興の主催者ように全てを見下ろしていた。
雷電は無言で車を運転している。あまりにも凄惨な光景を見てしまったのか口数が少なくなっていた。
「お兄ちゃん、大丈夫? 」
咲那の声にこちらは黙って首を振る。このまま無言が続くと思っていた。だがしばらくして御剣が無言の壁を突破するように口を開く。
「悪い。オレが黙っていたらダメだよな。幻夢、大丈夫か? 」
「は、はい。大丈夫です」
「そうか。なら安心だ」
御剣の声に雷電は答えた。彼の声はどこかリーダーとしての思いを抱えた響きを残している。
「あの……御剣さん、あの時何を拾ったんですか? 」
雷電は運転しながらふと訊ねる。わざわざあの現場まで近づいて拾ってきたものだ。普通の人なら拾おうしないだろう。
「ボイスレコーダーだ。これがあればあの時何が起きたのかわかると思ってな。 今から流していいか?」
雷電が頷くと彼はボイスレコーダーを再生させる。しばらくの間は大した情報は流れてこなかった。このまま何も収穫はないままだろうか。そう思った矢先、特殊部隊員の叫び声が飛び込んできた。
「――……なっ!? ズュートタワーから光が!? みんなしゃがめ! 」
その言葉を聞いて雷電は心臓が跳ね上がった。少女と出会った時に突然の光で目が眩んだ事は覚えている。雷電は運転しながらボイスレコーダーの声に耳を傾けた。
「――なにっ!? なんだこいつらは。お前たちは何者だ! おい!返事しろ! 」
その声を機に銃器と武器がぶつかり合う音でいっぱいになる。最初のうちは銃器が勝っているかと思ったがしばらくすると逆転してしまう。
結末はとっくにわかっている。だが雷電は特殊部隊員を心の中で応援していた。
「お前たち……化け物…………」
特殊部隊員の声が聞こえてくる。雷電は思わず歯を食いしばった。
「そうよ。ウチ達は『アークゼノ』だからね」
「くっ……お前たちに南都を………………」
「南都は支配させてもらうね。あなた達のような才能もない人はここで死ぬといいよ」
冷徹な女の声が聞こえた後に骨が砕けたような音が聞こえた。しばらくの間は特殊部隊員の苦しむ声が混じる。だがその声も次第に小さくなり、ついに途切れた。
「やっぱり誰かがやったのか」
御剣はぽつりと呟くとボイスレコーダーを切った。
「そうですね。でも誰がこんなことを……」
「それは分からないな」
確かにそうだ。いつもならテロ組織や極悪犯だと考えることも出来る。だが今の状況ならば何でも有り得そうな気がするのだ。相手が宇宙人や異世界人だとしても。
「お兄ちゃんたち、何を聞いていたの? 」
咲那が不思議そうに雷電達に訊ねる。素振りからしてボイスレコーダーの声を聞いていないのだろう。
「僕の大学のとある講義だよ。咲那ちゃんには難しすぎる話だから聞かせることは出来ないかな」
雷電はそう誤魔化すのが精一杯だった。
しばらく車を走らせているとある場所にたどり着く。高いビルがいくつも乱立しており、ひとつの街を形成している。幻夢は思わずあっと声を上げた。
第二南都大学――
南都には三つの大学がある。その中でも第二南都大学は様々な学部がある大学として有名だった。しばらく車を走らせていると昨日入った建物が目に入る。学部棟と比べて一際大きく、並々ならぬ威圧感が漂っていた。
「お兄ちゃん……ここどこ? 」
「第二南都大学。安全なところだよ」
雷電はそう言うと車を停める。停めたと同時に疲労が襲いかかってくる。御剣が横にいるからこその緊張感だろうか。
「ふぅ…………」
建物に入ると雅楽が杖を磨いていた。まだこちらには気づいて居ないのかため息をついている。
「雅楽さん、戻りましたよ」
「あら! あなた達大丈夫だったの!? 」
雷電が声をかけると彼女は驚きの声を上げた。まるで化け物でも見たような顔を浮かべ、雷電と御剣の顔を見比べている。
「大丈夫だ。オレたちは無事だ。だが――――」
御剣は詳細を話した。
「そう……なのね。あなた達だけでも無事でよかったわ。それよりこの子は? 」
「ズュートタワーの道中で拾ったんです。親とはぐれたらしくて……」
雷電はそう言いながら咲那の頭を撫でる。
「そうなのね。親が無事に見つかるといいわね」
「うん! 」
雅楽の言葉に咲那は強く頷く。彼女の両親が無事に見つかって欲しい。その思いは雷電も同じだった。
「そうだった。癒月、秘田さんはどこにいるんだ? 」
「あぁ、ここの七階にいるわ。いなかったら時間を置いてまた訊ねてみて」
「分かった。幻夢も一緒に行こうぜ」
御剣はそう言いながら雷電を引っ張って歩いていく。その後ろ姿はリーダーのようだった。