第1話:朧げな意識の狭間で
ゆっくりと浮遊するような感覚。
意識と無意識がせめぎあい、曖昧模糊としていた境界が形になっていく。しばらくしてそれが夢と現の境界ということに気がついた。今から現から夢へと入るところなのだろう。
境界を超えたのか浮遊がピッタリと止み、ゆっくりと押し流されるような感覚が襲ってくる。
今日はどんな夢を見るのだろうか。
そんな感情を胸に夢の世界へと飛び込んだ。
ふわふわしたような感覚が一気に抜けていき、視界が開けてくる。まず目に付いたのは血のように赤い空をバックにそびえ立つ青い電波塔だった。見覚えがある電波塔と赤い空。現実と非現実的が混ざり合い、異様な空気を醸し出している。
もっと電波塔の近くに行きたい。しかし何かにつまづいたような感覚に襲われた。思わず地面に目を向けると荒廃したアスファルトが目に入る。
頭が変になりそうだった。早くこの夢の世界から出ていきたいと祈ってもただ虚しく時が過ぎていく。だが他にどうすることも出来ない。そう思いながらただ祈り続けることしかしなかった。
「ピギィィィィ!? 」
この世の生き物とは思えない不快な鳴き声が辺りに響いてくる。思わず振り返ってみると何かがこちらに近づいているのが見えた。
近づいてくるのは何者だろうか。微々たる興味を抱きつつ遠目を利かせるとその姿が飛び込んでくる。
それは人の姿にも見えなくはなかった。だが異様に鋭い鉤爪を生やしており、猛禽類のような目がじっとこちらを見つめている。黒々とした体からは腐敗臭を放ち、嗅覚を麻痺させてくる。
思わずその場から離れたいと思った。だがそれを遮るように突然目の前の空間が歪み出す。しばらくして後ろにいた化け物と同じものが姿を現した。
前進も後退も出来ない。まさに八方塞がりの状況に陥っていた。助けを求めようとしても声が何故か出せない。その間に化け物が鋭い鉤爪をこちらに振り下ろしてくる。
こんなの避けきれない――
半ば絶望しかけた時、突然声が聞こえてきた。
「伏せて! 」
声に従うようにその場で伏せると同時に光が辺りを包む。あまりの眩しさに視界が奪われた。
「ギャァァァァァァッ! 」
しばらくして雷鳴と同時に化け物の悲鳴が聞こえてくる。目を開けると化け物が黒い煙を出しながら消えていく。後ろの化け物も同じ目に遭っており、雷に直撃したことが手に取るように分かる。
もう大丈夫だ。ほっと胸を撫で下ろした。声の主が助けてくれなければこの命はなかっただろう。そう思いながら恐怖でガタガタと震えている自分に気がつく。
「キミ、大丈夫かい? 」
目の前に助けてくれたと思わしき少年が降りてきた。人形のような瞳と小柄な体格からかなり幼いように見える。それよりも特徴的なのは背中から生えている天使の羽だった。周囲を包み込みそうなほど大きく、思わず畏怖の念を抱く。
しばらくして声が出るようになり、軽く大丈夫ですと言う。少年は安堵したようにほっと息を吐いた。
「良かった。上司たちが言ってた通りだったね」
「上司ってなんでしょうか? 」
「あっ、それはこっちの話。それよりも雷電幻夢くん。キミに話があるんだ」
突然自分の名前を呼ばれて驚く。まさか少年がこちらの名前を知っているとは思わなかった。何故知っているのだろうか。一瞬疑問に思ったが頭の中はすぐに別のことに支配されてしまった。
「さっきいた化け物……『エラー』って言うんだけど今までボク達はエラーを食い止めていたんだ。でも抑えきれなくてね。キミたちのいる場所に現れるのも時間の問題になっているんだ」
少年はそこで言葉を切る。こちらも思わず固唾を飲んで相手の言葉を待っていた。
「だからキミに頼みたいんだ。これからエラーを絶滅するためにボクと一緒に戦ってくれないかな」
「そんなことを突然言われても無理ですよ。まずどうして僕なんですか」
「キミが『無限の可能性』を持っているからかな」
「そんなこと言われても……他に理由はありませんか? 」
たかが夢の話だ。深く考えてもいいことは無いと分かっている。しかし心の奥で現実かもしれないと思ってしまう自分がいた。
「これ以上言ったら上司から怒られるんだ。何よりボクの方に時間が無いってのもあるけど」
少年はそう言うと突然白銀の槍に姿を変えた。
一見普通の槍に見える。だがよく見てみると逆輪の中央に六角形をした水色の宝石がはめられていた。
「そろそろ行かなきゃ。キミも目が覚める頃だからね」
いや、嘘だ。愕然と同時に意識が戻るような感覚が襲う。少年に訊ねたいことが残っている。まだ夢から覚めたくない。必死に抗っても意識は覚醒へと向かっていく。
「また会う時にはもう少し詳しく話すよ。その時はもう……手遅れかもしれないけど」
相手がそれを口にした途端、ふわりとなにかに引き戻されるような感覚がした。
初めましての人は初めまして。
本作を執筆するシュートと申します。
なろうはほぼ初心者なので暖かい目で本作を楽しんでくださると嬉しいです。