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8・浄化部隊

 





 バジリスクを討伐して二日後の昼頃、浄化部隊が村に到着した。合流してすぐに浄化部隊班を現場に連れ、バジリスクの石像やバジリスクが吐いた毒溜まりの場所、枯れ地の範囲を案内した。


「今回、討伐がすごい早かったですし、石像の数も少ないですが、毒溜まりが多いですね」


 浄化部隊の班長が穏やかな口調でそう言うと、キトリーが慌てて説明した。


「すいませんっ。石像は陽動の為に壊してしまいました。毒は、怒ったバジリスクが吐きながら追い掛けてきたので、毒溜まりだらけになってしまいました……」


 班長はマスクの下で目を丸くしてキトリーを見た。今回派遣された浄化部隊の隊員は毒の対応に特化した班で、特殊なマスクと服装をしている。


「ああ。貴方は噂の新入団員ですね。新入りに陽動させるなんて、ギャエル殿は鬼ですねぇ」


「キトリーはこのパワードスーツの性能とかで毒も石化も効かないんだと。飛ぶのも速いし、うってつけだろ」


 このギャエルの言葉に、班長は感心したような声を上げた。


「ほぉ。それはそれは。ではキトリー殿、毒を少量採取したいのですが、ご助力願えますか?」


 班長の申し出にキトリーが答えるより先に、ギャエルが聞き返した。


「バジリスクの毒なんて何に使うんだ?」


「特殊部隊の方で採取出来れば、とお願いされておりましてね。キトリー殿がして下されば、より安全に出来ると思ったんですよ」


「特殊部隊か……。キトリー、出来るか?」


 ギャエルは特殊部隊という言葉を聞き、諦めたように溜息をついた。キトリーは特殊部隊がどのような部隊なのか知らなかったが快諾し、班長に続いて毒も溜まりに向かった。

 一番近くの毒溜りで班長はキトリーに採取道具を渡す。


「これはね、バジリスクの毒専用に作られた道具なんですよ。ただ、本当に安全なのか検証されていないんです。ほら、ヘンルーダの薬も気休めだと言われませんでしたか?動物実験では大丈夫でしたが人体実験をさせて貰えず、絶対に安全だとは言い切れないんですよ。……全く貴族様は頭が固い。死刑囚を数人治験に寄越してくれれば良いのに。実際に前線に立つのは騎士団や冒険者だと言うのにね……」


 長々と穏やかな口調で愚痴を吐く班長の言葉を生返事で流しながら、キトリーは毒液を小瓶に入れた。小瓶に入れるのに使用したスポイトのゴム部分が既に崩れかけている。キトリーは班長の指示通りにゴム部分は外して毒溜りに投げ入れた。瞬時にゴム部分は音を立てて蒸発してしまった。


 班長は採取した小瓶とスポイトを厳重にガラスのような箱に入れ、更に大きなガラス容器に入れる事を繰り返した。

 その様子を見ていたキトリーは、見つけた宝箱の中にも宝箱。開けても開けても箱が出てくるなんて、ガッカリ箱だなぁ。などとぼんやり考えていた。


 班長は騎士団の伝書鳩を飛ばすと、キトリーと共にギャエルの方へ戻った。


「それでは、後の処理は私達が致します。お疲れ様でした」


「おう。それじゃ、よろしく頼む。あー、毒塗れにしちまって、悪かったな」


 ギャエルの言葉に、班長は少し微笑んだようにキトリーは感じた。マスクをしているので見えはしなかったのだが。


「いえいえ。久々に専門の毒の浄化を出来て嬉しいですよ。最近無かったですからね」


 その声が少し弾んでいて本当に嬉しそうだった。ギャエルは少し引き気味に笑うと村に向かった。

 翌日村を出て、また七日かけて王都へ戻った。騎士団本部でギャエルが報告に行っているのを訓練所で待っていると、ライアンが大股で弾むような足取りでやって来た。


「アンタ達、お疲れさん。怪我はない?」


「セギュール様。お気遣いありがとうございます。この通り、無傷で帰還しました」


 ライアンの問に、オレールが立ち上がり答えた。その答えにライアンは嬉しそうな笑みを浮かべる。


「うん。流石、優秀優秀。じゃ、ベルナールとキトリーの初遠征お疲れさん会するわよ~。他の子達も、参加出来たら参加して。アタシの奢りよ!」


「セギュール様流石~!行きます行きます~!」


「俺も参加しま~す!」


 カンタンとラウルはノリノリで返事をしている。そんな中、レジスがキトリーに声を掛けた。


「キトリー、またジルを預かろうか?」


「いやぁ、毎回お世話になる訳には……」


「ん?どしたの?ジルって誰?」


 キトリーがレジスの申し出に遠慮していると、ライアンが割って入った。


「キトリーには弟が居るんです。二人暮らしで、夜弟を一人で留守番させるのは心配だから、うちで預かろうかと提案しておりました」


「へぇ~。じゃ、うちで預かるわよ。飲み会の発案者はアタシだし。執事も侍女もアタシの両親も居るから寂しくないわよ。住所書くわね。アタシも終わり次第家に戻るから、家の前で合流しましょ」


 去り際に強引にメモを渡され、ジルをライアンの家に預ける事になった。申し訳ない気持ちと有難い気持ちで半笑いしていたが、ライアンが貴族だった事を思い出し少し不安になった。ジルはしっかりしているが、失礼のないように言い含めなければ。そう思っていると、ギャエルが戻って来た。


「今回の遠征、よくやってくれた。明日から三日間休日となる。体を休めてくれ。休日中鍛錬しても構わんが、四日後は鍛錬日だからな。今日はこれで終いだ。ガラス膜加工の盾を借りてる者は返しておけよ。それでは解散」


「班長~。今日セギュール様が飲み会してくれるそうっすよ。班長は参加します?」


「セギュール様?良い酒が飲めそうだな。俺も参加で」


 声を掛けたカンタンにニヤリを笑って答えると、ギャエルは建物内に入って行った。


「ジローさんは?」


「俺はやめとく。じゃ」


 ラウルの問いかけに短く答えたジローは盾を返しに行った。その背中を見送りながらラウルは苦笑している。


「ジローさんらしいっすね~。俺も一旦帰るわ。後でな」


 そう言うと、ラウルは騎士団の寮に帰って行った。


「戦闘糧食と救急セットは返却するんですか?」


 盾を借りていないキトリーは、貰った戦闘糧食をどうするのかレジスを見上げて質問した。


「ああ、これは次の遠征に取っておいても良いぞ。但し、しっかり期限を確認しておく事。期限が近かったら食べてしまっても良い。不味くはないが、美味くもないけどな。じゃ、キトリー、また夜にな」


「はい!お疲れ様でした!」


 盾を返却しに建物に向かったレジス達を見送り、キトリーは家路に着いた。

 時間もあるしシャワーを浴びようと考えていると、フワフワの明るい金髪が目に入った。


「ニノン!久しぶり~」


「キトリー!帰って来たのね!大丈夫だった?」


 ニノンはキトリーに小走りに近付くと嬉しそうに顔を綻ばせた。キトリーも友人との半月ぶりの再会に喜び、ニノンと手を握り合いぴょんぴょんと軽く跳ねた。


「うん!今日帰って来たんだ~。王都に戻ったら、なんか安心しちゃった」


「お疲れ様~。あ、また本読む?ジルは駄目って言ってたけど、内緒で」


 悪戯っぽく笑ったニノンに、キトリーも同じ表情をして返した。


「読みたい読みたい!冒険者のお話が良いな~」


「恋愛モノも面白いわよ?今回は冒険モノね。取って来るから待ってて」


 ニノンに本を借りたキトリーは、シャワーを浴びると少し買い物をして孤児院へ向かった。孤児院に入るとすぐに院長に会う事が出来た。


「院長、ジルがお世話になりました。これ、少ないですけど、受け取って下さい」


「おやまあ。有難く頂戴します。ジル君、とっても働き者で、皆がジル君の真似してよく働くようになったんですよ」


 院長はキトリーからお菓子の詰め合わせとハムやベーコンの詰め合わせを受け取ると、裏庭に案内した。裏庭ではジルと子供達が洗濯物を取り込んでいた。キトリーもそれを手伝うと、ジルが顔を輝かせた。


「お姉ちゃん!帰って来たの?」


「うん。ジル、ただいま」


 二人は孤児院の手伝いを済ませ帰宅すると、夕方ライアンの家へ向かった。平民街しか歩いた事のない二人は、貴族街に入り大きく豪華な建物が並ぶ街並みに気圧されながら静かに進んだ。


「ジル、今日お世話になるのは、ライアン・セギュール様っていう貴族の騎士様のお家なの。くれぐれも失礼のないようにね」


「わかった」


 二人して神妙な面持ちで歩き、メモされた住所に辿り着いた。見上げた門と家を囲む塀は高く、奥に見える大きな建物まで続く庭も広い。唖然とした表情でそれらを見ていると、門前に居た警備兵にジロリと睨まれた。キトリーはドキドキしながらも警備兵に声を掛けた。


「すいません、ライアン・セギュール様は帰られましたか?」


「ライアン様ですか?何か御用で?」


「あの、約束をしておりまして、こちらで待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 警備兵は訝しげにキトリーとジルを見る。確かにキトリー達は貴族の家を訪ねるに相応しい服装はしていない。まずそんな服は持っていなかった。

 その視線が居心地悪く小さくなっていると、ライアンがやって来た。貴族なのに馬車には乗らず徒歩で帰って来たようだ。


「あら、キトリー、待たせちゃったかしら?アナタが弟さん?アタシ、ライちゃんよ。よろしく」


「あ、は、初めまして。僕はジルと言います。セギュール様、よろしくお願いします」


 キトリーはジルがしっかりと挨拶をした事に胸を撫で下ろしたが、ライアンは下唇を出して不満顔だった。


「もう、ライちゃんで良いのに」


「ライちゃん様、ですか?」


 ジルが小首を傾げるとライアンは嬉しそうに破顔した。


「そうよ!ジルちゃん!ライちゃんとジルちゃんで良いコンビね~。よろしくね。ジルちゃん」


「はい。よろしくお願いします。ライちゃん様」


 ライアンとジルは手を繋ぎ門を通ろうとした。そこに先程の警備兵が深々と頭を下げる。


「申し訳ございません!ライアン様のお客様だとは存ぜず、失礼を致しました!」


「い、いえいえいえ!とんでもございません!」


 キトリーは慌てて手と首を横に振った。頭を下げている警備兵の肩を、ライアンは優しく叩いた。


「何言ってるのよ。アタシがちゃんと伝えていれば、こうはならなかったのよ。アンタに落ち度は無いわ。いつもちゃんと仕事してくれてありがとう。これからも頼んだわよ」


「ありがとうございます!」


 警備兵はライアンに再度深々と頭を下げた。キトリーとジルはその警備兵にペコペコと頭を下げながら通り過ぎ、屋敷に向かったライアンの後を追った。

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