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7・バジリスク

 





 キトリーは上空から枯れた森を見下ろしていた。眼下には葉が落ちた木々が広がっている。枯れた森の中心は既に木は無く、砂地になっていた。

 バジリスクは何処だ?と飛びながら探すと、灰色の大きな蜥蜴が石像に食らいついているのを見つけた。トサカの生えた頭、鋭い牙、体の形、図鑑で見た姿と同じ。バジリスクだ。


「食事中かしら?班長達の所まで連れて行かなきゃなのよね……」


 うーんと考えたキトリーは、砂地に降り立ち石像と化した魔物達を次々にレーザービームで撃ち壊した。破壊音と共に崩れ落ちる石像を、音に驚いたバジリスクがビクッと体を震わせ顔を上げて見る。キトリーは更にバジリスクが食らいついていた石像も、レーザービームで破壊した。

 バジリスクの目が釣り上がったように見え、キトリーは相手の怒りがこちらに向いたと感じた。バジリスクはキトリーを睨みつけ、キトリーはバジリスクがどう動くのか警戒し見つめ合う。


 石化しないキトリーに対し更に怒ったバジリスクは、キトリー目掛けて毒を吐き出した。キトリーはそれを後方に跳び避ける。キトリーはバジリスクの方を向いたまま宙に浮かび、見つめ合ったまま後退した。

 バジリスクは逃がすものかと突進する勢いでキトリーに向かって走った。その動きは手足をバタバタと動かしているだけに見えたが、すごい速さだった。

 ギョッとしたキトリーは追い付かれないようにスピードを上げ、目についた石像を壊しながらギャエル達の居る方に飛んだ。


「どうしようすっごい怒ってるみたい……。怒らせすぎたらダメな気がするけど……」


 食欲に負けてキトリーを追いかけるのを止められても困る。だが怒りすぎてキトリー以外目に入らなくなっても困る。

 バジリスクは走りながらキトリー目掛けて毒を吐き出した。キトリーはそれを軽々と避ける。薄茶色に変色していた雑草に毒がかかり、ジュワッと音を立てて草は溶けた。


 その様子を見たキトリーは、恐ろしいものを見たように青ざめる。スピードを上げて飛び去りたいところではあるが、そんな事をすれば騎士の名折れだ。それに、説明しようはパワードスーツは毒を通さないと言っていた。だから大丈夫だ。大丈夫。緊張した表情のキトリーは自分に言い聞かせる。


 怒り狂ったバジリスクを連れ、キトリーがあと少しでギャエル達の待つ場所に到着するという距離まで来た所で、鶏の鳴き声が響いた。

 更に変な声が聞こえキトリーは後ろを振り向くと、バジリスクは目を白黒させて動きを止めていた。


「本当に雄鶏の鳴き声に弱いんだ。でも、班長は何処から雄鶏を?雄鶏なんて連れて来てたかしら?」


 ギャエルが王都出立時に皆に渡していた物は、今皆がバジリスクに向かって立てている。ギャエルはバジリスク討伐に毎回鏡を使う。今回も、キトリーとラウル以外の班員が鏡を持ち、それぞれその影に隠れている。

 出立時には居なかった筈の雄鶏も、ギャエルの足元で鏡に隠れ鳴き声を上げていた。その鳴き声が響く度、バジリスクは顔を顰めたり下を向いたりしている。

 バジリスクは雄鶏の鳴き声が苦手なのだと図鑑に載っていた。雄鶏の鳴き声は何故か頭の中に響き、それを苦痛に感じるのだと。

 動きの鈍くなったバジリスクの前方で、班員達がジリジリと動き鏡を向けた。


「キトリー、来い!」


 ギャエルの声に、キトリーはギャエルが立てた鏡の裏に隠れた。ギャエルはキトリーの肩を労うように叩くと、雄鶏を見る。


「ラウル、もう良いぞ。キトリー、バジリスクの様子を教えてくれ」


 ギャエルがこう言うと、雄鶏は静かになった。キトリーは鏡から顔を出しバジリスクを見ると、顔を顰めたバジリスクと目が合った。


「バジリスクと目が合いました」


「よし隠れろ!」


 キトリーが状況をそのまま言うと、ギャエルが大声で言った。キトリーは慌てて鏡に隠れると、バジリスクが一歩踏み出した音が聞こえてきた。

 しかし、その一歩の足音だけで、それ以降音が聞こえてくる事はなかった。

 固い表情のままのギャエルは目だけでキトリーを見る。これからどう動けば良いのかとギャエルを見ていたキトリーは、ギャエルと目が合うと頷き再度鏡から顔を出した。


「あ……」


 思わず声が出た。バジリスクは、動かない石像と化していた。


「班長、バジリスクが石化しています」


「全部か?」


「確認します」


 言葉と共にキトリーは飛び上がると、バジリスクの方へ向かった。その間も、バジリスクは動かない。

 キトリーはバジリスクの体をコンコンとノックするように叩き回った。結局バジリスクは動かず、体の全てが石化したようだった。


「班長!完全に石化しています!」


 キトリーの声を聞いたギャエルはゆっくりと立ち上がった。その隣にラウルも立つ。他の班員達も立ち上がると、鏡を仕舞い始めた。皆安堵の表情を浮かべ笑い合っている。


「最速記録だな」


「ああ。こんなに早く終わるなんて思わなかったっすね~」


 オレールとカンタンが話しているとベルナールが質問した。


「いつもはどの位かかるんですか?」


「前回はバジリスク発見まで三日かかったぜ」


「砂漠化してる範囲が広いともっとかかるな。俺が参加してから半日で終わった事はなかった。バジリスク自体頻繁に見つかる魔物じゃないからな。数える程しか討伐してないが」


 オレールがこう言うと、カンタンはベルナールの肩を叩いた。


「バジリスク討伐はこんな地味な感じだったけど、班長がこの次の討伐は大暴れ出来るやつ取ってきてくれっから」


「次はラウルとキトリーに負けずに暴れような」


 カンタンの言葉に続いて言ったオレールはこれでも治癒士である。筋肉質な肉体を持ち、ゴツゴツした重たいメイスを振るう事が好きな、癒すより戦いたいという戦う治癒士だった。カンタンも魔法剣士で補助魔法を使えるのだが、剣を振るう方が好きだと言う。十一班は血の気が多い班員が多い。


「ラウルお疲れさん」


「俺よりキトリーですよ。俺、鳴いてるだけでしたから」


「謙遜すんなって。お前が居なかったら、バジリスクはあのまま突っ込んで来てただろ?」


 レジスに労われたラウルは、お腹を押さえて顔を顰めた。


「イタチになる事にならなくて良かったんすけど、腹が……」


 バジリスクのもう一つの弱点が、イタチの最後っ屁。ラウルは念の為に、朝大量にさつま芋を食べていた。そのお陰で今お腹が痛いらしい。


「先帰ってるか?ちょっと座ってろ」


 レジスはラウルを座らせるとギャエルの元へ行き、ジローを伴い戻って来た。


「ラウル、先に村に帰って休んでろ。ジローさん、頼みます」


「ああ。ラウル」


 口数の少ないジローはラウルと共に村へ向かった。




 ギャエルは何かを飛ばしていた。それは初め色の付いた紙だったのだが、ギャエルが何かを書きつけた後折りたたみ、軽く放ると鳥の姿となって飛んで行った。


「班長、さっきの何ですか?」


「ああ、さっきのは騎士団連絡用の伝書鳩だ。何代か前の魔術師隊の隊長が開発したもんなんだと。バジリスクの遺体処理とこの辺の土地浄化をする部隊に連絡したんだ」


 キトリーは討伐の事後処理がある事を初めて知り、へぇ~、と目を丸くして頷いている。そして思い出したように疑問を口にした。


「そういえば班長、雄鶏は何処に行ったんですか?私、班長が雄鶏を連れて来てるなんて気付きませんでした」


「あ?あれはラウルだぞ。腹が痛いってんで、ラウルは先に帰らせた」


 今度は驚きに目を丸くしているキトリーの背中を、レジスが叩いた。


「ラウルは動物に変身出来るスキルを持っているんだ。キトリーのと同じで、かなり珍しいスキルだな」


「色んなスキルがあるんですね~」


「それをお前が言うのか!」


 自分を棚に上げたキトリーにカンタンが突っ込みを入れ、一同は面白そうに笑い声を上げた。すると、先程ギャエルが放った鳥とは違う色の鳥が飛んで来て、ギャエルの掌の上で折られた紙に変化した。


「浄化部隊は明後日到着するらしい。村で待つとするか」


 手紙を読んだギャエルは、バジリスクの住処とその周辺を見て回り村に向かった。村に着くと村長にバジリスクは討伐した事、騎士団の浄化部隊がこの村に向かっている事、浄化部隊が良いと言うまで森には入らないようにと伝えた。

 村長は余りにも早い解決に感動し、村長の家で酒や御馳走を振舞ってくれた。




「格好良かった、キトリーも、ラウル先輩も」


 酒の回ったベルナールはこう零した。


「何言ってんだよ。キトリーは兎も角、俺は鳴いてただけだっての」


 ラウルが自嘲すると、ベルナールは首を振った。


「そんな事ないです。ラウル先輩もキトリーも、バジリスク討伐の為に出来る事に努めていました。俺は……俺はただ鏡に隠れてただけで……」


 バジリスクという強力な存在に恐怖してしまっていただけで……。ベルナールは言葉と共に酒を飲み込んだ。


「ベルナール、バジリスクの対処法が見つかるまでに、百名以上の騎士が犠牲になった。鏡の影に隠れるという戦法が見つからなければ、もっと犠牲者は増えていただろう。力だけで対抗出来ない魔物も居る。生きて魔物を討伐する為の戦法を恥じるな」


 ギャエルが静かに諭すように言葉をかけると、ベルナールは絞り出すように返事をして頷いた。


「若いな~。班長!次は大暴れさせて下さいよ~!」


 ラウルの要望に、ギャエルはしたり顔で酒を飲み黙って首肯する。カンタンはベルナールの肩を抱いて語りかけた。


「ベルナール、騎士団はチームで戦うんだ。自分の思う活躍が出来ない事もあるんだぞ」


「お前な~。そう思ってるなら戦闘中もっと補助魔法使え」


 カンタンはレジスに指摘され、苦笑いした。その様子を見ていた班員達は大笑いしている。

 班員達はバジリスクの討伐と皆の無事を祝い、宿に戻っても飲んでいた。

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