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5・遠征準備

 





 入団式後一週間程経ったある日の事、ジルとキトリーは二人でキッチンに立っていた。夕食を作りながらジルは嬉しそうに朝の事を話してくれた。


「今日、新しい友達が出来たんだ」


「へぇ。良かったじゃない。どんな子なの?」


 キトリーは鍋に切った野菜を入れながら聞いた。ジルは嬉しそうに答える。


「すごくカッコイイ人だよ。毎朝走ってるんだって。俺も走ろうかなぁ」


 既に新しい友達に憧れの気持ちを抱いているらしいジルに、キトリーはつい笑った。


「良いんじゃない?私も朝走ろうかしら。全然走り込みに着いて行けないのよね~」


 キトリーは一週間経っても、鍛錬時の走り込みを最後まで走り切れていなかった。ため息をつき上を見るキトリーを横目で見ながら、ジルは呆れ顔で笑った。


「お姉ちゃん起きれるの?昨日も遅くまで本読んでたせいで、朝寝坊してたのに?」


「う……だって、ニノンに借りた本が本当に面白くて、止まらなかったんだもん……」


 ニノンは二人の住む集合住宅の大家の娘で、キトリーと歳が近い。越してきたばかりの二人に町の事を色々と教えてくれ、二人とニノンはすぐに仲良くなった。

 キトリーの言葉に、ジルはまた大袈裟にため息を吐き出す。キトリーはその横で苦笑いをするしかなかった。


「全く、ただでさえお姉ちゃんは朝が弱いのに。ニノンに言っておかなきゃなぁ」


 悪戯っぽく笑うジルに、小さくなるキトリー。これではどちらが年上か分からない。二人はこの後も仲良く話しながら夕食を食べた。





 翌日、鍛錬日であるこの日は朝から走り込みを行っていた。キトリーは最後の方で離脱してギャエル達の遥か後方をノロノロと歩いている。

 ギャエルが走り終えてゆっくり歩いていると、いつもは午後からキトリーを見ているエリクがやって来た。


「ギャエル、今からキトリーの訓練に入る。キトリー、来なさい」


「はい!」


 キトリーはエリクの声に瞬時に反応しエリクの方に小走りに駆け寄った。エリクに続き打ち込み台の並ぶ区画へ向かう。打ち込み台の前でエリクがくるりと振り向いた。


「キトリー、君はかなり重い物を持てるらしいな。それは本当か?」


「はい。説明しようの説明では、雄牛二頭分の重さを持ち上げる事が出来るそうです」


 説明しようの説明?理解し難い言葉にエリクは眉を顰めたが、キトリーの怪力には感嘆した。


「それはかなりの重さだな。パワードスーツの能力によるものか?」


「そうです。パワードスーツ非装着時はただの非力な村娘です」


「……成程。他にパワードスーツの能力は?教えられる範囲で構わない」


 エリクは拳で口元を隠しながら質問を重ねた。先程のキトリーの言葉が何故か面白かったらしく、口角が上がっている。キトリーはそれに気付かず真面目な顔をして答えた。


「はい。パワードスーツは魔力を捧げる事で様々な機能を追加する事が出来ます。それにより、私は飛行、高速飛行、力強化(パワーアップ)を取得しました」


「素晴らしい能力だな」


 そして厄介だ。パワードスーツは更に強くなる事が出来る。そしてキトリーには向上心がある。やはりこれは騎士団が手中に収めていなければならないものなのだ、悪用される事があってはならないと、エリクは改めて実感した。


「パワードスーツを装着する条件はあるのか?装着するにも魔力が必要だとか?」


「確認させて下さい」


 キトリーはすぐに頭装備を装着すると、あの声が聞こえてきた。



『説明しよう!装脱着の為に必要なのは君が、装着、解除、と口にするか念じる事だけだ。魔力切れの状態でも装脱着は可能だが、魔力が必要な機能は魔力が回復するまで使用出来ないぞ。パワードスーツ損傷時も装脱着出来るが、パワードスーツ修復にも魔力を必要とする。パワードスーツ修復に魔力が優先して使われる為、その際にも他の機能は使用不可能だ』



「成程成程、ありがとう。頭装備解除」


 キトリーが礼を言うと、説明しようが返事をする前に頭装備を解除した。そして説明しようの言っていた内容をエリクに話す。


「そうか。つまり、君は何時でもパワードスーツを装着出来るんだな」


「はい。ただ、その時着ている服は脱げてしまうので、素早く服を回収する練習を家でしています」


 大真面目な顔をしてキトリーは言ったが、エリクは赤い顔をして眉間に皺を寄せた。エリクの周りにこのような事をあけすけに言ってしまう女性は今まで居なかった。耳まで熱い気がしたが、エリクは薄目でキトリーを見ながら言った。


「では、これからは筋トレの時間は他の鍛錬をしてもらう。全身持久力はパワードスーツで補えないようなので、その鍛錬をしよう。走り込みもやり方を変えるか……」


 エリクはキトリーの鍛錬内容を大幅に変更し、これからキトリーはエリクの考えた方法で午前中の鍛錬をする事になった。今までよりもかなり疲れる内容で、昼食時に他の班員達に次々に肩を叩かれ労われた。


「今日の午後は陣形を考えるって班長が言ってたから、多分副団長の鍛錬は無いんじゃないかな」


 余りにもヘトヘトだったキトリーは、このラウルの言葉に大いに喜んだ。美味しい昼食を堪能し他の班員と共に鍛錬場に向かうと、ギャエルとエリクが既に待っていた。

 まさかエリクが居るとは思ってもみなかったキトリーは、時が止まったかのように動きを止めた。その様子をしっかり見ていたらしいエリクは面白そうに笑みを深める。

 ギャエルはそんな二人を気にする事無く話し始めた。


「じゃ、陣形決めるが、十一班で行動する時は縦陣、横陣、方陣の三つで行動する。隊、団、軍での陣形はそれが編成された時の指示で動いてくれ」


 まずは縦陣の編成からだと、順に名前を呼ばれていく。


「ラウル、ベルナール。お前達が先頭だ。後方以外の周囲の警戒を怠らずに移動してくれ。ラウルの察知能力、ベルナールの素早さには期待している。次はジローとレジス。今まで通りだな。よろしく頼む。その次はカンタンとオレール。これも今まで通りだが、戦闘時にもう少し支援をしてくれると助かるんだが……。まぁいい。そして最後尾」


 カンタンとオレールへの小言はそこそこに、ギャエルはキトリーを見た。


「俺とキトリーで殿(しんがり)を務める。後方を含めた周囲の警戒をしながら進む」


 ギャエルは他の二つの陣形も各々の役割を伝えながら説明した。そして厳しい顔を更に厳しくしながら班員を見る。その顔を見た班員達は、何かを察したように緊張した面持ちでギャエルの言葉の続きを待った。


「十一班にバジリスク討伐の依頼が来ている。場所はコルドソ地方。明日朝出発し、討伐次第帰る予定だ」


 コルドソ地方はキトリーの故郷であるアラルゼ村がある地域だ。そこに、バジリスクなんて恐ろしい魔物がいるだなんて思ってもみなかった。キトリーは固い表情でギャエルを見ている。


「明日は旅支度をして集合。キトリー、ベルナール、必要な物が分からなければ聞いてくれ。ガラス膜加工の盾が欲しい奴は整備科に行ってくれ。話は通っている。他に何かあるか?」


 ギャエルは班員の顔を見回し、何も無いと判断したらしい。


「では、早いが今日はこれで終わりだ。明日以降に備えてくれ。解散」


 ギャエルがそう言うと班員は立ち上がり礼をした。そしてレジスがキトリーの方を向く。


「キトリー、ジルはどうするつもりだ?」


「孤児院の方で、遠征時はお願い出来るように話してあります。ご心配ありがとうございます」


「そうか。それなら良かった。うちなら何時でも大丈夫だとオリーブも言っているから、安心して頼ってくれて良いんだぞ」


 レジスの暖かい微笑みにキトリーの心にも暖かいものが広がっていき、キトリーはふにゃりと笑った。


「レジス先輩、ありがとうございます」


 レジスはポンとキトリーの頭に手を置くと、オレールと共に盾を受け取りに整備科に向かった。キトリーも何を準備したら良いのか分からないのでギャエルに聞こうとそちらを向くと、エリクがすぐ傍まで来ていた。


「キトリー、パワードスーツは毒を防げるのか?」


「分かりません」


「では説明しように聞いてくれ。毒を防げるのかと、石化を防げるのかを」


 キトリーは頭装備を装着し、エリクの言う通りに説明しように聞いてみた。



『説明しよう!パワードスーツは毒液や毒ガスを通さない。頭装備をしっかり装着していて欲しい。そうすればバジリスクの石化視線にも耐えられるぞ!』



「頭装備をしていれば両方共防げるそうです」


「そりゃあ良い。キトリー、お前には活躍して貰うぞ」


 ニッと悪い笑みを浮かべたギャエルに見られ、キトリーは頭装備を装着したまま小さく悲鳴を上げた。


「ふっ。そうだな。しっかり活躍して、無事に帰るんだな。ギャエル、キトリー、健闘を祈る」


 キトリーの反応に小さく笑ったエリクは、ギャエルとキトリーの背中を軽く叩いて去って行った。深々と頭を下げてエリクを見送ったキトリーは、再びギャエルの方を向いた。


「班長、用意する物を教えて下さい」


「ああ。……お前、寝る時もそれか?」


 ギャエルの問に、質問の意図が分からなかったキトリーは目を丸くして疑問符を浮かべながら答えた。


「家では夜着に着替えていますが……?」


「そうか。必要なら夜着等の着替えを。荷物になるからパワードスーツで寝られるならその方が良いとは思うがな。後は整備科で戦闘糧食を三日分と個人携行救急セット。バジリスクの特性と、ここからコルドソ地方までの地形や出現する魔物の事も頭に入れておけ。資料室で調べられる」


「分かりました!」


 意外とやる事が多い。元気よく返事をしたキトリーは、急ぎ足で整備科に向かった。

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