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47・パワードスーツの乙女

 




 綺麗に磨かれた廊下を、パタパタと小さな女の子が走っている。走る動きに合わせて、薄いピンク色のドレスの裾がぴょこぴょこと跳ね動いていた。

 きょろきょろと周りを見回して誰かを探しているようであるが、見つからないようだ。小さな眉が不服そうに下がっている。


「フラヴィ、こんなところに居たのか。どうしたんだい?お母さまが探していたよ」


「おじいさま!」


 フラヴィと呼ばれた女の子は、呼ばれた方にくるりと振り向いた。明るい金色の髪がふわりと広がり、澄んだ青色の大きな瞳はキラキラと輝いている。

 フラヴィにおじいさまと呼ばれた男性は、艶のある白金色の髪を一つに結んだ品のある男性だった。背筋が伸びており程よく筋肉が付いている為、実年齢よりも若く見える。


「おばあさま、まだ帰らないのかしら?今日はフラヴィに、神竜の話をしてくれる約束だったのに……」


 つまらないと眉を寄せるフラヴィを、男性は軽く抱き上げた。


「もうすぐ帰るはずだよ。今日はお城に呼ばれているんだけど、長くはかからないと言っていたからね」


「またお城に?今度はどうしてなの?」


「国王陛下が、終戦に大きく貢献したからと、キトリーに褒美をとらせたいそうでね。でもキトリーは、自分だけの力じゃないからって、辞退してるんだ」


 フラヴィの祖父、エリクは困ったように微笑んだ。


 ドリオトレス撃退から数年は大人しかったツェレーザ国だったが、国境での小競り合いが段々と増えていった。小さな争いの度にキトリーは駆り出され、ツェレーザ国はその度に領土を狭めていった。そして最終的には、ツェレーザ国は全ての領土をマルラーン国に受け渡す事になってしまった。


 キトリーが先の戦争で度々駆り出されていたのは、ツェレーザ国でキトリーが有名だったからだ。

 ドリオトレス撃退は、黒い全身鎧の騎士によるものと噂が広まっていた。

 ツェレーザ国の騎士達はキトリーの姿を見ると、死神を見たように怖気付いてしまうのだった。

 キトリーの持つパワードスーツの能力もかなり役立っていた。もはや、マルラーンにもツェレーザにも、キトリーを超える騎士は存在しなかった。




 エリクとフラヴィが庭で散歩をしていると、上空からキトリーが降りて来た。着地し、兜を解除すると、白髪を綺麗に結い上げたキトリーが顔を出した。


「お帰り、キトリー。陛下は何と?」


「あなた、ただいま帰りました。もう……どうしても褒美を受け取って欲しいと仰るので、そのお金で騎士団全体の強化をお願いしますと申し上げてきました。こんなおばあちゃんを、魔物討伐に駆り出させないで下さいって。グリフォンくらい、私が居なくとも倒せるでしように……」


 ため息混じりに愚痴を零すキトリーに、エリクは明るい笑みを返した。


「君が来てくれた事が民にとって安心出来るから、なんだろうな。キトリーはこの国の英雄だから。しかし、騎士達が腑抜けているのなら、喝を入れなければね」


「あなたが喝を入れるのは騎士候補生達ではないですか。現役の騎士達を何とかして下さいませ」


 エリクは現在、騎士団団長を辞職し騎士学校の生徒達を教える講師として時々働いている。キトリーは伯爵位を息子のリュカに譲り、騎士団の要請があれば出陣していた。


「おばあさま、お帰りなさい。お疲れでなければ、お茶を飲みながらお話を聞かせて下さい」


 フラヴィかキラキラの瞳でキトリーにおねだりをすると、キトリーは目尻を下げフラヴィを抱き上げた。


「ええ、勿論。約束していたのに、待たせてしまってごめんなさいね」


「わぁ!おばあさま、ありがとうございます」


 キトリーはフラヴィを抱えたまま、四阿まで歩き出した。セギュール家の者も、マルラーン国の者も、皆キトリーを誇りに思っている。エリクは微笑み二人の姿を見送った。




「ええ?では、おばあさま、神竜に倒されそうになっていたんですか?」


「そうなの。首を一つ切り落としたは良かったのだけど、飛べる位の魔力を残していなくてね。おじいさまのお友達のロックという騎士が助けて下さったのよ」


 フラヴィは、キトリーが簡単にドリオトレスを倒してしまったと思っていたようで、目を丸くして驚いている。

 キトリーは当時を懐かしむように目を細めて遠くを見た。


 もう、当時共に戦った仲間は騎士団の中には居ない。キトリーだけが、呼ばれる度に戦いに出ている。

 それは仕方のない事だ。キトリーだって、もう老齢なのだ。パワードスーツの力が無ければ、戦う事は難しい。


「おじいさまは助けに来て下さらなかったの?」


 キトリーはフラヴィの質問に一瞬キョトンと目を丸くしたが、すぐに微笑み答えた。


「おじいさまはね、その時違う任務を与えられていたの。おじいさま達の隊の働きで、ドリオトレス召喚の謎が解けたのよ。更にね、増えていた魔物の原因も分かったの」


 ドリオトレス召喚を禁術を使った術士は、亡タバラージ国の奴隷だった。ツェレーザ国が戦争でその奴隷を助け出し、入れ知恵をし洗脳し、マルラーンを憎ませ禁術を使わせた。

 禁術に必要だった膨大な怨みを持つ魂は、タバラージとの戦争によって賄っていたようだった。


 そして魔物を呼び寄せる呪いは各地に媒体が残されており、それを使いギベオンが呪い返しを行った。呪い返しによりツェレーザ国に魔物が増え、この呪いがツェレーザ国の仕業であると判明した。


「ええ?おじいさまも凄かったのね」


 驚いているフラヴィに、キトリーは楽しそうに笑った。


「そうよぉ!おじいさまは、最年少で騎士団長になったお方なのよ。でも団長になってから、私に出陣命令を出す度に辛そうな顔をしていたわ……私が、騎士を続け民を守る選択をしたのにね」


「それでも、君を戦地に送るのは辛かったのさ。君の強さを知っていてもね。何時だって、君が帰るまで心配で堪らなかった」


 エリクはテーブルにケーキの乗ったトレーを置きながら言った。そして椅子に腰掛けながらフラヴィを見る。


「お母さまが、姿が見えなくて心配した。と言っていたよ」


「あ……ごめんなさい……」


 フラヴィはしまった、と目を見開き母親の顔を思い出し肩を落とした。きっと怒られる、全身でそう語るフラヴィに、キトリーもエリクも眉尻を下げ微笑んだ。


「おばあさまがフラヴィとお話したくて、フラヴィを困らせてしまったわね。昼食の前にお母さまに謝っておくわ。フラヴィも一緒に謝ってくれるかしら?」


「はい……おばあさま、ありがとうございます。でもきっと、お母さま、おばあさまとフラヴィがお話した事を聞いたら羨ましがるわ。いつもそうだもの」


「まぁ。おばあさまは、いつでもお話しましょうって言ってるのにね」


 不安そうだったフラヴィが悪戯っぽく笑うと、キトリーも微笑みながら頷いた。


「ナタリーさんは、キトリーの熱烈な支持者だからなぁ。しかし、フラヴィを甘やかしすぎだと怒られてしまうな。先程もフラヴィを呼びに行ったのに、お喋りが楽しくて忘れていてね。ナタリーさんに怒られてしまったんだよ」


「仕方ないですよ。可愛くて仕方ないのですから」


「まったくもって、その通り」


 孫には弱い英雄と元騎士団長の二人は、楽しそうに笑いあった。





 マルラーン国で、数十年前から歌われて続けている詩がある。それはキトリーが活躍する度に、何度も何度も内容が変わってきた。

 今日もマルラーンの何処かで、リュートや太鼓を鳴らす吟遊詩人が歌っている。




「王国の騎士団に 勝利の杯を


 乾杯して 彼等を讃えよう




 神話の龍が 我等を滅ぼそうとした時


 彼女は立ち上がり 空を舞い立ちはだかる


 神話の龍は 炎を吐き大地を焼き払わんとしたが


 彼女の一太刀で 龍の首 地に落ちる




 勝利は我等に


 神話の龍は立ち去った


 我等の英雄を讃えよう


 我等の英雄 パワードスーツの乙女を




 王国の騎士団に 勝利の杯を


 乾杯して 彼等を讃えよう




 マルラーンの国を 攻め狙う国がある


 幾度となく攻めてくるその国から


 乙女は必ず守ってくれよう


 乙女の鉄槌 必ずやかの国に下されよう




 マルラーンの国を 攻め滅ぼそうと狙う国


 かの国を 我等ついに撃ち破る


 我等が乙女に 適う訳なし




 勝利は我等に


 勝利の名声は 英雄のもの


 我等の英雄を讃えよう


 我等の英雄 パワードスーツの乙女を」




 キトリーはこの詩を聞くと顔を赤くして恥ずかしがる。


「だって、こんなおばあちゃんに、乙女だなんて恥ずかしいでしょう?人前で兜を脱ぐなんて、出来なくなっちゃうわ」


 そう言いながら、恥ずかしそうに笑うのだ。





 終

途中かなり開いてしまいましたが、完結させる事が出来ました。最後までお読み下さり、ありがとうございました!

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