2・パワードスーツを説明しよう
前半、過去のお話になります。
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この国では十六歳になると女神様よりスキルを授かる事が出来る。キトリーも十六歳の誕生日に女神像の前で祈りを捧げていた。
授けられるスキルは生活が便利になるもの、仕事に有利なもの、戦う力と様々であった。先月誕生日を迎えたキトリーの友人も、料理に関するスキルを授かり喜んでいたものだ。
皆女神像の前で欲しいスキルを願うのだが、願い通りのスキルを授かれるかどうかは運次第。寧ろ願いが叶う者の方が少ない位だった。
キトリーは一心不乱に祈っていた。
戦う力を下さい。魔物と戦える力を。……出来れば痛いのや苦しいのは嫌なので、怪我をしないような力も欲しいです。あと空も飛べたらカッコイイな。あ、騎士団に入りたいので、女だと気付かれないようにもして欲しいです。あとは……。
「ぶはっ!」
誰かが吹き出した音で、キトリーの祈りは途切れた。顔を上げて辺りを見回すも、笑っている者は居なかった。不思議に思っていると、教会の司祭が声を掛けてきた。
「スキルは授かれましたか?」
「あ、いえ、まだです。すいません……」
慌てて目を閉じ祈りの姿勢をとると、若い女性の声が聞こえてきた。
「欲張りな娘だなぁ。注文が多い。しかもまだまだ増えるときた」
今この礼拝堂には自分以外に女性はいない。しかも、祈りの内容を知っているとなると、この声の正体は……。
女神様で、いらっしゃいますか?
「ああ、そうだ」
脳内で会話が出来ている事に、キトリーは感動で震えた。胸がじーんとしているキトリーをよそに、女神はブツブツと考えを呟いている。
「欲張り娘の言う通りにすると障りがあるな。条件付ければいけるか……?うーん……」
「お願いしますお願いします……」
キトリーの願いは思わず小さな声になって出た。そんなキトリーの耳に、仕事をやり遂げた女神の誇らしげな声が響く。
「よし。欲張り娘のスキルはパワードスーツだ。新しい機能を取得したければ、その分魔力を捧げると良い。あと、パワードスーツを装備すると裸になるからな。装備を解除する時気をつけるんだぞ」
え?うそ?ほんとに?
願いが叶い、喜びと戸惑いがキトリーの胸の内に湧き上がる。キトリーは手を擦り合わせて祈った。
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」
「……スキルは授かれましたか?」
呆れた司祭の声が礼拝堂に響き、キトリーは輝く笑顔で司祭を振り返った。
スキルの鑑定を受け、教会にスキル取得申告をしたキトリーは村外れの森の中に居た。ここなら誰も来ないので、パワードスーツのスキルを試す事が出来る筈だ。
「……どうやってパワードスーツを装備するの?」
いきなり問題にぶつかりキトリーは途方に暮れた。女神はパワードスーツの装着方法は言っていなかった。魔力で新しい機能を取得出来るとは言っていたので、装着にも魔力を使うのだろうか。
「ええ〜?やっぱり分からん……。パワードスーツ、装着……」
キトリーが呟くと、着ていた服が少し前方の地面に落ちた。下着まで落ちていて、慌ててしゃがみ込む。衣類を拾おうとした腕が見慣れないものになっている事に気付き、キトリーは目を輝かせた。
「……と、いう事は、パワードスーツ、解除」
そう言った瞬間に、見下ろしていた視界に肌色が広がった。
「わわわわわっ。パワードスーツ!装着!」
大慌てでパワードスーツを装着したキトリーは安堵の溜息を漏らす。
「成程成程。これはすごい」
衣類を纏めて、一度姿を見てみたいと思ったキトリーは泉に向かおうと思った。そして折角だから空を飛んで行こうと。しかし空を飛べるようにして欲しいと願ったが、どうやって飛ぶのだろう。そう思った瞬間、視界に機能一覧の文字が現れた。
「あ、空を飛ぶ機能を取得しないといけないのね」
『説明しよう!追加したい機能を選び魔力を捧げるとその機能を取得する事が出来るのだ!早速機能を取得してみると良い!』
頭の中にテンションの高い声が響き、キトリーは動きを止めた。混乱しつつも飛行機能を取得する。キトリーの多くない魔力の殆どを使ってしまったが、飛行機能取得の為の魔力は他の機能よりも少なかった。女神が配慮してくれたのだろう。更には高速飛行機能の取得の為の魔力も少ない。キトリーは魔力が回復したらその機能を追加しようと決意した。
『説明しよう!飛行機能を使用するには足裏に魔力を集中させると浮き上がる事が出来る!魔力の放出量によって飛行速度を変えられるぞ!飛行に必要な魔力はパワードスーツによって自動回復する魔力と変わらないから安心したまえ!あとは練習あるのみだ!』
一々説明してくれるテンションの高い声は有難いのだが、少し声が大きいな。とキトリーが思った所で『すまない……少し音量を下げよう』と謝られた。
思わず笑みが零れたキトリーは、早速魔力を足裏に集中させた。足裏に魔力を集中させるという事自体初めてで、足裏のみに魔力を集中させる事は難しかった。しかし直ぐにふわりと浮き上がり、キトリーは感動を覚える。魔力を集中させるといっても、魔法を使う時程の集中力は必要無いらしい。あくまでパワードスーツの機能を使う為に魔力を利用するという事なのだろう。
わくわくしながらそのまま上昇し、森を見下ろす程にまで高く浮上した。
「わぁ〜!すごい!浮いてる!」
体を傾けるとその方向に進む。風に乗った鳥のようにスイスイと空を飛ぶのはとても気持ちが良かった。風を感じたいと思ったキトリーは頭装備だけでも外せないかと考えた。
「頭装備、解除……?」
するとキトリーの淡い茶色の髪がサラリと肩に落ちてきた。
成程成程。この能力を何となく理解したキトリーは、暫く空を自由に飛び回った。風が髪を後方に流し揺らす。空を飛ぶのはこんなに気持ち良くて楽しいのかと、キトリーは口角を上げた。
飛行を大いに楽しんだキトリーは森の奥にある泉まで飛び、綺麗な泉に自らの姿を映し見た。黒と金の全身鎧を着た自分は、鎧が厳しく強そうなのに対して顔が弱そうでアンバランスに感じる。
頭装備を装着すると、そのアンバランスさは無くなり屈強な戦士のようになった。
「うんうん。良いかも。カッコイイんじゃないかな?」
満足そうに言いながらキトリーは力こぶを作りポーズを決める。
「戦う時はどうしたら良いのかしら?」
そう呟くと、武器一覧と魔力機能一覧が出てきた。武器の方は長剣だけ取得済となっている。魔力機能は指向性魔力光線が取得済だった。
「指向性魔力光線……?」
『説明しよう!指向性魔力光線とは魔力を使った攻撃の一種である!目標物に向かって風や重力の影響を受ける事無く魔粒子の光線が高速で発射される攻撃だ。高い攻撃力を誇る為、使う時は注意が必要だぞ!』
「成程。……レーザービーム使用可能魔力量まであと五分か」
キトリーは魔力の回復を待つ間、長剣を出して振ってみた。長剣も黒と金の色をしている。キトリーはカッコイイなぁと思いながら剣を振っているが、剣の振り方も姿勢も悪かった。その様子は子供の見様見真似の騎士ごっこのようだ。
五分が経ち、レーザービームの使用が可能になった。キトリーは自分の背丈程もある大岩目掛けてレーザービームを打ち出した。掌から放たれた光線は、一瞬で大岩を破壊した。その破壊力と早さに、キトリーは目をぱちくりさせている。
「……説明しようの言う通り、使う時は注意が必要だわ……」
呆気にとられたキトリーは、夕日を受け輝く黒い掌と壊れた岩を交互に見ながら呟いた。
その後キトリーは孤児院に戻り、ジルに今日の事、今後の事を話した。
「―――だから、明後日の入団試験に行こうと思うの」
「うわぁお姉ちゃん、カッコイイ!頑張ってね!……でも、女の人でも騎士団に入れるの?」
「あ、いや、それは……」
ジルにそう言われてキトリーは返答に困ってしまった。今まで見た騎士達は男性だけだったし、募集要項には性別についての記載は無かった。パワードスーツを装着していれば性別は分からないので、何とか誤魔化せないかと考えていた。
「えっと……幸いパワードスーツを装備していれば体型も顔も隠せるし、男性の振りをしようと思うの」
眉を下げて笑うキトリーを、不安そうな笑顔でジルは見つめていた。結果は勿論団長にバレてしまうのだが、今のキトリーはきっと大丈夫だと楽天的に考えていた。
入団式の日、キトリーは頭装備だけを解除して騎士団本部第一鍛錬場に向かった。入団試験もこの第一鍛錬場で行われたので、迷子になる事無く来る事が出来た。
鍛錬場に到着し入団式が始まるのを待っていると、キトリーを指差しヒソヒソと囁き合う声が聞こえた。時折変な鎧という言葉が聞こえてくるし、視線はキトリーの方を向いているのでキトリーの事を噂しているのだろう。
悪口かな、だったら嫌だなぁ。と思い眉を寄せると、不機嫌そうな声が響いた。
「何だ何だ、ヒソヒソコソコソと。それが騎士のする事かあ?」
その声の方を見ると、声と同じく不機嫌そうな顔をした背の高い男が腕を組んで立っていた。