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もう一度同じ景色が見たかった。  作者: 刀根 貴史
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#6. ノーサイド

全国高校ラグビー大会


 毎年12月の年末から、大阪の花園ラグビー場で全国大会が開催される、言わずと知れた、ラグビーの甲子園。


 予選は9月の中旬から始まり、毎週日曜日と、雷雨のような天候による中止等で日程が足りなくなってくると祝日、そして土曜日も開催される。


 僕らはその年、兵庫県大会の「台風の目」になった。


 強豪校と呼ばれるチームをどうにかこうにか、ただひたすらに粘って粘って。


 「負けなければ勝つ。」を合言葉に、全試合を一ケタの僅差で辛くもトーナメント表を駆け上がっていた。


 これに勝てば準決勝。


 兵庫県大会のベスト8まで駒を進めたのだ。



1996. 10. 20(日) 



 秋の雨だった。ぬかるんだ地面に足を取られるのは両校同じ。


 相手は全国大会常連のラグビー名門校。


 「この高校と戦うのが目標だったから。」

 

 小学生の頃、父親に連れられて行った花園大会の決勝戦を見て、高校生になったらラグビー部に入ることに決めていた。


 あの時の感動を忘れないまま高校生になり、3年間、ただただラクビーに明け暮れた。


 走って走って、もう走れなくなってから、また走った。


 「同じ高校生じゃないか。」


 少しずつ開く点差を理解しつつも、諦めの悪い台風の目は、お互いに声を掛け合いながら、試合の最中に大きくなっていった。


 ここ迄の戦いよりもずっと大きな相手選手の膝下に飛び込んで行くのは勇気がいるから、怖気づいてしまいそうな自分を奮い立たせるために仲間同士は、また声を掛け合う。


 残りの試合時間を確認しながら、足を止めてしまうと、そこで何もかも止まってしまいそうなのに、どんどん動かなくなる足を感じていた。


 ただ、それでも負けることなど誰も考えていないチームメイトが、ただ有り難かった。





  それは、私の人生を変えてしまいそうな、

  そんな景色でした。


  ボールを追いかけて、相手にぶつかって、

  今度は逃げて、捕まっても逃げて、

  仲間にボールをつないで委ねて、

  少しづつしか進めないけど、

  少しづつ少しづつ進んで、

  押し戻されながら少しでも前へ。


  白線を超えたところにあなたが置いたのは

  チームの命。


  絶対に落とせないものでした。


  何よりも大切に、誰よりも大事に

  傷だらけになりながら、命を前に進めていた。


  下を向くメンバーの肩をたたいて

  泣きながら謝る後輩を抱き寄せて

  「ありがとう」とあなたは言うの。

 

  親友は、自分の蹴ったボールが

  ゴールに嫌われたことに

  立ち上がれなくなってしまったから、

  あなたが肩を貸して、センターラインまで

  連れて行った。


  本当は、一番悔しいはずなのに。


  私もあなたに肩を貸してあげたいけど、

  何度見てみても小さ過ぎるから、

  せめてあなたの肩をたたいて褒めてあげたい。

  なんて言えばいんだろう?表現が違うかも知れないかもしれないけど

  褒めてあげたい。

 

  今でなくても良い。気持ちを外に出して。

  あなただって泣いても良いし、

  皆のために生きたその時間が、

  どうかこの先に報われてほしい。


  ありがとう。私が思うこと。


  心からのありがとう。


             1996. 10. 21. 2:33

             虫の泣く声を聞きながら。由夏


 その年、僕らが勝てなかったその相手チームは、その後も勝ち続けて、全国大会で優勝した。


 心に大きな穴が開いたような…とよく聞いたことがあるけど、顔以外の上半身がなくなったような感覚だった。


 ノーサイド。


 試合終了を理解するのに、少し時間がかかった。

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