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もう一度同じ景色が見たかった。  作者: 刀根 貴史
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#2.打ち上げ花火 下から見るけど少し高めから見る

『300メートル先を左です。』


  カーナビゲーションの女性は冷たくも優しくもなく、ただ進むべき道を教えてくれる。


「新しい道・・・絹延橋に直接抜けるのか?」


「このカフェはまだやっているんだな。なんなら昔より繁盛しているような・・」


 田舎の風景は、小さく、それでいてわかりやすく変化する。


 車を止めて辺りを見回すと、目の前の実際の景色よりも記憶に残る昔の風景の方が鮮明に映ることに気づく。

 

 変わらない景色に変わった景色がかき消されて、全てがあの頃の景色に変わっていくのがわかる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・米米CLUB        「浪漫飛行」

・井上陽水        「リバーサイドホテル」

・プリンセスプリンセス  「Diamonds」

・爆風スランプ      「Runner」

・浜田 麻里       「Retuen to Myself」


 親父のブルーバードのカーステレオはまだまだAMラジオ全盛で、その時もヒットチャートが流れていた。




1990年 8月 18日(土)


 8月のお盆も終わり、2000年以降に比べれば随分涼しく夏の終わりを感じれたあの頃。


 3人の姉弟が後部座席でひしめき合うように座りながら、いつものポイントを楽しみにしていた。


「行くぞ!」


 親父が叫ぶと、中古で買った6年落ちの白いセダンは一瞬宙を舞って、若干性能が下がったであろうサスペンションで地面との衝撃を吸収しきれていないようだった。


 山を切り開いて作った大阪のベッドタウンは起伏が激しく、上っては下って、下ってはまた上るを繰り返し、坂道の最中にある舗装が不十分のくぼ地はまるでジャンプ台のようで。


 中でも一番大きなくぼ地は、その地名から「萩原ジャンプ台」と呼ばれていた。


「今すごい音しなかった?」

「だめだ!爆発するかもしれない!」

「父さんの嘘だって。泣かないで良いよ。」

「おしっこはもう漏れちゃってるみたいですが、こいつ大丈夫か?。」


 まだまだ宅地開発も途上の町のアトラクションを超えて、ビッグサンダーマウンテンなんて知らなくて・・・そうだ、エキスポランドのジェットコースターみたいにお腹が浮き上がるような感触を何度か味わいながら、アップダウンの繰り返しでできた子供にとってはとても長い道のり。


 川西能勢口駅の踏切はいつも大渋滞だったから、隣の雲雀ヶ丘花屋敷駅前から阪急宝塚線の線路を越えて、そして「旧」国道176号線とJR福知山線を横断して、その次は新しい方の国道176号線。

 

 地図で見ると176号線が2本平行に走る不思議な地理条件を横断して、自衛隊の駐屯地を超えて少し行った所に祖母の家があった。


 実際の地名は加茂の隣の久代なのだけれど、自分のことを「加茂のおばあちゃん」と表現していたので、そうやって覚えていた。


 真夏は無花果が最盛期で、そのあたりは一面、緑の大きな葉っぱで覆われて、大きく膨れ上がった無花果が垂れ下がっている。


 完熟すると、その後短い期間で落ちてモグラの餌になってしまうほど足が早いのだが、早朝に摘んだ完熟無花果を朝の内に出荷するのがこの町の農家のこだわりだ。


 加茂のおばあちゃん家の屋上で、猪名川花火大会を見ながらみんなでご飯を食べるのが夏の楽しみの一つだった。


「どうぞ、加茂のおばあちゃん特製、ちらし寿しだよ。」


 口いっぱいに頬張りながら、1時間程の花火大会を楽しむ時間が毎年あるのだと、当時は当たり前のように思っていた。


 大阪府池田市と兵庫県川西市の県境を担う猪名川上空に打ち上げられる花火は、他の地域の花火大会に比べて盛大だったのか無かったのか。当時は知りもしないけれど、子供の頃はそれが何よりも心を動かして、それこそが花火だと疑わなかった。


 花火大会が終わると急に秋が来る感じがして、そしたらすぐに一年が終わってまた次の花火大会を楽しみにしていた。


 毎年の楽しみを毎年繰り返しながら少しづく大人になっていくのだが、毎年の楽しみが当たり前のことでは無いと気付くには、もう少し時間がかかる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「普通の公立高校のラクビー部が、全国大会に行けると思うか?」


「行けないと思うならこんなに練習しませんねえ。」


「さすがキャプテン。しかし我々公立高校における冬の選手権には、私立強豪校のように3年生はいません。皆すでに受験勉強に明け暮れております。本校ラグビー部の3年生は、他にすることの無い我々二人だけです!」


「だから勝てないと言う訳ではないでしょう。諦めたらそこで試合終了ですよ。植村君。」


「喜多キャプテン。ラグビーがしたいです・・・・ってどこまでもついて行きます!」


 多少は進学校として有名な公立高校。しかしながらどこにでも居る二人の高校生。受験勉強をしないことの正当な理由を探しながら、それでも毎日を懸命に生きていたような気がする。


 公立高校の部活動では、7月のインターハイ予選に負けた段階で引退する3年生部員が大半だったこの時代に、夏休みの受験勉強の時間を返上して、秋の国体予選に照準を合わせて日々練習に明け暮れていた。


 先に引退した部員に手を振られながら、クラブハウスに毎日通う二人の男子高校生。恐らく両親も呆れていたのかも知れない・・・・・。

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