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もう一度同じ景色が見たかった。  作者: 刀根 貴史
11/19

#11 短い季節の忘れもの。

2007年9月18日



 何となく仕事も上手く行き出した頃、大阪からの帰りに川西能勢口駅で電車を乗り換えようとした時、少し遠くから自分を呼ぶ声がした。


 「シンジー!」


 久しぶりの声だった。


 「シンジ!なんだ。日本に居たのか?」


 「・・・もう、少し前に帰って来てるよ。」


 「そうか・・相変わらずだな。連絡くらいくれても良いだろ・・とは思うけど、それはお互い様か。何の仕事してるんだ?・・・って質問が多いか?!」


 そう言って、高校時代の最愛の悪友は、当時よりもずっと太っていて、

 でもそんな直樹でも直樹だった。


 「久しぶりに少し話さないか。いや、話そう。今日はバスで帰れ。」


 「え?!」


 断る間もなく、直樹に肩を組まれて仕方なくバス停につれて行かれた。


 昔、高校の前のパン屋で無理矢理カレーパンを7つ奢らされた時のことを思いだした。



 川西能勢口から清和台に繋がる幹線を北に進み、途中で一番高くなる山頂を登りきる直前のバス停を降りたところにある、客席が10個程度のお好み焼き屋で、少し昔の話を肴に直樹と一杯飲む事にした。



 「お互い、酒を飲む歳になったんだな。晋二よ。」


 「俺は、今でもほとんど飲まないんだけどな。」


 「まあまあ、そう言うな。10年?ぶりなんだ。今日くらい飲めよ。」


 ジュースを飲むのも酒を飲むのも、アイスを食べるのもトンペイ焼きを食べるのも、高校生も社会人も、何も変わらない感じがした時間だった。


 ラグビーに明け暮れた毎日も、修学旅行の長野県でのスキーも、文化祭のダンスも何もかもが頭の中に鮮明に残っていて、輪郭のハッキリとした景色を楽しんでいるような、そんな時間だった。




 「シンジ、お前3回戦の時、変なボールの落とし方したよな?誰もいないのに前にボール落としてびっくりしたよ。」


 「直樹はその話ばっかりするな。思っていた以上に汗をかいてたんだよ。それでボールが滑って。自分でもびっくりしたんだから。」


 「俺のキックが決まって勝てたから良かったけど。」


 「その次の試合でびっくりするくらい外れたじゃないか!」


 「もうやめよう。晋二。この話はもうやめよう。」


 「最後の試合の負け方って、普通もう少し惜しいよね?最後の最後の直樹のキックが蹴った瞬間に全くポールに入る気配がなかったから上手く泣けなかったんだよ。」


 酒に酔ってはいなかったけど、笑いが止まらない時間だった。

 

 2枚目のモダン焼きからソースがこぼれて、鉄板の上でグツグツと音を立てていた。


 直樹は何かを考えているのか、少し酔ったのか、どちらもなのかも知れないけど、ため息交じりに、また話しを始めた。


 「‥‥お前は急にいなくなっちまうし。海外に行ったとかなんだとか、あの頃、後輩たちが残念がってたよ。」

 

 「‥少しだけ‥この町を離れたかったんだ。ほんとに少しだけ。」


 「少しだけって、何年よ?」


 結局、大学は一年目の途中で辞めて、世界を見るだなんだとそれらしい事を言って、色んな国でフラフラしていた。気づけば9年間、日本に帰ってこなかった。


 「海外のボランティア団体に拾ってもらって‥泥運び、交通整理、食べ物の積み込み、何でもやった。」


 そう、なんでもやった。何かをしていないと余計なことばかり頭の中に入ってくる気がしていた。


 「こっちは『どうせ無理だよなー』とか思いながらシンジのポケベル鳴らしてみたり、そうだ、一度お前の家にも直接押しかけてさ、お前の母さんに『シンジどうなってますか?』って聞いたんだよ。そしたら『私もわからない。でもたまに電話はかかってくる。』だってさ。とりあえずそれなら安心‥って自分を納得させるの大変だったんだぞ。」


 「帰ってきたら、街中の皆が顔に電話当てて喋ってるからびっくりした。」


 丁度、誰もが携帯電話を持つ時代への移り変わりの時期だった。携帯でメールも打てた。

 それでも、どこにいたってSNSで連絡が取れるような、そんな時代では無かったけど。

 だからこそ、今よりも一人の時間を大事にすることもできたように思う。


 「まあ、色々大変だったんだろうなとは思うよ。思うけど‥」


 直樹の語気が強くなって、すぐに弱くなるのを感じた。


 「お前が日本から居なくなって、そんでさ!」


 「なんだよ?楽しい飲み会じゃないのか?」


 「気になってた事、と言うか、わからなかったことがある。」


 昔から、突拍子も無い事を言う奴ではあったけど、ここまで切羽詰った直樹には覚えが無かった。


 「晋二、お前、由夏と最後どうなったんだ・・・。」


 疑問を越えて、何かに恐怖を感じるように直樹は聞いた。まるで、答えを聞きたくないかのように。


 「どうなったって‥今更だけど‥あの時急に彼女の方から終わりだって言ってきて、わけわかんないまま‥うん、わけわかんないままで‥まあそれもあって海外に行こうって決めたんだよ。彼女と別れて・・と言うか彼女にフラれて丁度10年位だと思う。」


 直樹の目は赤く充血していた。そのまま顔を近づけて、問いただすように言った。



 「晋二、お前、由夏の仏壇にまだ手も合わせてないのか?」

 


 「・・・・???・・!!・・」



 遠くで何かが割れる音がした。




 全ての記憶を探しても見つからない、そんな真実を突きつけられた。



 次回 #12 「君と花火を見ることに」

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