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もう一度同じ景色が見たかった。  作者: 刀根 貴史
10/19

#10 箕面の滝~でっちようかんとコーヒーと時々もみじまんじゅう

 さすがにガランとしたプラットフォーム。


 窓から見える兵庫県川西能勢口付近の景色は、降りやむ事を知らない大雪で埋め尽くされていた。


 それでも大阪梅田方面からやって来る電車に向かって


 「これに乗って、(宝塚)ファミリーランドに行かないか?」


 何となくの提案をしてみた。


 「今、大雪警報が出てるのよ。乗り物が動いてると思うの?アイススケートリンクも閉めてるわよ。動物だって寒いんだから。行っても意味ないじゃない。」


 自業自得とは言え、これから箕面の山奥に連れて行かれる僕はもう、


 動物ですらなくなってしまったのかと心を閉ざしそうになった時、


 反対方向宝塚方面からやって来た電車に向かって、由夏は手を振っていた。


 まるでタクシーを留めるときのように・・・・・・・

 

 しかし、なぜか運転手は笑顔で由夏に手を振り返していた。


 扉が開くやいなや、駆け込み乗車の女子高生に注意をする人はいなかった。


 というか、人がほとんどいなかった。


 当然電車にも人はほとんど乗っておらず、心なしか、


 いつもよりゆっくりとしたスピードで走り出す感じがした。


 猪名川を越えて、池田駅に到着しても雪の状況は変わらず・・・


 「こんな時でも電車って走るのね。すごくない?」


 「無理しないでも良いのにね・・・。」


 「ちょっと!何なの!あなたが箕面の滝を見に行こうって言いだしたのよ!優柔不断ね!」


 そうか、僕は優柔不断なのか。そんな風に心がポキポキと折れる音がした。


 「あれ?あんまり雪が降ってない・・」


 確かに石橋駅辺りでは雪は止んでいて、路上の雪も少なくなっていた。


 「やっぱり大阪ではあまり雪は降らなかったのかな?」


 しかし兵庫と大阪と言うには余りにも距離が近すぎた。


 石橋駅で乗り換えて、箕面駅に到着。


 川西市の五月山に繋がる箕面山の麓は、辺り一面に雪しか見えない状況で、


 大はしゃぎの由夏が微笑ましくも見えた。


 「すごい!!!」


 電車を降りて、改札口から見えたのは、西日本、近畿地方、


 阪神地区ではなかなか見ることのできない、一面に広がる雪景色だった。


 「これが本当に大阪???」


 感動する由夏を見ながら、同じ言葉で感動する自分を感じていた。


 駅の出口には、ご丁寧に「箕面の滝」の方向を示す看板があり、


 僕らはそこから滝に向かって山を登ることにした。


 お土産物屋は、紅葉のてんぷらを揚げていて、


 冷えた身体に優しそうなのでさっそく買って二人で食べることにした。


 「これから登るのかい?」


 優しい雰囲気を纏った自分の母親位の女性の店員さんは、微笑みながら聞いた。


 「はい!今日学校が休みになっちゃって。彼の提案で滝を見にく事にしました!」


 「それは寒いのに大変ね。彼も、彼女に無理させちゃだめよ。」


 そういって店員さんは、もみじまんじゅうを一つ彼女にあげた。


 「あの・・・実は、」


 「さ、ここに長居は出来ないわ。向かいましょう。」


 「そうね。これからまたひどくなるって天気予報だったから、行くなら早くね。気を付けてよ。」


 「はい!ありがとうございます。」


 なんだか知らない間に悪者にされたような気もしたけど、もう気にもならなかった。




 降る雪が積もった雪にまた積もる。その音が聞こえそうな、静かな道が暫く続いて、


 ゆっくりと山道を登るうちに身体が暖かくなるのを感じていた。



 紅葉の季節なら真っ赤であろう山の木々は、枝も見えない程に雪に覆われて白く光っていた。


 川の音に驚いて木から落ちた雪が川に落ちてまた音がして。


 経験のしたことの無い景色と音に包まれながら、僕らは滝に向かっていた。


 「晋二君、少し止まって休憩しない?」


 「ん?ああ、滝までもう少し距離がありそうだし。」


 そう言うと由夏は、恐らくバレンタインチョコが入っているであろうリュックを下ろして、


 それを僕に渡した。


 「ごめん、ちょっとそれ重たいから持ってて。」


 「え?」


 そして由夏は、コートのポケットに手を入れて、小さな箱を取りだした。


 「チョコ食べよう。」


 「チョコ?」


 「そうよ。何?チョコ嫌い?」


 「いや、そうじゃなくて。」


 由夏は取りだした緑色の箱の点線部分を切って開いて、


 小さなロケット形状のチョコを僕に一つ手渡した。


 「たけのこの里???」


 「え!?きのこの山の方が良かった?!」


 「・・・うーーん、そうじゃなくて。」


 なんだか色んな事がカスってカスって、何とも言えない感触だ・・・とか考えた時だった。


 「きゃー!!」


 「うわーー!!なんだ??」



    シンジとユカのまえにサルが二匹あらわれた!



 「たたかう」か「逃げる」かのコマンドを選択している最中に、


 サルは僕らの大事なたけのこの里を奪って木の上の方まで一気に駆け上った。


 まるで僕らをバカにするように、サルは仲間を呼んでたけのこの里をシェアしていた。


 「何やってるのよ!晋二君!」


 「え、いや、ゴメン。そりゃ、お猿さんもいるよね。」


 「もう、せっかくのバレンタインチョコだったのに。」


 「??そうなの?」


 無表情な由夏にスカされて、僕らはもう一度歩き始めた。


 そこからしばらくは、なんでも無い話をした。


 学校の事、植村の事、文化祭の事、修学旅行の事・・。



 高校生活の最初に会っていたのだけど、


 高校生活の最後に出ったような不思議な人。由夏。


 人が人を大切にするというのがどういうことか、


 どれくらい大切なことなのかを考え始めるきっかけだったのかもしれない。



 少し登り坂が急勾配になってからほんの少し行った所で、


 僕らはとてつもなく大きな音を聞いた。


 何かが何かにぶつかる音。大きな塊が地面に落ち続けるような、


 そんな箕面の大滝の音だった。


 雪と滝。ただそれだけが見える景色。


 寒空に呼吸をするように、流れ落ちる水から白く湯気が出ていた。


 細かい理屈は意味がないし、考えようとも思わなかった。


 ただ僕らは、その瞬間にしか出会えない奇跡を感じていた。


 

 たしかに、近畿地方にこれだけの大雪が降ったのは、


 少なくとも平成の時代にはこの日だけだった。



 しばらく滝と会話をしてから、僕らはゆっくりと駅まで引き返すことにした。


 途中、山道の脇にあった喫茶店に寄って身体を少し温めてから


 僕らは家路についた。



 能勢口駅まで帰って来ると、朝来る時よりも人が随分増えていた。


 「晋二君、コーヒー奢ってくれてありがとう。」


 「ああ、別に・・。」


 「少し寒かったけど、最高だったわ。」


 なぜか少し嬉しかった自分が不思議だった。


 「じゃあね。」


 そういって由夏は雲雀ヶ丘花屋敷方面に帰って行った。






 ????



 

 「このリュック。。の中身は貰っていいの???」


 声は届かなかったけど、中身は貰った。


 

 コーヒーも僕らに微笑んでいた時期だった。



 次回 #11.「短い季節の忘れもの。」

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